第一章21 『お別れ』

 


 残りの書類には学院生活についてのことが色々と書かれていた。


 学院内での規則や寮生活のことなど、書かれていた内容は様々。どれも見ていて、とても興味をそそられるものだった。


 しかし、まだこれで入学出来る訳ではない。合格後の手続きをするために、コウは学院に行く必要がある。

 そこでは、学院の制服を受け取ったり、専用の手帳を受け取ったりなど色々なことを行うのだ。


 残りの書類を見てそれを知ったコウは、その手続きを行うべく、学院に足を踏み入れていた。



 *



「すみません、入学手続きをしたいのですが、よろしいですか?」


「はい、新入生ということでよろしいでしょうか。証明のために受験票の提示をお願いします」


「はい。宜しくお願いします」


 受付窓口のような場所にやって来たコウは、受付の女性に声を掛け、手続きをしてもらうことになる。受付の女性は、とても愛想が良かった。


 コウがこの為に持ってきた受験票を提示すると、それを受け取った女性は確認をし始める。

 おそらく、合格者の名簿なのだろう。その女性は、たくさんの受験番号が書かれた紙を広げて見ていた。


「確認が出来ました。コウ、さんで合っているでしょうか。これより手続きを始めさせていただきます」


 数秒かけて確認した女性は、その紙を折り畳み、コウの方を向き直してから告げた。

 どうやら、今から手続きは始まるらしい。


「はい、俺の名前はコウです。宜しくお願いします」


 言い終わったコウが会釈するのを見て、女性は微笑みながら手続きを始めた。


「それではまず、学院の制服についてからね。服のサイズを教えて下さい」


「服のサイズはMです」


 身長は確か、165センチよりも少し高いくらいで、服のサイズはMサイズである。


 コウが服のサイズをサイズを答えると、「ちょっと待ってて下さい」と言った女性は、奥の方から何かを持ってこようとした。


「はい! これがアストレア剣術学院の制服です。しっかり貴方のサイズに合うように選んできました。何か着てみて不備があったら教えて下さいね」


「ありがとうございます!」


「はい!」という掛け声と共に、女性はさっき取り出してきた制服をコウに手渡してくれる。


 逸る気持ちを何とか堪えながらもコウが感謝の気持ちを伝えると、女性は軽く微笑みながら次の話題に移った。


「次は、剣ですね。生徒の皆さんには、この学院だけの剣を渡すこととなっているので、是非受け取って下さい」


 また席を外し、奥から剣を取ってきた女性は、今度は剣を手渡してくれる。

「ありがとうございます」と言いながら、コウはその剣を右手で受け取った。


 剣を受け取ったコウは、剣の確かな重みを感じながらも、その剣をその場で帯刀してみせる。

 そして、白色と金色でデザインされた鞘から、コウは剣を抜き出した。


 キ――ンという音を響かせながら、その輝かしい刀身が姿を現す。

 光沢があり、鋼色に輝くその刀身は、日光を浴びてるのもあって、より光り輝いて見える。


 コウが剣を傾けていくと反射する光も伴って動き、剣先を天に向けるのと同時に、剣先の一点が眩いほどに輝いた。


「おお――‼︎ ……これはとても良い業物ですね」


 コウの口からは思わず感嘆の声が溢れる。


 剣の鍔と柄は黒色と黄金でデザインされていて、その金色に輝く柄を力強く握り締めたコウは、剣を鞘に納めた。


「――それでは、次の話に移ってもいいですか?」


「はい、宜しくお願いします」


 そして、女性に促されたコウは、その後も色々と手続きを済ませていった。



 * * *



「うん。よし……‼︎」


 コウはおばちゃんから借りた姿見の前で、見出しなみを整えていて、それもついに終了していた。

 最後にパパッと服を払ったコウは、今一度、自分の姿を確認する。



 黒色の服の上からは白を基調とした服を着ていて、下はベルト付きの白いズボン。首元には群青ぐんじょう色のネクタイを付けている。


 肩部分と腕の紋章がある部分は黒色で、紋章は剣をクロスした絵だ。クロスされた二つの剣は、どちらも黄金のように輝いている。


 腰には剣が下げられていて、剣を納める鞘に刻まれた学院の紋章は、光を跳ね返していた。



 他の支度も既に整っている。コウは茶革で出来た鞄を持ち、部屋を飛び出した。

 今日は学院初日の日で、入学式が行われる日なのだ。宿に対しての名残惜しい気持ちもあるが、それ以上に高揚感が勝っていた。


 木で出来た床を早歩きで進みながら、コウはそっと剣の柄に触れる。


 ……これから、よろしくな。


 そして、剣を大事に扱い、これからも精進していくことを誓った。



 *



「おはようございます、おばちゃん。手続きをお願いしていいですか?」


「いいわよ!アストレア剣術学院の生徒さん。まさか、アストレア剣術学院に受かっていただなんてね。おばちゃんは驚きだよ」


 別の作業をしていたおばちゃんに声を掛け、コウは手続きのお願いをする。

 すると流石に、受かった剣術学院があのアストレアだとは思いもしなかったようで、おばちゃんは驚きながら言葉を返してきた。


 コウの呼び方を変えてる様子は、どこかからかっているように見える。

 流石にコウも、そう何回もアストレア剣術学院の生徒と言われると、こそばゆく感じた。


「からかわないで下さいよ。俺の名前はコウですよ」


「ごめんゴメン。 ……あっ、そういえば、私の名前は教えてなかったわよね。これも何かの縁だし、教えておくわ。 私の名前は、ガーベラよ」


「ガーベラ……なんだか、勇気を与えられそうな名前で素敵ですね!」


「ふふふ、ありがとう。 ――じゃあ、お別れをしましょうか」


 おばちゃん……否、ガーベラさんの言葉に、コウはハッと息を呑む。


 ……そうか、もうお別れなんだよな。少なくとも、学院に通う四年間は会わないだろうし……。


 学院では寮生活になり、この宿に泊まる必要は無くなってしまう。そう考えると、四年という日々がとても長いものに感じて、さみしい。


 でも――、


「ありがとうございました‼︎」


 どんなに寂しくても、お別れは笑顔でしたかった。

 互いに関わり、話した時間はそう長くない。だけど、だからこそ、別れの時は笑顔のままでいたい。


 コウは、お世話になったこの宿を笑顔で旅立っていった。

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