第一章12 『旅立ち』


 最後は、三つ目の試験『ペーパーテスト』の対策だ。


 テストの範囲は、国語、数学、理科、社会、体育の5教科だ。


 この試験では、基本的な言語の文法、計算能力、自然の摂理、この国の地理と歴史、体の動かし方など、一般的な知識を持っているかが試される。


 正直、勉強するのにあまり乗り気では無かったが、両親の協力もあって、コウは一生懸命勉強することが出来た。


 《時の狭間》での日々で身についた、「継続する力」は、勉強にも生かすことが出来ていた。

 今ではもう、自信たっぷりとまではいかないが、ある程度の自信はついてきた。


 特に暗記の分野では、両親の協力はかなり役立った。二人がいたからこそ、コウはここまで頑張れたのだと思っている。

 毎晩、コウは机に立ち向かい、必死になって勉強を続けていた。


 うっかりそのまま寝てしまった時には、いつのまにか毛布が掛けられていて、コウはいつも温かい朝を迎えていたのだった。



 * * *



 ――そして、ついに旅立ちの日がやって来た。


 コウは村の出口まで来ていて、両親と村の子供たちに見送られようとしていた。


「……父さん、母さん、そしてみんな、もう行くね」


「ああ、気をつけて行ってくるんだぞ。合格した時には、手紙を宜しくな」


「いってらっしゃい、コウ。四年以上も離れ離れになると思うと寂しいけれど、待ってるからね」


「母さん、まだ合格したわけじゃないのに、それは少し気が早いんじゃないの……」


 コウがもう行くことを告げると、両親は涙を目に浮かべながらも、優しく言葉を掛けてくれた。


 コウは目尻が熱くなるのを感じながら、微笑み、子供たちの前でしゃがんで、目線を合わせた。

 親を失ってしまったこの子たちが、元気でいてくれることを願いながら、コウはもう一度微笑む。


「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」

「絶対、絶対帰ってくる?」


 すると、どこか不安そうな様子で女の子と男の子が話しかけてきた。

 コウは、笑いながら言葉を返した。


「きっと、また四年後くらいにはこの村に戻ってくるから、心配しなくていいよ」


「本当に?」

「ホントのホントに?また、剣を教えくれる?」


「あぁ、また剣を教えてやるから、俺もビックリされるくらいに元気に育ってくれよ」


「うん、頑張る!」

「僕もお兄ちゃんみたいに強くなる!」


「約束、だな」


「うん、約束!」

「約束、約束!」


 コウは、女の子と男の子の二人と、指切りげんまんをして、『約束』をした。

 そして最後に、両手で二人の頭を撫でてから、コウは立ち上がる。


「――じゃあ、行ってきます‼︎」


「いってらっしゃい」というみんなの声を聞きながら、コウはみんなに背を向けて歩き始める。


「コウ!最後に伝えておきたいことがあった!」


 だが、父の声を聞き、コウは足を止めて振り返った。


「俺の家にも、実は家名があるんだ。 家名は、ゲニウス。ゲニウスだ! 残念ながら、意味は分からないけど、もし何か機会があったら聞いてみてくれ‼︎」


「分かった!」


 なかなか衝撃的で唐突な告白だったが、コウはしっかりとそれを受け止めて、返事を返した。

 今度こそ本当に最後に、コウは朝日に照らされ始める村を一目見て、前を歩き始める。


 ――試験に向けた「修行」の日々は幕を下ろし、新たな未来への「旅立ち」が、たった今始まった。

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