第18話 思わぬ来襲

「さて、行くか」


「はい! 参りましょう!」


 アリサが用意してくれた服に着替えて、ジェシカ、アリサと共に東門へと向かう。

 前の領主が置いていったものを持ってきたらしいが、多分、間違いなく高級なのであろう服だ。今まで着ていた服と、肌に触れる感触が全然違う。

 服に金をかけるのってあんまり好きじゃないけど、確かに毎日着る服であるなら、多少高くても肌触りがいいものが欲しいって気持ちはなんとなく分かった。


「それで、誰が来たのか聞いてる?」


「いや、聞いていない。私は、ノア殿を呼ぶように伝えられただけだ」


「ふぅん……」


「馬に乗った者が来た、と言っていた」


「なるほど」


 門番をしているのは、エルフの男性と魔物だ。恐らく、アリサに言伝を告げたのはエルフの男性だろう。

 ちゃんと情報は伝えるように言ってあるのだけれど、詳しい内容をアリサに伝えていないってことは、多分伝える情報がなかったからだ。馬に乗っている人、というだけの情報しか向こうが与えてくれなかったということになる。

 つまり、向こうは名乗りも上げずに所属も言わずに、ただ僕を呼べとだけ言ったわけだ。

 シルメリアのときもそうだったんだけど、こういうときって「◯◯国の××と申しますが」とか言わないものなのかな。


「普通は、国名と所属、そして名を名乗ります」


「……まぁ、そうだよね」


「それをしていないということは、ノア様を軽んじているか、礼を尽くす必要がないと考えているものと思います。もしくは、ノア様よりも自分の方が格上だと思っている場合ですね。そもそも、先触れのない訪問自体が無礼なものですし」


「なら、帝国かな」


 帝国の使者であるなら、僕に礼を尽くす必要なんてないって考えるだろうし。

 つまり、和睦ですらないということだ。一体どういう用件なのだろう。


「今、この機に帝国が使者をよこすとは考えにくいですけど……」


「もしも帝国の使者だとするなら、どういう用件だと思う?」


「和睦ではありません。少なくとも、向こうは戦うつもりですから。かといって、既に戦端が開いているわけですから、宣戦布告というわけでもないでしょう……あとは、考えにくいですが、降伏勧告でしょうか。ですが、まだまともに戦ってもいない状態で降伏勧告はしないでしょうし……」


「うぅん……」


 分からない。

 そして、分からないのなら考えるだけ無駄だ。実際、向こうの目的なんて会ってみれば分かるだろう。

 そう話しているうちに、東門が見えてきた。

 東門――まだ遠いそこにいるのは、門番であるエルフの男性と魔物によって止められている、十騎ほどの騎馬の姿だった。


「やっぱ、帝国か」


 間違いなく、帝国に挨拶に行ったときに見た、帝国騎士の鎧だ。

 それが、僅かに十騎。しかも馬に乗ったままで、僕がやってくるのを待っている。平和的な使者なら、馬から降りるだろうに。

 完全に、そこから感じるのは敵対心だけだ。


「ノア様!」


「お待たせ。それじゃ、ここからは僕が相手するから」


「は、はい。よろしくお願いします!」


 門番のエルフにそう言って、改めて騎馬隊と向かい合う。

 右にはジェシカ、僅かに後ろにアリサだ。もしもこの騎馬隊が襲ってきたとしても、ジェシカをすぐに背中に避難させることは簡単だろう。

 もっとも、この場でそんな凶行に及ぶとは考えにくいけど。

 一応、保険としてね。


「ノア・ホワイトフィールドだ。代表は?」


「俺だ」


 騎馬隊の先頭にいた男が反応する。

 位置的には、多分こいつだと思ってたけど。全身鎧に全面兜フルフェイスだから、その表情は知れない。

 だけど、なんだか聞いたことのある声のような。


「我らが王の御前です。馬から降りるのが礼儀でしょう。帝国ではそのような作法も教えてくれないのですか?」


「ふん。そもそも先触れのない訪問、無礼は承知の上だ」


 ジェシカの言葉にも、そう尊大に言ってくる騎士。

 さっきジェシカも言ってたことではあるけど、使者なら先に「いつ来ます」みたいなのあるよね。いきなりやってきて、「王に会わせろ」っていうのは物凄く無礼な話だ。

 そういえば僕、帝国に似たようなことやったな。結局会ってもらえなかったけど。


「それでも、使者であれば礼儀を尽くすのが……」


「鼻につくオルヴァンスの訛りが聞こえるな。貴様、オルヴァンスの犬か」


「――っ!」


「オルヴァンスの犬に用はない。俺はノアと話をしに来たのだ」


「……ノア?」


 尊大にジェシカを貶めながら、そう視線を僕に向ける騎士。

 そして、その顔を隠す全面兜フルフェイスを、ゆっくりと脱いだ。


「えっ……」


「わざわざ身内に会いに来たのだ。まさか、無礼と言って帰しはするまいな。ノア」


「レイ、兄さん……?」


「久しいな、ノア」


 その騎士は。

 ホワイトフィールド家の次男にして、天職『騎士』をもって帝国の騎士団に入隊した僕の兄――レイ・ホワイトフィールドだった。

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