第32話 パピー強化

 名前:パピー

 職業:キメラレベル97

 スキル

 変化(ヒューマン)

 変化(スカイドラゴン)

 変化(ゴーレム)


 これが、現在のパピーの情報だ。

 想定通り、元レベル67のパピーがレベル30のゴーレムと融合したことにより、職業キメラがレベル97になっている。そして想定通り、スカイドラゴンに変化した場合はレベル70になっていることだろう。

 だが想定と違って、こいつめっちゃ子供だった。

 ジェシカより年下じゃないかって思うくらい。


「ふぅむ……力がなくなっているように感じるな。この形態では、まともに戦えるとも思えぬ」


「《人変化メタモルヒューマン》の状態は、そうらしいね」


「まぁ、別段人の姿になど興味はない。我は、誇り高きドラゴンだからな。くはは!」


「……」


 うん。

 言葉を選ばずに言うなら、めちゃくちゃイキってる子供である。

 僕より頭二つ分は背が低いし、全体的に手足も短い。バウが人に変化したときにも子供だと思ったけど、こいつはそれ以上だ。

 もしかして、中身の精神年齢とかで見た目が左右されるのだろうか。

 あー……なんかそんな気がしてきた。

 じゃあこいつ、千年も中身子供の状態で生きてきたのかよ。


「さぁ、我を存分に強化して良いぞ」


「ちょっと待って。とりあえず実験が成功しただけで、あとはリルカーラ待ちなんだよ」


「ほう。どういうことだ?」


「僕が築けと言って作らせた壁を、僕が勝手に使って失わせて、また作れって言うのはさすがに酷いだろ?」


「ふむ」


 リルカーラには、ここのところ苦労させてしまった。

 アリサと一緒に国境を回らせて、国境沿いにひたすらゴーレムを生成させて壁を築かせた。その結果、グランディザイアの全域をゴーレムによって囲んでいる状態である。

 一応、城壁がなくなったからといってすぐに戦端が開くことにはならないだろうと考えて、オルヴァンス王国側の壁に来たわけだけど。

 さすがに、その壁を使ってパピーを強化して、「また壁作っといて」と言うのは鬼畜の所業だと思う。


「なるほどな。まぁ、我は別に良いぞ。今まで長く待ったのだ。多少の時間を待つ程度ならば、許してやろう」


「上から目線だな」


 目線、僕よりめちゃくちゃ下のくせに。












「なるほど。呼ばれて来たが……そういうことか」


「ああ。悪いけど、また壁を作ってもらえる?」


「余に否はない。そも、余はうぬの従僕だ。うぬの命令には逆らえぬよ」


 ふっ、と笑みを浮かべるリルカーラ。

 口調とか凄まじい強さとか、そういうのも鑑みなければ美少女なんだけどなぁ。

 他国から明らかに魔王と思われている僕より、圧倒的に魔王然とした佇まいだ。さすがは元々、千年も魔王をしていた存在だけのことはある。


「……僕としては、従僕じゃなくて仲間なんだけどね」


「似たようなものよ」


「……なんとなく釈然としないけど、まぁいいか」


 仲間と従僕。

 その考え方は違うかもしれないが、とりあえず僕に従ってくれる存在ということで良しとしておこう。

 とりあえず、これから僕が行うべきはパピーの強化だ。約束してしまったことだし、こいつをまずレベル99にすることから始めなければならない。


「しかし、ゴーレムだけで良いのか? 必要ならば、他の魔物も創造するが」


「出来るの?」


「素材が必要になる。ストーンゴーレムは石と土塊があればできるが、他の魔物を創造するとならば他の素材が必要だ」


「あ、そうなんだ?」


 僕の持つスキル『魔物捕獲』『魔物調教』と異なり、リルカーラのスキルは『魔物創造』だ。

 正直、スキルとしては僕の上位互換で、特に何も消費することなく魔物が作れると思ってた。素材とか、必要なんだと初めて知った。


「左様。例えばドラゴンを作るならば、その属性に見合ったものに竜の血を染みこませたものを使う。水のドラゴンを作るならば、竜の血を混ぜたものだな」


「ふぅん」


「世界に溢れているゴブリンやコボルト、スライムといった連中は、創造するのにほとんど素材が必要ないゆえ大量にいる。そういった下位の連中で良ければ、余の魔力を消費するだけで済むが」


「別にそれでいいよ」


「良くないわ!」


 僕とリルカーラの会話に、口を挟んでくるパピー。


「我とて、我と融合するならば誇り高きドラゴンが良いぞ!」


「お前と融合するんだから関係ないじゃん」


「いいや、我は知っておるぞ!」


 ぎろり、とパピーが僕を睨んでくる。

 いや、知ってるって何を――。


「融合する素材となった魔物に、今後も変身できるのであろう!」


「……あー」


「我は見たぞ! あのドレイクが様々な魔物に変化して、それぞれの魔物で特有の攻撃をしていた姿をな!」


「……」


 そういや、ドレイクそんな訓練してたっけ。

 スライムになって粘体の状態で敵に近付いて、マタンゴになって毒の胞子を撒き、ケンタウロスになって一気に離れる――そんな訓練をしていた。ドレイク曰く、「折角魔物になれるのですから、様々な戦い方を模索しております」とのことだったけど。

 パピー、そんなドレイクの姿もしっかり見ていたようだ。


「でもお前、ドラゴンじゃん」


「そうだ、我は偉大なるドラゴンである」


「じゃあ別に、ドラゴン以外にならなくてもいいだろ」


「そうではない」


 ちっちっち、と指を振るパピー。その仕草が妙にウザい。


「リルカーラよ、我が命ずる。我の融合素材として、アースドラゴンとシードラゴンを用意せよ」


「はぁ? なんでアースドラゴンとシードラゴンなんだよ」


「それは我が、スカイドラゴンだからだ」


 ふふん、と鼻息荒く言ってくるパピー。

 アースドラゴンというのは、いわゆる地竜だ。巨大で強い力を持つが、動きそのものは緩慢なドラゴンである。

 そしてシードラゴンは、その名の通り海に住むドラゴンである。これは足の代わりに鰭が発達しているため、大蛇のような姿なのが特徴だ。


「スカイドラゴンである我が、アースドラゴンとシードラゴンに変化することができれば、より我の活躍の機会も増えよう」


「別にお前の活躍に期待してないけど」


「余としては別に構わんが」


 リルカーラは、溜息と共にパピーを見て。


「アースドラゴンが必要ならば、竜の血を混ぜた腐葉土と木材が必要だ。シードラゴンの場合、竜の血を混ぜた海水と貝殻だ。用意できるのならば、今からでも創造してやる」


「……」


「……」


 必要な触媒は、竜の血。

 そして、ここにいるドラゴンはパピーだけである。

 つまり。


「分かった、リルカーラ」


「うむ」


「おい小僧、待て。少し待て」


「とりあえず、こいつの血を用意すればいいんだな」


 ぼきぼきっ、と指の骨を鳴らして。

 背を向けて逃げようとしたパピーの首根っこを、僕の手が掴んだ。

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