第25話 新たな情報
「ノア様も……驚きかと思います」
「……」
うん、驚いている。
『七色の賢者』シェリー・マクレーン――その名前に、全く覚えがなさすぎて。
え、誰そいつ。
僕、会ったことあったっけ?
「かの『七色の賢者』の偉業は、冒険者のまねごとをしていただけの、わたくしでも知っているほどです。Sランク冒険者の中でも一握りの、上位職『賢者』を得た魔術師……使うことのできる魔術は、七種類と聞いています」
「……」
「いえ……さらに『合成魔術』というスキルを持っているらしく、魔術を組み合わせることで、今までになかった新たなる魔術すらも使いこなすと言われております。ゆえに、二つ名を『七色の賢者』……」
「……」
Sランク冒険者の魔術師。
多分、名前からして女性だと思う。
そして有名人らしいけれど、僕って冒険者ギルドに関わることなく旅をしてきたから、人間関係よく分かってないんだよね。僕の知ってるSランク冒険者って、ドレイクとアンガスだけだし。
ん、待てよ。
「さらに、かつてはドラウコス帝国で魔術顧問を務めていた人物であるとも……」
「あ」
そこで、僕の記憶が繋がった。
僕の知っている数少ないSランク冒険者、ドレイク・デスサイズ。
彼と初めて会ったのは、エルフの集落だ。目の前でチャッピーを殺された怒りのままに、僕はドレイクに襲いかかった。
そのとき、ミロやギランカも一緒に戦ってくれた。ドレイクが共に連れていた、Sランク冒険者の仲間と。
そこに、いたはずだ。
眼鏡をかけた、魔術師の女性が。
「あー……あー!」
「……どうなさいました?」
「え……あ、いや、何でもない」
「……?」
そういえば、《
多分、会ったのってあのときだけだと思う。だから正直、全く記憶になかった。今まで何してたんだろう。
「ええと……その、シェリー・マカロンが、『転職の書』みたいなものを持っていたってこと?」
「シェリー・マクレーンです。ノア様」
「……ごめん」
僕、人の名前覚えるの苦手なんだよね。
割と長い付き合いである、ギランカのフルネームですら怪しい。ギランカ・ドラン・エル……ええと、何だっけ。忘れた。
「ヘンメルと一緒にやってきたとき、本を持っていたのはヘンメルでした。しかし、わたくしから職業『大教皇』を奪うと共に、ヘンメルはシェリーに対して本を渡しました。そのとき、返すと言っていたので……恐らく、本来はシェリーの持ち物だったのだと思われます」
「ふぅん……」
「ですので、ノア様……わたくしを助けに来てくださったことは、嬉しく思います。しかし、今ここにノア様がいることが知れれば……ノア様の職業も、奪われるかもしれません」
「……」
マリンが、真剣な眼差しで僕を見る。
確かに、そんなことは想定していなかった。天職を奪う本とか、そんなものが現れる可能性なんて、全く危惧していなかった。
だが、もしシェリーが僕に対してその本を使った場合、僕の職業『魔物使い』が奪われてしまうかもしれない。
そのとき僕が仲間にしている魔物たちは、どうなってしまうのだろう。
「分かった。それじゃマリン、今すぐ逃げよう」
「で、ですが……」
「パピーを呼ぶよ。あいつに今すぐここに来てもらって、すぐに逃げる。まだ何も分かっていない状態で、相手にするのは危険だから」
とりあえず、安全を確保する方向だ。
僕の『魔物使い』が奪われるかもしれない危険を侵してまで、今すぐ対処しなきゃいけないわけじゃない。マリンは『大教皇』を失っているけれど、とりあえずグランディザイアで神殿を営んでもらうにあたっては、職業『神官』でも問題ないし。
というか、そういう大事なことちゃんと教えてくれよシルメリア。堂々と「ウチの商品は情報や」とか言ってたくせに。
「ちょっと待ってて」
僕はスキル『魔物心内会話』を発動する。
そして、近くにいる仲間――パピーへとその座標を合わせた。
『パピー』
『……何だ小僧。また我を乗り物として呼びつけるつもりか』
『そんなに怒るなよ。悪いが、ちょっと予定が変わったんだ。すぐに来てくれ』
『ふん。どうせ乗り物扱いであろう』
やばい、ちょっと面倒くさいモードに入ってる。
できるだけ刺激せずに、どうにか助けに来てもらわないと。
『とにかく、急ぐんだ。僕とマリンを背中に乗せて、今すぐグランディザイアに退避してほしい。聖マリン大聖堂まで来てくれ』
『やはり乗り物扱いではないか! 我は乗り物ではないぞ!』
『いや、そうじゃなくて……』
『いいや、小僧は我を空を飛べる便利な乗り物としか思っておらぬではないか! 我は誇り高きスカイドラゴンだぞ!』
『うん、そういうの今は本当にいいから……』
まずい。割と鬱憤溜まってたみたい。
確かに、ミロとかチャッピーとかは今傭兵の一員として戦場に出ているし、ギランカ率いるエリートゴブリン部隊もよく行っている。それもあって、パピーから「我も戦場行きたいぞ」と言われたこともあった。
そのとき、ちょっと考えて一旦保留にしたんだよね。
パピー戦場に行かせちゃったら、遠くに行くの面倒になっちゃうな、と思って。
『大体、小僧は我のことを……』
『わかった、パピー』
背に腹は代えられない。
もう仕方ない。今だけはパピーの機嫌を直してもらうために、僕も切り札を出そう。
『来てくれたら、国に戻ってから強化する。だから早く来てくれ』
『……本当か?』
『レベル99にしてやる』
『ふむ……分かっておるではないか、小僧』
正直、パピーって強化しちゃうと普通に僕に逆らいそうだから、あんまりしたくなかった。
『ふむふむ。まぁ、小僧がそこまで言うならば、我も考えてやらんでも……』
『いや、だからぁ……」
『む……おい小僧、先走りすぎだ。我の到着まで待たぬか』
『は?』
パピーが、そう僕に言ってきた次の瞬間。
そこに響いたのは、轟音だった。
「――っ!?」
「ノア様!? これはっ!?」
まるで、巨大な何かが聖マリン大聖堂にぶつかってきたかのように。
大地が揺れる感覚に、思わず倒れ込みそうになる。マリンは普通に転んで尻を打っていた。
そして、僕の視線の先――窓の外に映ったのは。
「……キング!?」
巨大な顎門を広げた、キング――キングハイドラの首。
いやいや、僕が合図したら破壊しろ、って言ったじゃん。僕まだ何も言ってないよ。
キング、一体何を考えて――。
「え……」
だけれど、窓の外に見えるキングの首には。
僕をまるで、仇敵であるかのように睨み付ける、そこには。
僕の仲間の証である、隷属の鎖が。
どこにも、なかった。
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