第15話 今後のことを考えて
グランディザイアで二次産業を行う――とはいえ、それは簡単に進むわけではない。
現在、小麦を作っている農地を、そのまま綿花栽培に変える手筈だ。だけれど、それはまず現在育っている途中の小麦を、秋になって全て収穫することから始まる。いくら始めると決まったからといって、今すぐに農地を全部入れ替えというわけにはいかないのだ。
だからひとまず、ドレイクは綿花を加工する工場から作ることにしたらしい。
「この場所に、工場を作ろうと思います」
「うん。いいと思うよ」
そんな僕がドレイクに案内された場所は、帝都センターフィールドから僅かに離れた平野だった。
帝都の周辺には農地が広がっているけれど、このあたりまで開墾は進んでいない。そのため、野生の草に覆われている草原だ。ドレイクには何やら腹案があるらしく、何枚もの紙を束ねた冊子を持っている。
まぁ、ここなら確かに帝都からのアクセスも悪くないし、手つかずの土地だから広い工場が作れるだろう。
「でも、綿花が栽培できるのって来年からになるよね? それまでは動かさない感じ?」
「いえ、ひとまず他国から綿花を仕入れようと思います」
「あ、そうなの?」
「ええ。これは、業腹ながらあの商人と相談したのですが」
はぁ、と苦々しく眉を寄せるドレイク。
あの商人、という時点で多分シルメリアだと思う。でも実際、他国と取引するとなるとシルメリアに声をかけないと、僕たちだと他の国と接触することもできない。
「あの商人曰く、ミズーリ湖岸王国から綿花を仕入れる手筈が整っているのだとか。そして、綿花を綿糸に加工したものを、同じくあの商人に買い取ってもらう形です。その上で、概算ですが綿花の仕入れ額から、二割程度上乗せして買い取るそうです」
「……かなり、ぼったくられてるよね?」
「ええ。私としては、別の商人をグランディザイアに招聘した方がいいのではないかと考えます」
正直、僕もそんな気がしてきた。
多分シルメリアが綿花を仕入れてこちらに売りつけるときにも、ある程度利鞘はあるだろう。そしてこちらが加工した綿糸を二割増しで買い取り、そこにさらに利益を足して売るのだと思う。
販路があるからできることでだとは思うけれど、それでもやっぱり阿漕な商売だ。
「ひとまず来期の状態次第で、他の商人を迎えることも考えようか。ドレイクは一応、シルメリアの仕入れ先と納品先について調査しておいて。よっぽどこっちから搾取しているようなら、僕の方から注意するよ」
「その場合、御用達の承認を変更することも辞さないと脅してみては?」
「でも、シルメリアはこっちの情報を色々知ってるんだよね。少なくとも……魔物に食事が必要ないってことを」
「その程度の情報でしたら、漏れても良いと思いますがね……他国の、グランディザイアに対する警戒度が上がるだけです。最も大国であったドラウコス帝国が陥落し、現在最も大国であるオルヴァンス王国と良好な関係を築けている以上、他の国が連合して攻めてくるということもないと思います」
「うーん……」
まぁ実際、僕としてはこれ以上、他の国を攻めるつもりがない。
魔物の国という形であれば、現在の版図で十分というのが本音だ。むしろ人間を追い出したことで、魔物ばかりになってるから土地が余ってる場所も多々ある。流民を受け入れても、全く問題ないくらいに。
だから、できれば他の国と悪い関係になることは避けたいんだよね。
これからグランディザイアは生産国になっていくわけだから、将来を考えると取引先になるわけだし。
「まぁ、シルメリアには僕の方から注意しておくよ。最悪、ちょっと脅す」
「承知いたしました。では、工場の建設を進めておきます」
「うん、よろしく。それじゃ、僕は帰るよ」
「承知いたしました」
ドレイクに背を向けて、僕はセンターフィールドへ戻ることにする。
当然だけど、徒歩だ。ここまで来るのも徒歩だったし。そもそも、グランディザイアに今のところ、乗合馬車とかがないのが難点なのだ。
何せ、魔物は飛べる個体もいるし、素早く走れる個体もいる。そして乗合馬車とかを用意したところで、サイズ的に入らない魔物だって大勢いるのだ。だから一応、僕は僕専用というかセンターフィールドに住む極めて少ない人間用の馬車を使っている。
ちなみにそんな馬車は現在、ジェシカがオルヴァンス王国に向かうのに使っているため、僕は徒歩なのだ。
「やっぱり、進めるべきかなぁ」
はぁ、と小さく嘆息。
先日、ドレイクに言われたこと――グランディザイアに住む魔物に、常に《
まぁ実際、魔物の服のサイズって個体によってまちまちだし、そもそも服を着ない魔物だって大勢いる。僕の仲間だと、アマンダは魔物状態だと服着てないから、いつも目のやり場に困るのが本音だ。
だから全部の魔物に《
それにサイズが均一になれば、乗合馬車とかも運用できると思うし。
だけど、ここで生じる懸念が一つ。
僕はそもそも『人間と魔物の共存』を謳っていて、その理念は脆くも崩壊した。僕が人間側ばかりを優遇して、魔物に不自由を強いていたからだ。
だから今回、そんな風に《
まぁドレイクも長期的にとは言っていたけど――。
「む……小僧ではないか」
「ん……?」
「何を呆けておる。上だ、上」
「へ?」
何故か声を掛けられて、僕がそう上を見上げると。
そこには翼を広げて、低空飛行をしているパピーがいた。
「あれ、パピーじゃん。何してんの?」
「我は遊泳中だ。たまには飛ばぬと、魔素が溜まってしまうからな。時折、こうして一日中飛んで発散せねばならぬ」
「魔素って魔物にとって、脂肪みたいな感じなの?」
「何を言っているかは分からんが、魔素が溜まりすぎると節々が痛くなるのだ」
「ふぅん」
尿酸みたいなものだろうか。
「あ」
そこで、ふと思いついた。
グランディザイア内で乗合馬車とかが作れないかと考えていたけど、魔物のサイズ的に厳しいと思っていた。
だけどパピーの背中なら別に、魔物のサイズとか関係ないじゃん。
「なぁ、パピー」
「どうした、小僧」
「ちょっと明日から、国内を回る定期便やんない?」
「小僧はやはり我を、乗り物としか思っておらぬのではないか?」
うん、まぁ。
ぶっちゃけ思ってる。
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