第30話 新たな真実
「さぁ、我をようやく強化する気になったか!」
「……」
オルヴァンス王国との国境を視察して、戻ってきてすぐ。
僕とジェシカが並んで歩いていたところに、パピーが嬉しそうに言いながらやってきた。
まぁ、うん。約束しちゃったのは僕なわけなんだけどさ。
レベル99にしてやる、って言っちゃったし。
「くくく……この日をどれほど待ったか! さぁ小僧! 我はいつでも準備万端だ!」
「……」
ぶっちゃけ、「あれは嘘だ」と一蹴したい。
でもその場合、パピーがへそを曲げる未来しか想像できない。まぁ、乗り物扱いしている僕が悪いんだとは思うんだけど、僕の仲間の中で一番早く飛べるのパピーなんだよね。
今後ともパピーに乗って遠出することを考えると、こいつの機嫌は取っておく方がいいだろう。
「はぁ……それじゃパピー、強化するよ」
「うむ! 我もようやく、これでレベル99になれるぞ!」
「ただ、約束してほしいことがあるんだけど」
「む……何だ」
ジェシカが隣で、「大丈夫なんですか?」という目で僕を見ている。
正直僕も、大丈夫じゃない気がしているのが事実だ。だから、とりあえず約束させておきたい。
こいつも一応、誇り高い
「強化したからといって、調子に乗って僕を裏切るなよ」
「何を言う。我には、貴様の『隷属の鎖』があろう。これがある限り、我は貴様に従わねばならぬ」
「普段めっちゃ反抗してるじゃん」
「当然よ。意に沿わぬ命令に対して、拒否をする程度の自由意思はある。それを認めぬと言うならば、奴隷の生き方よ」
「……あー」
まぁ、うん。
確かにその通りではある。僕は魔物のことを奴隷じゃなくて、仲間だと思ってるし。
やりたくないことを無理やりさせるのは、僕の主義にも反する。
「まぁ、それならいいけど……」
「あとは何だ」
「そうだね……ちょっと気になったことを聞いてみたいんだけどさ」
「む?」
うずうずと、パピーが足を揺すっているのが分かる。
そんな問答より、早く強化しろ――そう言いたいのだろう。でも一応、僕にも幾つか聞いておかなければならない事情がある。
「キングは……キングハイドラは、ミュラー教の『守護者』だって話なんだけど」
「そうだな。我も詳しくは知らんが」
「お前は違うのか?」
「我は違う」
堂々と、そう告げるパピー。
嘘ではなさそうだ。
「我と奴は、同じ
「……魔王に?」
「そうだ。そもそも
「ふぅん」
とりあえず、
じゃあパピーを強化しても、ヘンメルには操られないと考えていいのかもしれない。でも、ただでさえキングの支配権を奪われてしまっているわけだから、慎重に事を運ぶべきだろう。
「ん……待てよ」
「どうした、小僧。早く我を強化せぬか」
「うっさい。ちょっと今、考え事してるから」
キングを含む『守護者』は、魔王の側近として力を得た。
それはつまり、今僕に従ってくれているミロやギランカ、ドレイクのように、特別に強化された存在だということなのだろうか。
だったら、あの異常な強さにも納得がいく。
そしてパピーは魔王の側近として力を得たわけでなく、自由気ままに生きていた――だからこそ、レベルがキングやゴルドバに比べて低かったのだ。
それこそ、当時――職業『魔物使い』になったばかりの僕が、あっさり従わせることができたくらいに。
「いいことを思いついた」
「何だ、小僧」
「キングの支配権を、リルカーラに戻してもらえばいいってことだよな」
「はぁ?」
「だって、キングは魔王に従っていた側近なんだろ。だったら、その支配権の最上位にあるのは魔王のはずだよ。やり方は分からないけど、リルカーラに聞いて……」
「貴様は馬鹿か?」
「……」
「へぶぅ!?」
蹴飛ばした。
僕は悪くない。いきなり僕を馬鹿にしたこいつが悪い。
「痛いではないか! 何故いきなり蹴り飛ばす!?」
「なんで僕が馬鹿なんだよ」
「貴様が何も理解していないからであろう!」
「だって、キングが魔王に従ってる側近だって言ったのお前だろ。だったら、魔王のリルカーラに頼めば、キングの支配権だって戻ってくるかもしれないじゃないか」
「だから何も理解しておらんと言っておる!」
パピーが、そう僕に向けて怒号を上げる。
ただし、僕から若干の距離をとってだ。パピーの言葉次第では、もう一度蹴り飛ばすつもりだったけど。
こほん、とパピーが咳払いをすると共に、僕に向き直る。
「そもそも、我にとってリルカーラ……あやつは、魔王ではない」
「は?」
「以前も聞いただろうが、我はあやつと、かつて出会ったことがある。脆弱な魔物ばかりを仲間として引き連れて、我を従えさせようと接触してきたのだ。あのとき、リルカーラは自らのことを『魔物使い』であると名乗った」
「それは聞いたよ。だから何が……」
「ならば貴様は、その時点で誰が魔王だったのかを知っておるのか」
「……」
はっ、と思わず目を見開く。
そうだ。リルカーラはかつて『魔物使い』だった。そして、『魔物使い』の上位職は『魔王』である。
つまり、その時点で存在した魔王は、リルカーラではない――。
「ここまで言えば、貴様でも理解できるであろう」
「……」
リルカーラは僕に対して、殺せと言った。
『魔王』は『勇者』の手によってしか殺すことができず、『魔王』が死したとき『魔物使い』が新たな『魔王』になる――そのためにリルカーラは、職業『勇者』『魔物使い』の僕に殺されることを願ったのだ。
つまり先代の魔王が死んだ瞬間、リルカーラが『魔物使い』から『魔王』になったということ。
そんな先代の、魔王の名は――。
「我らを創造せし魔王の名は、ミュラーだ」
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