第一章13 『入学試験開始』
あれからコウは、最寄りの町まで歩いた後馬車に乗って、王都まで向かい、宿を取り、ついにアストレア剣術学院の入学試験を受けに来ていた。
服装は、私服の分類には入るがあまり派手にならないような服装で、腰には一振りの剣を掛けている。
ちなみにこのコウの服装は、全て王都で揃えたものだ。伸縮性があり、動きやすさを重視した服装となっている。
今は両親から貰ったお金で、なんとか生計を立てているため、なるべく安くて性能が高いのを探した。
しかしこんな生活も、もしアストレア剣術学院に入れれば変わる。
アストレア剣術学院では、最低限の学費で好待遇な生活を送れるようになる為、ここ数日とは生活が大きく変化するのだ。
いくら入るのが難しい剣術学院とはいえ、本来ならば学費はもっと高いもの。
それでも、このような仕組みが成り立っているのは、優秀な生徒を輩出する実績が影響しているからなのだろう。
確か学院側も、学費が払えないせいで、将来大物になり兼ねない生徒が挫折するのを防ぎたいとか言っていた筈だ。
……まあとにかく、今はそんな事よりも。
「おぉ――!凄い数だな‼︎」
コウが試験会場に行くと、そこには既に大勢の人が集まっていて、物凄い人口密度だった。つい、コウは感嘆の声を上げてしまう。
ざっと見た感じだと、受付締め切りまで残り30分の今で、もう三百人程の人が集まっている。
コウは拳を固く握り締めながら、試験が始まるのを待っていた。
*
「皆さーん!注もーく‼︎ 時間となりましたので、僕こと――レグルス・アストレアが試験の説明をさせていただきます‼︎」
試験会場に設置されている時計の太い針が、1時のところを指すのと同時に、一つの声が辺りに鳴り響く。
その声の発信源は、コウたち受験生の正面の台に立つ人物だった。
少し遠くなのでそこまで細かくは見えないが、銀色に近い髪をした男性なのは分かった。
しかし、こんな身体的特徴を確認せずとも、コウは――コウたち受験生ならば、あの人物のことを知っている。
何故なら、彼はこのアストレア剣術学院の
最初の軽い注目の引き方と、中途半端な敬語。にわかには信じがたいが、彼は学院長という事で間違いないだろう。
試験会場は、学院長の姿をその目にした為か、僅かにざわめいていた。
「……どうやら、僕がこの学院の学院長であることを説明する必要は、なさそうだね。じゃあ、サクサク進めていくよ!」
……サクサク進めるって。この場で使うのか、普通?
気になるところもあるが、コウは話に耳を傾ける。
「皆さんも知ってるとは思いますが、試験は二日に分けて行います! 今日実施する内容は、『技の披露』と『試験官との実技審査』でーす!!」
どうやら、今日実施する内容は例年通りのものらしい。ひとまずコウは安堵する。
対策はしっかりしてきているため、後はそれを十二分に発揮するだけだ。
「試験を受ける皆さんへのメッセージは、『緊張せずにアピールせよ!』です。これまでの鍛錬の日々を思い出し、自信を持ちながら試験に挑んでくれると嬉しいです!」
何を思っているのか、笑みを浮かべながら、学院長はコウたちにメッセージを送った。
その様子からは、試験の結果を楽しみにしている学院長の思いが見てとれる。
コウはそんな学院長の姿を瞳に映しながら、これから行われる試験に胸を弾ませていた。
夢に向かって進んでいる、自分があの剣術学院の試験会場にいる、という風に考えるだけで、コウはなんだか元気になれた。
……俺は今、あのアストレア剣術学院に来てるんだ‼︎ あの、落ちこぼれだった俺が、ついにここまで……!
いつのまにか、不安に包まれていたコウの体は、高揚感によって包まれていた。
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