第8話 調子に乗った結果

 ミロがメスだった。


 まぁ、それは良しとしよう。だがアマンダのときにも思ったけれど、服は着用してくれないらしい。そして服を着せても、魔物変化メタモルビーストを行って魔物の姿になると引き裂かれるという残念な事実がある。結果的に、魔物変化メタモルビーストを行う前に一度服を脱ぎ、人変化メタモルヒューマンを行って服を着る、みたいな謎のルールができた。

 そしてアマンダといいミロといい、裸体に何の抵抗もないようだから困る。僕ばっかりどぎまぎしててなんか腹立ってきたくらいだ。


「まぁ、こんなもんかな」


 結局、ミロには魔物変化メタモルビースト種族モードミノタウロスで固定させた。

 まぁ、いつかはミロにも人変化メタモルヒューマンで人間の街に潜入とか、そういう仕事をしてもらう日が来るかもしれない。だけれど、現状はその予定もないし、ミノタウロスとして『獣人隊』を率いることに専念してもらった方がいいだろう。

 で、そんなミロの強化結果は、今僕の目の前にある半透明の文字列が示している。


 名前:ミロ

 職業:ミノタウロスレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 鈍器格闘レベル99

 怪力レベル82

 魔術耐性レベル80

 物理耐性レベル60

 身体強化レベル38

 雷光レベル33

 隷属の鎖


 うん。

 概ね想定通りの結果である。やっぱりミロは、ミノタウロスの姿の方がしっくりくるよね。


「すげぇな、ご主人。俺様めちゃくちゃ強くなってんじゃねぇか」


「うん。レベル一気に上げたからね」


「だが、あいつの言ってたことも分かるぜ。自分が自分でねぇような感覚だ。なんだ……俺の知ってる俺の強さと、今の強さが違うみてぇな感覚だな」


「あー……」


 なるほど。

 確かに一気にレベルを上げると、そういう齟齬が発生するのかもしれない。本来レベルって、1ずつしか上がらないもんね。

 それを無視して一気に上げると、体と心が違うみたいな感覚があるのかもしれない。


「だが、間違いなく強ぇこたぁ分かるぜ。今の俺様なら、パピー相手でも勝てるな」


「むむ……確かに、でかいのから感じる強さが今までと格段に違う……」


「へっ! 羨ましいかチビ!」


「いや、ギランカにもやるからね」


 ミロだけ強くするわけじゃないよ。安心しな。

 でも、ギランカまで女子だったらどうしよう。まさか騎士になりたいとか言ってるギランカが、メスだとは思えないけど。それに、ゴブリンの雌雄はさすがの僕でも分かると思うし。

 間違いなく、ギランカは男というか、オスのはずだ。そうであってほしい。


「では我が主。我にも是非、その強さをお与えください」


「うん、勿論。ギランカが終わったらチャッピー、その次にバウで、ドレイクとアンガスね」


「おお、私どももやってくださるのですか」


「当たり前だよ。仲間なんだから」


 ドレイクとアンガスは元人間だけど、今は立派な(?)魔物だし僕の仲間だ。

 まぁ、この二人に関しては人変化メタモルヒューマン使わなくても、姿形は人間なんだけどね。ただ、二人とも魔物になっちゃってるから、他の人と意思疎通ができないのが困ってたことでもあったんだ。

 二人が人変化メタモルヒューマンを覚えてくれたら、僕の使者とかそういう立場になってくれそうだ。


「さぁ、それじゃいくよ――《魔物融合》」


 そして僕は。

 街の門の外に集めた配下たちを、まず幹部たちに吸収させていった。












 名前:ギランカ・ドラン・エルベート・グリフィッサム

 職業:ゴブリンレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 剣技レベル99

 盗むレベル99

 体術レベル65

 群の王レベル50

 応急処置レベル33

 身体強化レベル32

 隷属の鎖


 名前:チャッピー

 職業:オーガレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 鈍器格闘レベル99

 怪力レベル89

 鉄壁レベル72

 大防御レベル50

 魅了レベル36

 毒針レベル33

 隷属の鎖


 名前:バウ

 職業:フェンリルレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 噛みつきレベル99

 爪撃レベル88

 鉄の毛皮レベル72

 絶対零度レベル48

 治癒魔術レベル34

 再生レベル25

 魔物召集の吠え声

 隷属の鎖


 名前:ドレイク・デスサイズ

 職業:ゾンビグラップラーレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 体術レベル99

 正拳突きレベル88

 物理耐性レベル75

 魔術耐性レベル75

 鋼の肉体レベル50

 気功レベル37

 全身凶器レベル33

 隷属の鎖


 名前:アンガス・フールガー

 職業:リビングメイルレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 剣技レベル99

 大剣操作レベル88

 防御崩しレベル72

 光の剣レベル44

 絶対防御レベル38

 物理耐性レベル31

 隷属の鎖


「ふぅ……」


 割と疲れたけれど、ようやくひと段落ついた。

 とりあえず、ミロ以外にもメスがいたことには驚いたけれど、甘んじて受け入れることにした。僕がどう混乱しようと、性別はさすがに変えられないし。

 ちなみに、メスだったのはバウである。

 ギランカは真面目そうな好青年で、チャッピーはおどおどした少年で、バウは元気そうな少女だった。とりあえず、まだバウだったから僕の心のダメージもそれほど大きくはなかったのが幸いか。だってバウ可愛いし、まぁ女子でも仕方ないって割り切ることができた。

 ひとまず、これで幹部連中の強化は終わった。


「素晴らしい……我に、まるで力が漲ってくるかのように感じます、我が主」


「お、おで、おで、つよい……つよい!」


「僕もすごく強くなりました! 体もおっきくなりました!」


「ふ……武の極みにあると自分では思っていましたが、まだまだだったということですね……」


「まさか、己がこれほど強くなるとはな……長生きはしてみるものだ」


 ちなみに、メイン種族を変えたのはバウである。

 勿論犬系ではあるのだけれど、最初に融合したときに生まれた職業がフェンリルだったのである。前のバウに比べると、体格にして三倍は違う。そして、毛並みは真っ白でさらさらのものに変わった。

 重くなったからさすがに僕の頭の上にはもう乗れないけれど、その代わりさらさらの毛並みを撫でていると、物凄く幸せだった。


「おぉーい、小僧ー」


 と、そこで。

 ばさっ、ばさっ、と翼の音が響くと共に飛んでくるパピー。


「どうしたのさ」


「街の東門に誰か来たとか耳長の娘が言っておったぞ。まったく、この我を言伝に使うなど……」


「東門に?」


 あれ、おかしいな。

 僕たちの集まっている西門が、オルヴァンスに一番近いはずなんだけど。もしもフェリアナとかオルヴァンスの使者が来るのなら、間違いなく西門からやってくるはずだ。

 東門から最も近いのは、ドラウコス帝国。

 もしかすると、帝国の使者……?


「む、むぅっ!?」


「ん?」


「な、ななな、なんだ貴様らっ!? 何故それほどまでの強さを持っている!? わ、我のレベルを遥かに超えているだとっ!?」


 なんかパピーが驚いてる。

 まぁ、それもそうだよね。気付いたらいきなり、仲間のレベルが一気に跳ね上がってたんだから。


「おう、羨ましいかパピー。俺様たちは、ご主人に強くしてもらったんだよ!」


「なっ……! も、もしや、例の強くなる確証がないとか言っていたあれか……!」


「パピー殿は、主を信じておられなかった様子。されど、我らはこのように遥かに強くなりましたぞ」


「だ、だが、それはあやつが確証がないと……!」


 狼狽して、それからぎっ、とパピーが僕を見る。

 さすがに、最強を誇るドラゴンであるパピーだ。こんな風に、自分よりも強い者に囲まれたことなどないだろう。

 そうなれば、パピーが僕に言ってくることは一つだ。


「小僧! 我にもやれ!」


「やだ」


「何故だぁっ!」


 だってお前、拒んだじゃん。

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