8 天界の門
「そこの二人、待てい!」
国道をずっと登っていくと、灰色の石造りの城門があった。
ここを突破すれば、第二天に入る。
雷のとどろくような声と共に現れたのは、2匹の鬼だった。
1匹は赤い肌で頭には角が1本。
もう1匹は青い肌で角が2本。
2メートル以上の身長で、眼も髪も金色。
重装備で武装しており、手には身長と同じぐらいの長さの槍を携えている。
伝説に出てくる赤鬼&青鬼どんだが、よくよく見ると彫りの深いはっきりした顔立ちで、わりと美形である。
「ラクシャーサ族かあ。
番人におあつらえ向きかも。
あるじ様、大丈夫。
彼らは単なる公務員ですから」
ガマゴンがそうつぶやき、わたしと手をつないで進んだ。
初めて見る鬼は、やはり迫力があってコワイ。
「こんにちは!
ぼくたち、第二天は帝都アマラヴァティに行く予定です」
鬼たちの目が光った。
鑑定眼っぽいスキルでも使っているのだろうか。
正体がバレたらどうしよう・・・?
しかしわたしの不安をよそに、鬼の声はやわらいだ。
「ふむ、デーヴァ族の子供二人連れか。
しかも、上天の出身とみた。
通っていいぞ」
槍を後ろに隠し、退いてくれる。
「そうそう、聞きたいことがあるんだが」
青鬼が声をかけてきた。
手に紙を持っている。
「見てみろ、この手配書。
なんでも、ナンダ龍王の第二王子が妹に殺害されたらしい。
エリスとかいう女で、赤い瞳の6歳児ということだ。
見覚えはあるか?」
思わず飛び上がりそうになり、ガマゴンにそっと抑えられる。
元ペットは冷静な声で、いえ知りませんと言った。
「ぼくたちはしがない天人ですし。
お姫様とお会いできる境遇じゃないのでね」
「お、おう、そうか。
じゃ、道中お気をつけて」
青鬼は納得した。
「にしても恐ろしいよな。
赤い瞳といったら、魔の者じゃねえか!
天上界をぶっ壊すかもしれねえ・・・」
ぶるぶる震えながら、門の方に戻っていった。
「わたしが殺人犯になってる!」
しばらく歩いた場所で、わたしは叫んだ。
「あるじ様、しっ!」
ガマゴンは周辺を見渡し、人差し指を口に当てた。
「誰かに聞かれたらまずい。
ラクシャーサはともかく、デーヴァの感覚は鋭いので。
にしても、龍王は汚い手を使いましたね」
「わたし、忌み子なのかな」
地球のものとは似ても似つかない、薄黄色い空を見ながらわたしはつぶやいた。
ラノベ好きで、いつも異世界に行くことを夢見ていた。
自由に魔法を使い、ギルド会員として働いてみたかった。
ところが、実際行ってみたところ、自分は(美少女になれたのはいいとして)赤い瞳の幼女で、みんなに嫌われて、最後に犯罪者の濡れ衣を着せられている。
ガマゴンはこちらを振り返り、かぶりを振った。
「あるじ様は忌み子なんかじゃありません。
ぼくたちの・・・いや、ぼくの大切な女神であられます」
「人間が神になれるわけないっしょ。
わたしは単なる人間の女だよ。
チートスキルなんか持ってないし、何の才能もとりえもない平凡な、ね」
「あるじ様・・・」
ガマゴンは緑色の瞳(ヤクシャの緑の目よりもずっと透き通っている)でじっとこちらを見、しばし黙った。
「ねえきみたち、どこまで行くの?」
後ろから誰かに声を掛けられた。
びっくりして振り向くと、二人の男の子がいた。
どちらともオレンジ色の髪と青い目をし、背には灰色の翼が生えている。
15歳ぐらいにみえた。
「ん?
ガルーダ族を見るのは初めてなの?」
わたしはうなずいた。
少なくとも、ならず者でないガルーダを見たのは初めてである。
それぐらい、目の前にいる鳥人間と龍宮を襲っていたならず者は違っていた。
「そっか。
ぼくたち、アマラヴァティに行くつもりでね」
「叔母さんの店で修行させてもらうんだ」
二人はかわるがわる話した。
気さくで感じが良い。
彼らは双子で、フィリとヴィリ、と名乗った。
そっくりだが、ヴィリの左頬に小さな小さな星形の模様がある。
「子供だけで山登りはちょっと危険じゃないか?」
フィリが心配そうに言う。
「どうして?
国道沿いに行けば、安全でしょう?」
ガマゴンが言うと、彼らは首を振った。
「きみたち、ここの者じゃないから知らないんだな。
国道が安全だったのは、昔の話さ。
近頃は魔物がよく出るらしいよ。
先日も旅の天女が3人、やられたとか」
「だから、アマラヴァティに行くんだったら一緒に行こう」
ヴィリが元気よく言った。
背中の翼も元気よくぱさぱさしている。
もしかして西洋の天使って、ガルーダ族をモデルにしているのかもしれない。
女性のガルーダに会ってみたいな、とも思った。
「おれたち、足手まといになるかもしれないから遠慮しとくよ」
わたしがそう言うと(声まで男の子っぽくなっている!)、双子は笑い出した。
「お子ちゃまはそんなこと言うなよ」
「そうだよ、ぼくら兄弟の力を頼りたまえ」
「なにせぼくたちは・・・」
そして声を合わせて言うのだ。
「未来の勇者、パンチャカ兄弟っ!」
「で、ではぜひご一緒に・・・」
ガマゴンがあきらめたように言うと、ガルーダたちはにっこりした。
その後国道でスライム型の魔物が数体出たのだが、すべてガマゴンが始末した。
パンチャカ兄弟はといえば、勇ましい声とは裏腹に腰が抜けてしまい、使い物にならない。
「つ、次こそはぼくらの出番だ・・・」
「次は・・・な、無ければいいけどね・・・」
フィリ&ヴィリが膝をがくつかせつつも強がっている。
なるほど。
わたしたちに守ってもらいたくて近づいたのだろう。
未来の勇者とかいってるくせに、このヘタレっぷりである。
とはいえ、彼らは割と情報通で興味深いことを教えてくれた。
「きみたちもし腕に覚えがあったら、闘技園にいけばいいよ」
フィリが言うと、ヴィリも続けた。
「モンスターを狩って技量を高めることができる場所さ。
噂では、最後まで攻略したら・・・天帝自ら賞をくれるとか」
「どんな賞かな?
ぼくはそうだね・・・かわいい女の子とデートしたい。
デーヴァ族の小柄な子と」
フィリが言い、ヴィリはにやりとした。
「ぼくはアプサラス族の子と付き合いたい。
金髪の子が大好きなんだ。
デーヴァはきれいだけど、黒髪ばかりだからね」
「ああ、それなんだけどさ」
フィリは羽をやや持ち上げ、目をきらめかせた。
「最近、アマラヴァティはベビーブームらしいよ。
デーヴァ族の子供がたくさん生まれてるって。
ところがその子たちは、いろいろな目や髪の色をしてるらしい。
聞くところによると、インドラ様の後宮にピンクの髪で紫色の瞳の天女がお輿入れしたとか・・・。
デーヴァ族で、ピンクの髪の毛だよ!?」
「やっぱりデーヴァ族最強か。
どうやって口説くべきかなあ」
とまあ、調子がよくて能天気な鳥兄弟のナンパ話を延々と聞かされることとなった。
わたしはかねてより思っていたことを言ってみた。
「ねえお兄さんたち・・・」
「何?」
「何だい?」
「どうしてさ・・・。
翼があるのにどうして飛んでいかないの?」
双子は顔を見合わせた。
「ぼくたちはね・・・」
フィリは神妙な顔つきになった。
「飛行性の魔物が怖いから!」
ヴィリが答えた。
二人で顔を見合わせ、うなずいている。
ガマゴンがあきれ顔だ。
「路上でも魔物が出たでしょう?
飛行性の魔物って、そんなに怖いの?」
「少なくとも、今のぼくたちでは敵わない。
カーラスースなんて出た日にゃ、身の終わりだよ。
まあなんだかんだで、地上の魔物の方がレベルが低いからね」
「ギルドの冒険者でも苦戦するらしいよ。
国道を守ってる兵隊?ありゃダメだな、給料泥棒さ。
魔法が得意な奴がやってくれればいいんだけど、あいにく・・・」
「魔道アカデミーの連中はプライドが高いからね。
どうも、魔法量の多さと傲慢さは正比例するらしい」
彼らの言葉に、やっと納得した。
にしても、冒険者ギルドってあるんだな。
「まあ、小銭稼ぐにはいいかもね。
配達の仕事なんかもあるし、初心者でも大丈夫」
フィリの言葉にヴィリも続ける。
「うちの国にも支部があるよ。
まあ、公務員の負担を軽減するために作られたそうだけどさ。
・・・ぼくたちには関係ない場所だけど。
酒が大好きで喧嘩も好きで受付のかわいこちゃん大好きな奴らには合ってるよ。
それよりも薬屋が一番!」
どうやら薬屋の息子たちらしい。
その他、王立魔道アカデミーという魔法学校があるということ、帝都は20区に別れていること、インドラ神はドスケベで女に溺れ政治を行っていないこと、治安が多少乱れていることを教えてもらった。
「きみたち、大きくなったら20区に挑戦しろよ」
フィリが青い目を怪しく光らせて言った。
「あそこにはいい場所がある。
・・・闘技園よりずっといい場所さ。
かわいい女の子がたくさんいるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます