第二章3  『代表選手選抜大会1』―発―

 

 剣術大会への出場権を巡る《代表選手選抜大会》も、気付けば残り三日となっていた。

 今日はしっかり時間通りに来たミラ先生は、ホームルームが始まると同時に、一枚の紙を正面のボードに貼り付ける。


「三日後の《代表選手選抜大会》のトーナメント表が完成した!ホームルームが終わったら、各自で名前を探しておくように」


 よく見ると、ミラ先生がボードに貼り付けた紙には、トーナメント表らしきものが書かれていた。

 よく目を凝らして見てみると、百人いる生徒を大きく二つに分断したトーナメント表である事が分かる。


「準決勝まで残った四人が、代表選手に選ばれるの皆も知っていると思う。だが、五人目の代表選手についてはまだ言ってなかったな。 五人目の選手は、準々決勝まで勝ち残った者達の中から学院側が独断と偏見で決める事になっている」


 元々の学院の方針なのか、レグルス学院長が勝手に決めたことなのかは定かで無いが、五人目は学院側で決めるようだ。

 五人目を選ぶときの着眼点なんかを聞きたかったコウだったが、ミラ先生はまだ言葉を続ける様だったので、自重する。


「分かっていると思うが、この大会は遊びではない、本気の勝負だ。しかし、だからと言ってお前たちに無理をしろとは言ってない。身体を壊すなよ」


 忠告にも似た言葉を、ミラ先生は投げかけた。

 ついこないだ、技を覚える為に身体を酷使したコウは、何かを誤魔化すかのように姿勢を変える。


「それじゃあお前たち、試合を円滑に進める為にも、大会の詳細を確認しとけよ〜」


 ミラ先生はホームルームを終わり、次の授業の支度の為か、ささっと教室を出て行く。

 また、それを合図にクラスの皆がボードの前に行き、トーナメント表を見ようとし始めた。


「誰が相手になるのかな?流石に同じクラスの人とは当たらないように工夫されてる筈だけど……」


 コウが胸を弾ませながら呟くと、


「そうだね。僕の対戦相手は、シリウスって言う名前の人だったよ」


 アルが「どんな人なのかを今度確かめてみようかなぁ……」などと言うことも付け加えて呟やきながら、コウに話かける。

 コウは相槌を打ちながら、自分の対戦相手を探した。


「確かに。相手の戦い方とか癖が知れたら良いよな。 俺の初戦の相手は……、セルパン・レプタイルか、ヘェリエラーのどっちかになるのか。初めて聞く名前っていうことは、やっぱり他クラスの人みたいだね」


 コウの名前はトーナメントの左側の下の方にあった。左上から順に数えると、38番目の所だ。

 そして、コウはシードだったため、優勝するには6試合勝てばいい。


「あぁー……そういうことか。首席で入学したコウと一試合から当たると色々と問題があるから、コウはシードなのか」


 コウが優勝までの道筋を考えていると、何かを理解したかのようにアルが呟いた。


「それって下手したら、俺がまるで悪いみたいな言い方になってない?」


「いやでも、実際にコウと一試合に当たったら、人によってはやる気失うと思うよ」


 ……やっぱり、そんなものなのかなぁ?


 ――やはり首席という立場は、皆から一線を引かれてしまうような立場なのか。

 コウの頭の中で、疑問の泡がぷつぷつと湧く。


「……でもさ。 僕はコウと戦いたいと思ってるよ。たとえ今の僕じゃ勝てなくても」


「――え?」


「僕はトーナメント表の右上で、コウは左下。正反対の位置にいる僕たちは、決勝まで勝ち残らないと戦えない」


 もしアルと当たるには、決勝まで勝ち残らないといけない、という事実を知ったコウは驚く。大会特有の空気感の中で、一度アルとは対戦してみたいと思っていたのだ。


 アルの残念そうに微笑む姿が、印象深く記憶に残る。



 ――丁度、コウたちは次の授業の為に、訓練場に行く必要があった。自分の名前を見つけた者から、ぼちぼちと移動を開始している。


「そうだな……。じゃあ、軽く模擬戦でもしてみるか?今日」


 コウなりに考えた案を提案した。

 何だか辛気臭くなったこの空気を変えようと試みる。


「そう、だね。ミラ先生から教わった技が、実戦でも活かせるのか試してみるよ。確かコウもあの技を習得したんでしょ、僕に見せてよ」


「了解。それじゃあ、訓練場に移動しようぜ」


 互いに決勝まで勝ち残ることが出来たなら、試合という場で戦うという夢は果たされるし、もし勝ち残ることが出来なくてもまた別の機会がある筈だ。


 コウもアルも納得した形で、雑談をしながら移動を始めた。

 そしてまた、訓練場に来た二人は気持ちを引き締め直して、己の剣の高みの為に真剣な表情に切り替わる。



 ――間もなく二日が過ぎ、怒涛の選抜大会が始まろうとしていた。

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