第19話 壁について
「なるほど、壁ですか。それは確かに、良い手段かもしれません。ですが、問題も多そうですね」
会議に出席していなかった、本来のグランディザイアにおける相談役――ドレイクに、僕は事の次第を伝えた。
一応、国における正式な軍師はジェシカである。だが、僕が国を作ることになった切っ掛けそのものは、ドレイクの進言によるものだ。本人は「あくまで私は武闘派ですから、知略に関してはジェシカ殿にお任せした方が良いかと」と言っているけれど、僕より遥かに頭がいいことは間違いない。
だから、僕が「壁を作ろうと思うんだ」という一言だけで、ドレイクはそう返してきた。
具体的に、どこに何の壁を作るのか、何も言ってないのに。
「問題?」
「ええ。まず、グランディザイア全域を囲むように壁を作るとなると、それこそ大工事になります。石材も確保する必要がありますし、石材を保持するための接合剤も必要になります。加えて、やはり労働力ですが……魔物に任せれば労働力が大きく減るとは思いますが、専門家ではありません。細かな仕事に関しては、図面通りにできないでしょう」
「あー……」
「専門家を監修につけ、その人物からの指示に従う形を作り、魔物に作業をさせるという形ならば……まぁ、問題ないかもしれません。どちらにせよ、その職人に図面を作ってもらう形にはなると思いますが」
ふむ。
僕は何気なく言っただけなんだけど、案外現実味を持たせるのは難しいようだ。
確かに壁を築くとなると、それだけの石が必要になる。そして敵からの攻撃があることを考えると、できるだけ固い方が望ましい。そして元ドラウコス帝国、現グランディザイアの一帯は農耕に向いている地であり、良質な石が採掘できるのはオルヴァンス王国だ。
だが石材が入手できたとしても、次の問題はその加工、組み立てである。
僕は正直素人だし、石を並べて積めばいいじゃないか、くらいの認識だった。だけれどジェシカ曰く、「石積みで壁を築くとなれば、石の大きさに応じて組む形を変えるなどする必要があります。煉瓦のように真四角に加工したものを使うならばまだしも、さすがに煉瓦を用意するには時間がかかりますね」とのことだ。
確かに、僕の知っている石垣は、色んな形の石が複雑に組み合っているものが多い。
「うーん……魔物の力で、石を全部同じ大きさにしてもらうとかは無理かな?」
「作業量が膨大になります。ミロ殿ならば斧の一撃で可能かもしれませんが、それを国全域を囲むほどとなると難しいかと」
「確かにそっか……でも、さすがに石垣の専門家なんていないしなぁ」
「ええ……残念ながら、私も当てはありませんね」
石垣で有名なのは、東のタイザン王国だ。
独自の文化を持つその国では、石垣の上に城を建てるという珍しい建築方式をしている。より高い位置に城を建てることによって、敵の侵入をより強固に防ぐという意味らしい。僕も詳しくは知らない。
だがこのタイザン王国は閉鎖的なことで有名であり、その専門家となると接触すら難しいだろう。
「そうなると、煉瓦になるのかな」
「煉瓦ならば作ることはできそうですが……国の全域を囲むだけの量となると、どれほどの時間が掛かるか分かりませんね」
「……そうだね」
焼き煉瓦なら、僕も作り方を聞いたことはある。多分、ジェシカやドレイクなら僕より詳しく知っているだろう。
だけれど、次の問題は時間だ。煉瓦というのは高温で焼く必要があるため、どうしても、一日に作ることの出来る量は限られている。炉を増やせば問題ないかもしれないが、炉は炉で強化煉瓦も敷地も必要になったりと面倒なのだ。
さらに、煉瓦というのは結局固めた土であるため、それほど強固な防御力は期待できない。それこそ、何重にも煉瓦を重ねて防御力を確保する必要があるだろう。そうなると、それこそ幾つの煉瓦を作ればいいのかさえ分からない。
ただでさえミズーリ湖岸王国がきな臭い現状、出来るだけ急ぐ必要があるだろう。
「うぅん……」
困った。
ジェシカは「難しいと思います」と言っていた。
リルカーラは「正気か?」と聞いてきた。
だから、ドレイクなら良い手段を教えてくれるかもしれないと思って、わざわざ来たのに。
「で、どうだろう? 何かいい方法はないかな?」
「そうですね……月並みな意見かもしれませんが、オルヴァンス王国に依頼をしてみてはいかがでしょうか? あちらは採石事業も有名ですし、石工も少なくない数がいます。あちらの女王に依頼すれば、壁を築く事業という形で助力を願えるかもしれません」
「それがいいかもね……結局、国を挙げてやる事業になるわけだし」
まぁ、正直金貨は余っている。そもそも、シルメリアにちょっと払う以外、大して使ってないし。
ミロとかをオルヴァンス王国の最前線に派遣して、それなりの対価として金貨も貰っており、さらにドラウコス帝国が貯蔵していた分も全部貰い受けているため、かなり余剰はあるのだ。それこそ、僕一人なら人生何回やり直しても豪遊できるほど。
それをオルヴァンス王国に支払って、共同事業として壁を作る――まぁ、悪くない案だとは思う。
でも。
それを僕に提案してくるドレイクは、物凄く苦々しい表情をしていた。
やっぱりドレイク、フェリアナ女王嫌いなんだろうな。
「最悪は、壁を作りたい部分にキング殿が寝てくださればいいのではありませんか?」
「あはは、それいいかも」
冗談で言ってきたドレイクの言葉に、僕は笑う。
キング――僕の仲間の一匹、キングハイドラのキングだ。
並の魔物よりも遥かに巨大なキングならば、確かに壁代わりになりそうな気がする。あいつめちゃくちゃでっかいし、自己再生能力も持ってるから、多少傷つけられても死なないし。多分、人間の軍がどれだけ攻め込んできても、キングは倒せないと思う。
さすがは元『守護者』だ。同じ『守護者』であるゴルドバも強かったし、他にそんなのいないことを願おう。
「ついでに、キングの横にミロとか並んでもいいかもしれないねぇ」
「ギランカ殿に、配下のゴブリンを肩車してもらえれば壁の一つになりますね」
「そうそう。それじゃ、パピーも思いっきり翼を広げたら、それなりの壁になるかも」
「ははは。でしたら、その一部にアンガスも入れてしまいましょう」
「あはは……」
そんな風にドレイクと、笑って話をしていて。
あ、とふと思った。
「あれ……この方法で、いける?」
そう。
壁を作るのは、何も石や煉瓦に限ったものじゃない。
魔物で壁を作ることができれば、それは最強の壁になるのではなかろうか、と。
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