第33話 新たな情報

 結論から言おう。

 パピー、逃げやがった。


 さすがの僕も、パピーが全速力で逃げたら追いつくことはできない。

 どうにか尻尾は掴むことができたものの、物凄く暴れたせいで離してしまった。暴れる力がちょっと強かったのは、パピーのレベルが少し上がった結果だろうか。

 まぁ逃げたから、これ以上強化しなくても良くなったと思えばいいか。


「良かったのか、あやつは」


「逃げたんだから別にいいよ」


 はぁ、と小さく嘆息。

 とりあえずドラゴン系の魔物を作るためには、ドラゴンの血が必要だということは分かった。今後、パピーがわがままを言ってきたときにはこれを通すことにしよう。

 そして、この場に取り残されたのは僕とリルカーラである。


「ふむ。余は別に良いが……ひとまず、ストーンゴーレムを作っておく」


「うん、よろしく」


「――《魔物創造》」


 きぃん、と魔力が渦巻くと共に、大地からストーンゴーレムが生まれる。

 いつ見ても、凄まじい技だ。リルカーラ曰く触媒は石と土塊だけらしいが、それだけで魔物を創造することができる職業――『魔王』は、リルカーラだけなのだ。

 多分、僕の上位職だとは思うんだけど。

 未だに僕のレベル、『魔物使い』レベル49から変わってないし。


「さて、これで良かろう」


「あー……リルカーラ。少し聞きたいことがあるんだけど」


「どうした?」


「……お前は元々、職業『魔物使い』だったんだよな?」


「いかにも」


 リルカーラが、素直に頷く。

 それは元々、僕も知っていたことだ。リルカーラはかつて、パピーに挑んだ魔物使いである。

 まぁ、リルカーラが元々パピーに挑んでくれたから、僕はパピーから色々と魔物使いという職業について教わることができたんだけど。

 そして、リルカーラを仲間にしたとき、遺跡の最下層でも同じ話を聞いた。


「職業『魔王』になれるのは、職業『魔物使い』だけなんだろ?」


「そうだ。少なくとも、余はそうだった。職業『魔王』を引き継いだ瞬間に、余のレベルは50に上がった」


「ふぅん」


「うぬがレベルを上げたいと言うならば、いつでも余を殺して良いぞ」


「できればその選択肢は選びたくない」


 リルカーラの言葉に、さすがに首を振る。

 僕も上位職にはなりたいけど、そのために仲間を殺すとかありえない。だから、できれば職業『魔王』以外での上位職があればいいのになぁ、とは思う。

 今度、マリンに見てもらうことにしようかな。


「ああ、そうだ。リルカーラ」


「む?」


「あと、もう一つ聞きたいことがあるんだけど……お前の先代の魔王って、何?」


「ああ、ミュラーだ」


 パピーから、僅かに聞いただけの名前。

 だけれど僕にしてみれば、とても聞き馴染みのある名前だ。

 やっぱり、という気持ちは少なからずあるけれど――。


「元より、今はミュラー教がこの世界における最大派閥の宗教となっている様子だが……余が魔物使いとして活動していた頃は、邪教の一種だった」


「そうなの?」


「そうだ。かつては魔王であるミュラーを神と認定し、魔王に対して生贄を捧げていたとされる部族の中にあった宗教だ。それが今や、大陸を席捲する一大勢力になっていることには、正直驚いたな」


「……」


 ミュラー教。

 僕はその成り立ちについて、詳しくは知らない。何せ僕が生まれた頃には、既にミュラー教が自分の『天職』について教えてくれるのは当然だったし、近くには当然のようにミュラー教の教会があった。

 だから、そこに疑問なんて抱くことはなかった。

 まさか、ミュラー教の主神――聖ミュラーが、先代の魔王だなんて考えもしなかった。


「というか……『天職』を与えてくれるのは、ミュラーなんだろ?」


「知らぬ。余が生まれたときには、既に『天職』は存在した。余のときには、精霊の声が教えてくれるという形だったな」


「精霊……」


「精霊の声が教えてくれるという者もいたし、神の声が教えてくれるという者もいた。詳しくは余も知らぬ」


 ふむ。

 だったらもしかすると、『天職』を授けてくれる相手がミュラーだと考えていたけれど、それも違っているのかもしれない。

 僕たちは共通認識として、あの声をミュラーだと考えているけれど、別にアイツが「我は聖ミュラーである」とか名乗ったところを聞いたわけじゃない。

 僕が『転職の書』で職業『魔物使い』に変わったときも、「天より職業を授ける」とか言われた気がするし。


「ええと……それでリルカーラは、確か勇者と一緒に魔王を討伐したんだよね?」


「ああ。当時の勇者カイルと共に、五人で魔王に挑んだ」


「……カイルって名前だったんだ」


「厳しい戦いだったが、カイルはどうにか聖剣の力を解放して全力を賭し、魔王ミュラーを撃退することができた」


「ちょっと待って。何だよ聖剣って」


 僕、元勇者だよ。

 間違いなく職業『勇者』として僕は生まれてきた。

 そんな僕も、一応十五歳のときに旅立った。別に魔王に何の恨みもなかったけど、勇者っていうのは魔王を倒すという使命を与えられていたから。

 だから一応、それなりに旅路を経てきたわけなんだけど。


 聖剣とか、そんな話何も知らない。


「聖剣だ。聖剣エヴァンスレイン。カイルは最初から持っていたが」


「何それ聞いたことない」


「勇者の力を十二分に発揮させる、光の力を纏った聖剣だと聞く。その鋭さは大岩を断ち、その威力は山を砕き、一振りで十数体の魔を祓うとされている」


「何それ聞いたことない!」


「そういえば、うぬは持っていなかったな」


 持ってないよ。

 リルカーラ遺跡を一人で攻略していたとき、持ってた剣途中で折れたもん。

 最近というか、キングハイドラを相手にしたとき、シルメリアが久しぶりに剣を用意してくれたもんな。今もそれ使ってる。


「欲しいのか?」


「そりゃ欲しいに決まってるよ」


「だが、うぬは勇者ではあるまい」


「……」


 ええと。

 この場合どうなるんだろう。

 僕は一応元『勇者』だ。現在は『魔物使い』だけど、僕の『勇者』としての力は残っている。

 だってリルカーラだって、僕が『魔物使い』かつ『勇者』だったからこそ、自分を殺すことができる相手だって言ってたし。


「まぁ、欲しいならば取りに行くか」


「えっ」


「都合のいいとき、いつでも言え。案内してやろう」


「えっ……場所、知ってるの?」


「ああ。余の寝所近くだ。奥に刺さっている」


「……」


 あのさ。

 僕、何回リルカーラ遺跡に挑めばいいわけ?

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