第二章4  『代表選手選抜大会2』―発―

 

『第一試合、――開始!』


 競技場には八つのコートがあって、開始の合図が掛けられると同時に各々の始まり方をした。

 計百名の生徒が集まるこの競技場の観客席で、コウはその始まりを見つめる。シードであるコウは、自分の番までかなり余裕があるのだ。


 自分と戦うことになるかも知れない二人の試合は、意外とコウから見やすい所で行われている。コウは情報収集の意でその試合を眺めていた。


 ……パッと見た感じだと、セルパン・レプタイルと言う人の方が押してるな。


 セルパン・レプタイル。少し長めの紫紺しこんの髪を後ろで纏めていて、身長は高めだ。身体は少し細めだが、動きの冴えがそれをカバーしている。

 フェリエラーという対戦相手に、絶え間なく攻撃を与えていた。


 ……セルパンの剣気は……『毒』か?

 ……紫に輝く剣気が少し濁った色をしてる。


 セルパンの剣気は鮮やかに輝く紫色――ではなく、禍々しさの入り組んだ濁った色をしていた。

 そうと決まった訳ではないが、もしセルパンの剣気が毒の効果をもたらすのなら、攻撃を喰らうべきでは無い。

 毒で弱って負けたら元も子もないし、仮に勝てても今後の試合に響いてしまう。


「要注意だな……」


 第六試合でコウの試合が行われる。

 控え室があるため、その試合の少し前からそこで心の準備をしたい。そこに移動の時間も付け加えると、あまり悠長に対策を練っている訳にはいかなそうだ。


「控え室に行くことを考えると、アルの試合は見れなさそうだな……。結果だけ後で聞いておこうかな」


 アルの試合は三試合目。

 それを最後まで見てから控え室に行くのは、時間的に少し厳しい。アルの勝敗によって精神が揺らぐのも、最初の試合前ではあまり良くないとも言える。


「アルはもう控え室に着いたかなぁ〜」


 試合をするところの近くに控え室があって、そこで剣の手入れをしたり身体を休めたり出来るため、アルは控え室に行っていた。



 キン、キン――!!


 会場で鳴り響き続ける剣戟。

 フェリエラーという人はどうやら、既にセルパンの毒を受けていたようで――、


 ――セルパン・レプタイルとフェリエラーの試合は、セルパンの勝利で幕を閉じる。



 * * *



「これより、セルパン・レプタイルとコウの試合を開始する。――始め!」


 試合会場に開始の合図が鳴り響く。

 腰に提げていた剣の鞘から刀身を抜き出し、コウは正面にいる相手――セルパンを見据えた。

 セルパンも同じように剣を抜き出し、風で髪を靡かせる。


 二人は正眼の構えを取り、15メートルの間隔を保ったまま、動き出さないでいた。

 セルパンは首席を相手にするという緊迫、コウは初戦への緊張、と言ったところだ。


 無言で駆け引きをするコウたちは、互いに出方を見極める。


 ……でも、これじゃあらちがあかない。


 先に痺れを効かしたコウの方で、剣の間合いに入るべく、動き出す。

 すると、コウが動き出したことに気づいたセルパンは、コウが一足一頭の間合いに入るのと同時に剣を振った。


 キン――ッ!


 鋼と鋼がぶつかり合い、共鳴する。


 セルパンが距離を取ろうとしても、コウはそれを見逃さない。再び間合いを詰めて、幾度と攻撃を重ねた。


 ……確か、勝負の決着方法は、相手を戦闘不能にするか、相手が降参するかだったな。

 ……まあ、戦闘不能にすると言っても過度にダメージを与えるのは良くないし、細かいルールはあるけれど……。

 ――やる事は決まった!!


 だんだんコウの身体も温まってきて、腕の動きが加速する。手数を増やしていくコウの攻撃は、セルパンに反撃の手を与えない。


 はぁ、はぁ、はぁ……。


 セルパンは防戦一方となり、コウの攻撃を必死に防ぐその目はうつろだ。荒い息遣いになっていることからも、彼の疲労は相当なものとなっているだろう。

 避けたり受け流したり、機転を利かせて対応しているものの、だんだんギリギリになっていた。受けが間に合わなくなるのも時間の問題と言える。


 セルパンとコウでは、基礎体力が違った。


 耳を澄まし、セルパンの呼吸の乱れを察したコウは、そろそろ潮時だと結論付ける。

 コウは攻撃の手を止めて、セルパンから距離を取った。


 ……恐らく彼は、自身の体力がもう限界だということに気づいている。

 ……だからきっと、全力を振り絞って次の技を繰り出してくる筈だ。


 コウ自らが与えた攻撃の機会チャンス。セルパンがそれを手放す筈が無い。

 ――だからこそ、が効く。


 呼吸を少し整えたセルパンは、剣を固く握り締め、蛇のように鋭い視線をコウに向ける。

 剣に纏われる紫色の剣気が、禍々しく色付けられた。


 セルパンは地面を強く蹴り、コウのところまで一気に間合いを詰める。だが敢えてコウはその場で立ち尽くす。


 ……3、2、1――。


「〝蛟竜毒蛇こうりょうどくだ〟――ァ!!」


 間合いに入ったセルパンは、怒涛の勢いで剣を振り下ろす。その剣に纏われる剣気からは、禍々しい毒のような危なさを感じる。

 身体を掠めるだけで危険そうだ。


 コウは、それに対応するために、剣で受け止めようとする――、



「……〝影抜かげぬき〟」


 ――フリをした。


 コウは正面から斬り掛かってくる剣に向かって、受け止めると見せかけて、刹那の間に軌道を変える。

 稲妻を描くように軌道を変えた剣は、セルパンの手首を捉えた。

 ……流石に手首を斬るのはヤバいな。


「〝一触即発いっしょくそくはつ〟……‼︎」


 コウは刹那のうちに技を切り替える。剣先に集中して剣力を乗せ、相手の剣の手前部分を突く。


 バリッッ!!


 剣先が触れた瞬間、爆発的に力が爆ぜる。その力は相手の剣にだけ及び、剣はバラバラに砕け始めた。


「――な!?」


「試合終了!勝者、コウ‼︎」


 セルパンは、初めて見るその剣技に驚きを隠せない。焦りや不安を通り越した感情がセルパンの顔を染める。


「はぁ……はぁ……」


 ……まずは1試合目――。


 刹那の間に二つの剣技を繰り出したコウは、息を整えながら剣を鞘に納めた。


「ふぅー……」


 深くて重い、安堵の息を、コウは静かに零す。

 無事、コウの勝利でこの戦いは幕を下ろした。


 *


 安堵の息を吐き出していたコウに対し、敗者となったレルパン・レプタイルは、その場で立ち尽くす。


「くっ……っ‼︎」


 コウの姿を見つめながら、彼もまた静かに負けを噛み締めていた――。

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一から剣術を極めた少年は最強の道を征く 朝凪 霙 @shunji871

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