エピローグ

 名前:ノア・ホワイトフィールド

 職業:魔物使い レベル49

 スキル

 剣技レベル99

 体術レベル88

 基礎魔術レベル43

 雷魔術レベル45

 回復魔術レベル26

 魔物捕獲レベル49

 魔物調教レベル49

 魔物言語理解

 魔物呼び寄せ

 魔物融合

 魔物心内対話



「……何も変わってない? はー……おかしいなぁ」


 半透明の文字列で記された、僕の情報を見ながら唸る。

 僕の視界にだけ映された、《解析アナライズ》で得た情報。それを何度も繰り返し確認したけれど、どうにも腑に落ちないことがあるのだ。

 以前にオルヴァンス王国に招かれたときに確認した、僕の情報。それも現在と同じく、魔物使いレベル49だった。

 あれから結構経ったし、新たにキングも仲間にしたし、レベル上がってないかなーとか思って《解析アナライズ》をかけたんだけどさ。

 僕の情報、何も変わってない。


「おや……こんにちは、ノア様」


「うん……ドレイク?」


「ええ」


「ここに来るなんて、珍しいね」


 そんな風に、窓際で唸っている僕に話しかけてきたのは、ドレイクだった。

 普段、僕の相談事とかは全部ジェシカに回してるから、ドレイクがここに来ることってあんまりないんだけど。


「ええ、少しジェシカ姫に所用です。相談したいことが二、三ありまして、参りました」


「そっか。ジェシカなら多分、執務室にいると思うよ」


「正直、ノア様を騙していたことは業腹なのですが……」


「それはもう終わった話だよ。もう僕が裁いたわけだから、それ以上言わない」


 ドレイクの言葉にかぶせるように、そう告げる。

 ちなみにいつも通り、宮廷(仮)にいる僕だ。今日は屋上で日向ぼっこではなく、窓から外を眺めている。

 今日も国は平和で、特に諍いなども起こっていない。ハイドラの関から帝国が来る様子もなく、特に何事もないと言っていいだろう。

 そんな平和な国を眺めながら、遠くにいるのにキング大きいから目立つなぁ、とか思ったりする今日この頃である。ちなみにキングは今、ミロたちと共に町の周りの防壁を改築しているのだそうだ。

 それも、キングを迎撃するために伐採し、使った丸太を再利用しよう、とジェシカが言い出したのだとか。結果、帝国側には丸太で防壁を作ることになったそうである。ちなみに、「何企んでんのー?」と聞いたら「わたしそんなに企んでばっかりじゃないですよ!?」と言われた。

 僕もジェシカを疑っちゃう悪癖、抑えなきゃなぁ。


「承知いたしました。では、これ以上は何も申し上げません。ところでノア様……何か、溜息を吐いていらしておりましたが」


「あー、うん」


「このドレイクでよろしければ、お悩みなどございましたら聞きますが」


「そうだね……」


 まぁ、悩みってほどの悩みじゃないんだけど。

 今までさくさく上がってたレベルが、いきなり打ち止めになったから困ってると言うべきだろうか。

 別に上がらなかったら上がらなかったで別に構わないんだけど、なんか気持ち悪いんだよね。


「レベルが上がらないんだよね」


「レベルが、ですか?」


「うん。前に、オルヴァンス王国に行ったときあったでしょ? あれから変わってないんだよ。キングも仲間にしたし、上がってるかなーとか思ってたんだけど」


「ふむ……」


 ドレイクが、そう言って顎に手をやる。

 そして、ぽん、と手を合わせた。


「もしや、ノア様」


「うん?」


「現在、レベル49ですか?」


「え……あ、うん。そうだけど」


 あれ。

 僕、ドレイクにレベル言ったことあったっけ?

 レベルって個人情報の極みだから、ほとんど他人に言うことはない。《解析アナライズ》で勝手に見ることだって、物凄く失礼なことなのだ。

 ドレイクは確か基礎魔術持ってないし、《解析アナライズ》使えないはずなんだけど。


「でしたら、恐らく上級職への転職の機会なのでしょう」


「えっ……転職?」


「そうです。私は元々、天職『拳聖』でした。ですが、私が天職の儀で得た職業は『武闘家』でした」


「どういうこと……?」


 上級職への転職とか、聞いたことがないんだけど。

 そんなのあるなら、僕、『勇者』捨てるために転職の書を探さなくても良かったんじゃなかろうか。


「ほとんどの職業は、レベル50で上級職に転職します」


「そうなの?」


「はい。例外はいくつかあるらしいですが。例えば『魔術師』なら『賢者』に、『神官』なら『司祭』になるような形です。私の場合、『武闘家』から『拳聖』になりました」


「へぇー」


「もっとも、『勇者』や『魔法剣士』、『竜騎士』など希少な職業の場合は、上級職が存在しないとも聞きますけど」


「……」


 うん、やっぱ『勇者』はクソ職業だ。

 僕は転職の書を求めて正解だったということになる。


「レベル49から50に上がるためには、それぞれの職業別に試練が課されるそうです」


「試練……?」


「ミュラー教の神殿に行けば、司祭に教えてもらうことができますよ。司祭が、自分の転職することのできる職業を教えてくれます。その上で、この職業になるにはこれをしなければならない、という試練を教えてくれます。参考までに私の場合は、『武闘家』から転職できる職業として、『拳聖』、『鉄拳士』、『蹴撃士』の三つがありました。私は『拳聖』の試練を経て、転職をしたんです」


「そんなのあるんだ」


 どれもこれも、初めて聞くことばかりだ。

 つまり僕は、魔物使いの上級職になるために転職の試練とやらを受けなければならないということか。

 僕、ミュラー教の守護者とやらを倒しちゃったけど、司祭さんは教えてくれるのかな。

 でもさ。

 それよりも、僕超気になってることがあるんだよね。


「なるほどね」


 一応、僕の中のプチ疑問はこれで解決されたと思っていいだろう。レベル49から50に上がるための方法とか、今まで知らなかったし。

 ただ、さ。


「あのさ、ドレイク」


「はい?」


「『魔物使い』の上級職って、何だと思う?」


 なんとなく、藁をも掴む気持ちで、ドレイクにそう聞いてみる。

 そんなドレイクは、快活な笑顔で。


「それは当然、『魔王』でしょう」


「だよねぇ」


 そう。

 僕にとってあまり受け止めたくない現実を、告げた。

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