第33話 ハイドラの実際

 これは一体、どういうことなのだろう。

 パピーだって一人称『我』だし、古龍王エンシェントドラゴンってもっと堅い感じの口調かと思ってたんだけど。

 なんで首うねうねさせて、ちょっと恥ずかしそうにしてるんだよハイドラ。

 さっきまで、僕たちお前をどうにかしようと必死だったんだぜ。


「それで、ご主人様の名前はなぁに? アタシに最高の愛をちょうだいね、ご主人様ぁ!」


「あー……え、ええと、僕は、ノア。ノア・ホワイトフィールドだ。よろしく」


「ノアちゃんね、よろしくぅ!」


「ええと……お前って、オスなの? メスなの?」


「いやん。そんなこと、聞くもんじゃないわよぉ。うふふふふ」


 ああ、これ多分オスだ。

 そして僕が思うに、こいつ所謂『オネエ』というやつだ。


「あれぇ? そこにいるの、グランちゃんじゃないの。あっれ、寝てるの? もぉ。久しぶりだから色々お話したかったのにぃ」


「……」


 グランちゃん、って多分パピーのことかな。

 敵意がないのはありがたいけど、パピーが「多少苦手」って言ってたの、こういう性格のせいなのだろうか。

 うん。僕もちょっと、まだ受け入れられてない。

 あと、くねくね首を動かしてるのが気持ち悪い。


「ノア様……この、ハイドラは……」


「ああ、うん……僕の仲間になった、みたい?」


「仲間に、ですか……?」


 ジェシカが戸惑っている。

 そういえば、ジェシカの前で魔物が仲間になるのって初めてか。僕も正直、あんまり慣れてないんだけど。

 まぁ、でも。

 魔王リルカーラを退けて、大陸の西を皆殺しにして焦土と化した、多頭の魔竜キングハイドラが僕の仲間になったとか普通信じられないよね。

 しかも物凄くオネエな感じとか、聞いてる僕でも信じられない。


「は、はぁ……仲間、ですか……」


「いやーん! この子もカワイイじゃないのぉ! アタシ、こういう子大好きなのよぉ! アタシ、キングハイドラよん。よろしくねぇ」


「な、何を言っているのか分からないのですが……」


 ハイドラの言葉に、恐れながら退くジェシカ。

 いくら僕の仲間になったとはいえ、怖いのは当然だろう。そういえば、ミロやギランカに紹介したときも、ジェシカ気を失ってたよな。

 やっぱり普通、女の子は魔物が怖いよね。


「ノア様がそういう能力をお持ちなのは、承知しておりましたが……」


「驚いた?」


「こうして拝見することができたのは光栄に思っています。同じような形で、ミロさんやギランカさんも仲間にされたのですね」


「まぁ、うん。そんな感じ」


 恐れながらも、よしよし、とハイドラの足を撫でるジェシカ。

 そういえば《解析アナライズ》したとき、こいつの名前『なし』だったな。本人はキングハイドラって名乗ってるけど、一応名無しではあるはずだ。

 ここは僕が、こいつに相応しい名前をつけてやるべきだろう。

 一番に出てくるのは『オネエ』なんだけど、さすがにそれは失礼だと思う。


「よし、キングハイドラ。お前に名前をやる」


「あら、ノアちゃん! アタシ、どんな名前でも受け入れちゃうわよん!」


「あ、ああ……決めた。お前は、キングだ!」


 九頭の魔竜キングハイドラだし、キングでいいや。

 安直? そんなことはない。ちゃんと考えたよ。

 ハイドとか、イドラとか、ハドラとか。


「キング、ですか……」


「えぇー……アタシ、できればクイーンの方がいいんだけどなぁ。ほら、アタシって女王様気質だし?」


「はい、お前キング。決定」


「えぇー……」


 性別オスだし、キングでいいだろ。

 そして、キングと名前を決めた彼だか彼女だか分からないハイドラに対して、ジェシカはよしよし、と足を撫でた。

 そして、小さく首を傾げる。


「……ノア様、ご本人は納得していないようですが?」


「大丈夫。納得してるから」


「してないわよぉ!」


 と、こうして。

 僕たちの国に、新たな仲間――九頭の魔竜キングハイドラこと、キングが加わることになった。

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