第20話 vsガーディアンゴーレム

 下層も、僕たちは順調に進んでいた。


 さすがにミロやギランカたちでも一撃とはいかない相手も増えてきたものの、結局数は力である。一匹で現れるレベル80台の魔物を相手に、苦戦するほど僕の強化した仲間たちは弱くないのだ。

 下層で一晩は過ごしたものの、僕はパピーの背中に乗ってすやすや眠りつつ、進軍は続けるという状態だった。一人で攻略してた頃は、僕ろくに寝てなかったからなぁ。それに比べれば、もう天国のような扱いである。


「ふむ……」


「どしたの、パピー」


「我は……こんなにも弱かったのか……」


「へ?」


 なんか、いきなりパピーがへこんでいる。

 そんなパピーの視線の先では、現れた夜狼王ナイトウルフロードを相手にドレイクが一騎打ちをしながら、他に現れた魔物をミロとギランカが相手をしている状態である。

 夜狼王ナイトウルフロードって、確かレベル84とかだったんだけど、ドレイクは余裕そうな様子だ。むしろ、笑みすら浮かべながら戦っている。拳打の一つ一つが鋭く、まるで自分の力を試しているような感じにすら見えた。


「我は驕っていたのだな……我はドラゴンであると驕り高ぶっていた。あやつらの強さを見ていると、羨ましく思えてくる……」


「パピー……」


「我も、あのような高みに……」


「弱いってお前、今更気付いたの?」


「ごふぅっ!」


 別に殴ってもないのに、パピーが変な声を出してきた。

 というか、お前が僕の軍でも最弱って、割と全員知ってる事実なんだけどさ。軒並みレベル99が揃う中で、お前だけレベル66のままだし。そのままにしたの僕だけど。

 正直、今のパピーではこの辺の魔物は相手にできないと思う。


「な、な、わ、我……?」


「いや、事実だからね?」


「小僧!? 我泣くぞ!?」


 いや、お前が泣いたところで僕何も感じないんだけど。

 と、そんな風に話していると、ふと先頭集団が止まった。それと同じくして、パピーの足も止まる。


「ご主人サマぁ、前に何かいるわよぉ」


「お……」


「おいおい、めちゃくちゃ強ぇぞこいつ……! 俺様にやらせてくれ、ご主人!」


「強き敵との対峙こそ、我が騎士道の望むところ……」


「これは、確かに強いですね。我が武、試すにこの上ない」


「あー……お前たち、ちょっと待って」


 ひょいっ、とパピーの背から降りる。

 先頭集団――主にミロ、ギランカ、ドレイクが随分とやる気まんまんだ。

 それもそのはず。目の前にいるのは、僕が今まで見てきた魔物の中でも、最大レベルの強敵だ。


 こいつは――ガーディアンゴーレム。

 一段天井が高くなったような空間で巨大な扉を守るように鎮座している、金剛石のような光沢を放つ外皮を持つ巨大な魔物だ。人型のそれでありながら、異常に両腕だけが長く先に行くほど太くなっている。特にその拳など、僕くらいなら掴めそうなくらいに大きい。


「なるほどね……確かに倒したはずなんだけど、お前は復活するんだな」


「……」


 鎮座したままのガーディアンゴーレムが、その顔の部分にある三つの空洞――そこに、深紅の光を灯す。

 ゴゴゴ、という岩壁が動くような音と共に、ガーディアンゴーレムがゆっくりと立ち上がった。


「でも、丁度良かった。お前たち、手を出すな。僕が相手にする」


「ちぇ。せっかく面白そうな奴と戦えると思ったのによ」


「なぁに、存分に戦うといいさ……」


 腰の剣を抜く。

 前回リルカーラ遺跡に挑んだとき、僕はこいつを相手にして剣を失った。あまりにも堅すぎる外皮と、レベル99にもなった僕の膂力に、剣が耐えきれなかったのだ。結局、体術でひたすら外皮を削って四肢をもいで、泥仕合のような状態でどうにか勝利した。

 今なら、こいつも仲間にできる――。


「僕が、こいつを仲間にした後でね!」


「オォォォォォォォ!!」


 ガーディアンゴーレムが、巨大な腕を振り上げる。

 僕は冷静にその動きを見ながら、目に魔力を集中させた。


「《解析アナライズ》」


 力ある言葉を呟くと共に、僕の目に映る半透明の文字列。

 それはかつて一度確認した、こいつの情報だ。


 名前:なし

 職業:ガーディアンゴーレム レベル91

 スキル

 怪力レベル91

 振り回しレベル91

 魔術耐性レベル88

 物理耐性レベル68


 守護者ガーディアンという名前を持つだけあって、その耐性はかなり高い。防御力の面では、他の追随を許さないとさえ言っていいほどの能力値だ。

 もっとも物理耐性レベル80、自己再生レベル50という化け物スキルを持つキングに比べれば、その防御力は一段落ちる。そう考えれば、僕一人でも十分に相手が出来ると言っていいだろう。


「はぁぁぁっ!!」


「オォォォォォォォォ!!」


 剣を振ると共に、ガーディアンゴーレムの外皮に阻まれて止まる。

 さすがは物理耐性レベル68。だけれど、僕の剣はシルメリアに頼んで調達してもらった、割と高い逸品だ。キングの首を斬ったときにも、刃こぼれ一つしなかった業物である。

 ガーディアンゴーレムの堅い外皮に当たっても、当然ながら傷一つない。


「おらぁっ!!」


 剣技レベル99は伊達じゃない。剣を持てば、僕の速度も膂力もさらに上がるのだ。

 体術でどうにか削って削って、半日かけて倒したあの頃とは違う。

 空中を縦横無尽に駆け回り、ガーディアンゴーレムが繰り出す拳打を避け、いなし、隙を見て剣で斬りかかる。そして、そんな僕の姿を仲間たちが見ている。


「すげぇ! さすがご主人だぜ!」


「騎士として、この方に仕えられることはこれ以上ない誉れ……!」


「ご主人様、かっこいいです!」


 魔物たちが与えてくれる賞賛に、少し気恥ずかしくなってくる。

 だけれど、こんな風に全力ありったけで一人で戦うのも、随分と久しぶりのように思える。キングを相手に威力偵察はしたけれど、あれはあくまで試しただけだし。

 ぶんっ、と耳元を掠めるガーディアンゴーレムの拳を避けて、右肘の部分に思い切り剣を振り下ろす。


「はぁぁぁっ!」


「オォォォォォォォ!!」


 がぎぃんっ、と金属同士がぶつかるような衝撃音と共に、僕の剣が振り抜かれる。

 金剛石のように堅い外皮ではあるものの、関節部分――繋ぎ目は、やはり脆いのだろう。僕が剣を振り下ろすと共に、巨大な腕の一本が引きちぎれて落ちるのが分かった。

 ぶんっ、ともう一本の腕が僕へ向けて走る。当然その気配も察知し、最低限の動きで避けると共に、前髪が数本腕を掠めて千切れるのが分かった。


「もう一本、貰おうかっ!!」


「オォォォォォォォ!!」


 返す剣で、ガーディアンゴーレムの伸びきった左腕――その肘へと、思い切り剣を振り上げる。

 今度は繋ぎ目の、その隙間にするりと入り込んだようで、ほとんど抵抗もなくガーディアンゴーレムの左腕が吹き飛んだ。ずしんっ、という音と共に腕が落ち、ガーディアンゴーレムは両腕を失った状態で立ち尽くしていた。

 スキルが『怪力』『振り回し』しかないガーディアンゴーレムは、両腕を奪ってしまえばもう攻撃手段がない。

 つまり、あとは僕が蹂躙するだけだということだ。


「はぁぁっ!!」


 高く跳躍し、ガーディアンゴーレムを見下ろすほどの高さから思い切り剣を振り上げ、そのまま、落ちる勢いと共に剣を振り下ろした。

 まるでチーズにナイフを入れるかのように、ガーディアンゴーレムの頭から僕の剣が外皮を切り裂く。

 ガーディアンゴーレムが小さく「オォォ……」と声を発すると共に、その顔にあった三つの空洞――その中に灯っていた光が、消えた。


「ふぅ……」


「……」


 沈黙する、ガーディアンゴーレム。

 だが、僕はそのままで待つ。今までの経験から、致命傷は与えていないはずだ。

 そして、ガーディアンゴーレムの体が光に包まれると共に、その首に鈍色に光る首輪が生まれた。

 当然のように、その巨大な両腕も新たに生やして。


「……オォォ」


「よし。僕が分かるか?」


「オォォ……ワレ、ガーディアンゴーレム、メイレイ、モトム、マスター」


 随分と、片言で喋るものだ。

 そして、僕の後ろでは魔物たちの歓喜の叫びと、ドレイクたちによる拍手が巻き起こっていた。「素晴らしいです、ノア様!」「さすがです! ご主人様!」「さすがは我が主!」など、賞賛の言葉も鳴り止まない。

 なんか恥ずかしいな。


「さて……名前、決めてやらなきゃな」


 まだ「オォォ……」とか言いながら鎮座しているガーディアンゴーレム。

 僕はそんなガーディアンゴーレムを暫く見て。


「よし。それじゃ、お前の名前は、ロボだ」


「オォォ……メイレイ、ニンシキ、シマシタ、マスター。ワレ、ロボ」


「これから、よろしく頼むよ」


 新たな仲間を、ここで得た。

 僕たちの旅路は、順調だ。

 あとは、最奥――魔王を倒す。僕の試練は、それで終わるのだ。

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