第2話
back or enter②
神村くん
食堂にてー。
「矢吹さん!聞いてくださいよ」
神村くんは小さくて人懐っこい二十歳ー。家庭内暴力、妹にイタズラした経歴を持つナチュラルハイの男の子である。
「なに?」
「ニルバーナ弾けるようになりましたよ」
「おお、すごいじゃん!」
「今度聞いてくださいよ」
「良いよ」
神村くんはニコニコしながら、丼に飯、味噌汁をかけてそこにコロッケを乗せて漬物を乗せてふりかけをかけてソース醤油マヨネーズをかけて食べている。
「お前汚いよ」
「腹に入ったら同じです」
「同じじゃねぇよ!それ汚物って言うんだよ」
「…全部乗せです」
「…それ、残すなよな」
「はい」
矢吹は先に食事を済ませて仕事に向かった。
ワインを飲んでからベッドに入りウトウトしているとドアが勢いよく開いて神村君がギターを抱いて入ってきた。何も言わずにニルバーナを弾き始めたがイントロを繰り返しているだけで曲が進まない…。
「ちょっといいか?」
神村君は夢中でギターを弾いている。
「おい!」
神村君は無視している。
「こら!止めろ!」
ようやくギターを弾くのを止めた。
「何ですか?」
「何ですか?じゃねぇよ…イントロから進まないじゃねぇかよ」
「耳コピです」
「そうじゃねぇよ。曲が進まないのを指摘してるんだよ」
「そんな事言うなら矢吹さん弾いてくださいよ」
「なんでだよ!」
「真面目に聴いてくれないなら、もういいです」
神村君はご立腹で部屋から出ていった。
俺は舌打ちしてベッドに潜り込んだー。
翌日ー。
神村君が挑戦状を渡してきた。夜の10時に裏の公園でタイマンしろと書いてあった…。
「彼、昨日教室でギターを弾きまくって空雄に殴られてましたよ」
赤松君が困った顔で言った。
「それでなんで俺に挑戦状なわけ?」
「矢吹さんを越えないとならないとか言ってました」
「わけわからないけど…挑戦状を渡された以上は受けてあげないとね」
「いやいや、何言ってるんですか…大人気ないですよ」
「ちょっと赤松君…肩を揉んでくれないか?夜のために身体をほぐしておく!」
「マジですか?」
「赤松君は立会人ね!何かあったら救急車呼んであげてね!」
「本気ですか?」
「本気です!君達とは本気で向かい合ってるからね」
赤松君はひたすら困っている…。
夜十時ー。
名も無き公園…。
俺と立会人赤松君、なぜか脇阪君もいる。神村君がいないー。
「コーヒー飲もうか?」
「俺買ってきますよ」
脇阪君が手を出してきた。俺は小銭入れを渡した。
「神村君…忘れてるんじゃないですかね?」
「え?」
「あいつよく忘れるから」
「マジかよ!赤松君電話してみてよ」
「いいっすよ」
赤松君は神村君に電話した。すぐに切った。
「矢吹さん…やっぱあいつ…忘れてました。すぐ来るとのことです…」
「何それ…なんか俺がチャレンジャーみたいになっちゃったじゃん」
「ですね」
「…」
俺はタバコをくわえた。
三人で缶コーヒーを飲んでいると神村君が現れた。
「けっこう待ちました?」
神村君はニコニコしている。
「待ったよ!」
「寒いから早くタイマンやりましょう!」
「なんだ!その軽いノリは!タイマンって知ってるのかよ!」
「知ってますよ!やるんですか?やらないんですか?」
この変な空気にだんだんと怒りが込み上げてきた。
神村君にレバーブローを食らわした。腹を抱えてるところに髪を掴んで顔面に膝蹴りを一発ー。神村君は崩れ落ち地面にのたうち回っている。
「レベルが違いすぎる」
赤松君がコーヒーを吹いている。
俺はのたうち回っている神村に蹴りを入れ続けた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
神村君が謝り始めた。
「降参か?」
「はい!ごめんなさい!」
「よし!」
俺は神村君を起こして砂を叩いてやった。神村君は鼻血を出しながら泣いていた。
それ以来、神村君は俺を“師匠”と呼ぶようになった。
一週間後ー。
俺のデスクの上にまた挑戦状が置いてあった…今度は脇阪君からであった…。
「マジかよ…めんどくさいことになってきたぞ!」
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