第3話

back or enter③


「マジで救急車を呼ぼうかと思ったよ」

赤松君はモンハンに電源を入れながら言った。

「ワキちゃんは弱いのにね…矢吹さんは何事にも本気だから怖いよね」

空雄は笑っている。

「でも、もう三日もワキ来てないよ」

「だね…動けないんじゃないかな」

空雄と赤松君はモンハンを始めた。

「矢吹さんは今日いないのかい?」

 滅多に口をきかない磯野が言った。

「今日は新潟に行ってるらしいよ」

「今日は差し入れは俺がするよ」

「いいの?」

赤松君が言った。

「親が小遣いくれたから皆で分けよう」

「やったね!俺が行ってくるよ」

空雄が珍しく手を上げた。


 その日は磯野の奢りで皆で夜食とお菓子と飲物を買い込んで、モンハン大会をしていた。


 次の日ー。


「なんじゃこりゃ!」

教室は食いカスやら飲みかけやらがそのままで宴会の後になっていた…。

 俺は他の先生が来る前に掃除をした。


 掃除を終えて一人づつ電話した。


「赤松君!すぐに来い」

「えぇ忙しいっす」

「直ぐに来い」


「空雄!すぐに来い」

「なんすか眠いっす」

「直ぐに来い」


「ワキ!すぐに来い」

「俺は身体が痛くて昨日行ってないですよ…」

「直ぐに来い」


「神村君!すぐに来い」

「はい!」


「磯野!すぐに来い」

「…」

「来い!」


「雄介!すぐに来い」

「用事あります」

「直ぐに来い」


「田端!来い」

「空雄から聞きましたよ。皆呼び出されてるって、なんかあったんすか?」

「早く来い!」


「佐藤仁!教室に来い」

「俺もですか…」

「そうだ!来い」


「細田!来い」

「今向かってます」

「よし」


「祐二!わかってるな?」

「細田さんと亮一と向かってますよ」

「祐二と細田と亮一な!」


「ヒロ!来い」

「バイトっす」

「何時からだ?」

「昼っす」

「今、八時!来い!」


「崇!来なさい」

「…あの…」

「なに」

「もう居ます」

「よし」


校長室を開けると教室には全員いた。電話を持っていない奴もいた。

「皆おはよう!晴夫、小林くん、永野、栗田は電話無いもんな!よく気付いたね」

「皆に呼ばれました」

「昨日教室汚して帰ってすみませんでした!」

ヒロが言った。

「昨日は楽しかったか?」

「はい!」

「汚すのなんてかまわない!気が付いた奴が掃除すればいいだけだ!全員呼び出したのはさぁ…たまには先生方が来る前に全員揃ってるところが見たかっただけなんだよね」

全員「はぁ!」という顔をしている。

「ワキ!大丈夫だったか?」

「まぁ…痛いけど大丈夫っすよ…次は負けないけどな」

脇阪君は微笑んでいる。


 今、此処に孤独を感じている奴は居るのか…。

 今、この瞬間に悲しみを抱えている奴は居るのか…。

 重い荷物を背負った奴等を朝陽が照らしていた。

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