第7話 実験成功

 ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。

 目の前にいる、アマンダの情報を見ながらそんな風に思う。


「ノア様……私、まるで私でないような、そんな気がしてたまらないのですが……」


「うん……そうだね……」


解析アナライズ》で示される、アマンダの情報。

 まぁ、僕は決して間違ったことはしていないと思う。僕、与えられたスキルを全力で活用してるだけだからさ。


 名前:アマンダ

 職業:キメラレベル99

 スキル

 変化(ヒューマン)

 変化(ゴルゴーン)

 変化(ケンタウロス)

 変化(ラミア)

 変化(イシス)

 変化(ホブゴブリン)

 変化(トロール)

 変化(ヴァンパイア)

 変化(サキュバス)

 ……etc


 もうね、多過ぎて映らない。

 まぁ、それだけ多くの魔物と合成した結果ではあるんだけど。

 実験結果としては、キメラのレベルは加算で上昇するけれどレベル99が上限であるらしい。そして、キメラ以外の種族としてのレベルは、大体素材にした魔物のレベルから十分の一ほど加算される。素材にした魔物がレベル30なら、3上昇するということだ。

 そして、職業として増えるのは主に素材にした魔物だ。それがちょっとだけレベルを加算されて追加される。また、魔物を素材にして合成させると共に別の魔物が変化に増える場合もあるけれど、それがどんな条件であるのかは分からない。二十回ほどアマンダに合成を行ったけれど、変化に新しい魔物が増えたのは最初のラミアと、もう一回だけだった。

 そのあたりも、要検証なのだろうか。

 それはそれとして。

 僕が調子に乗った結果が、以下である。


「アマンダ、ラミアに変化して」


「はい。《魔物変化メタモルビースト種族モードラミア》」


 名前:アマンダ

 職業:ラミアレベル99

   (キメラレベル99)

 スキル

 蛇格闘術レベル99

 締め付けレベル99

 闇魔術レベル53

 物理耐性レベル50

 魅了レベル44

 身体強化レベル40


 うん。

 調子に乗り過ぎました。

 だってさ、ほら、どんどん強くなっていくのって気持ち良くない?

 僕が魔物を合成すればするほど、アマンダのレベルがどんどん上がっていくんだよ。もう止められないよね。

 ちなみに、スキル変化の下の方になると、ほとんど素材にした魔物そのままのステータスだ。

 元からある職業のレベルは加算されるから、自然と初期の時点で最もレベルの高かったラミアが一番に上限を迎えてしまった。


「おい、やべぇなあいつ……勝てる気がしねぇぜ……」


「貴公もか、でかいの……あやつの気、最早並の魔物のそれではない」


「私にも伝わってきますよ……今までドラゴンを相手にしたこともありますが、これほど強い魔物に出会ったことはありません」


「僕も! 僕も早く強くなりたいです!」


「だが、己が己でなくなるかのような感覚があるとなれば……」


「お、おで、も、や、やる……!」


 後ろの方で、ミロたちが何やら言っている。

 アマンダの強化は、間違いなく伝わっているらしい。僕のように《解析アナライズ》を持っていなくとも、それが強者の気配という形で魔物たちには伝わるのだろうか。

 だが、これで大体検証はできた。特にデメリットもなく、強化できるということも。

 強いてデメリットというなら、僕の部下の頭数が減ることだろうか。でも、一万以上もいる僕の軍が多少目減りしたところで、別段どうということもない。素材にするのはまだ意思を与えてない奴ばかりだしね。


「よし、それじゃ……次はお前たちの中から一匹、強化する」


「僕にお願いします!」


「おい、そこは俺だろうが!」


「我が主、是非とも我が身に!」


「お、おで、おで、おで!」


「とりあえずお前たち、落ち着け」


 別に、誰か一匹をやるとは言ってないんだけど。

 最終的には、全員ちゃんとレベル上げるつもりだし。とりあえず幹部連中は、全員99が目標かな。

 一匹あたりに素材を三十体使ったとしても、アンガスとドレイクも含めて全部で二百体もいかない。単純に僕の支配下に一万五千の魔物がいるということは、三十体ずつ使って五百体くらいの精鋭ができるという計算だ。

 ……間違ってないよね? 僕、計算あんまり得意じゃないんだよ。


「それじゃ……そうだね。ミロからやろう」


「おっしゃ! 頼むぜご主人!」


「まぁ、ほとんどデメリットもないって分かったし、間違いなく強くなるみたいだからね。とりあえず、ミロのレベルも99になるまで合成させるから」


「おう」


「ただ……うーん」


 少し、考える。

 これは別に僕の拘りというわけではないのだけれど、ミロはなんとなくミノタウロスのままでいてほしい。

 一番に仲間になったわけだから、その姿が一番しっくりくるってだけだけどさ。でも、ミロがもし細身の魔物とかそういうのになったら、なんか違うと思うんだよね。

 まぁ、初期からの魔物のレベルが一番高くなるわけだから、ミロもミノタウロスが一番高くなるとは思う。もしもミノタウロス以外の魔物変化が生まれたとしても、ミノタウロスの姿を基本にさせればいいか。ミノタウロスレベル99なら文句も言うまい。

 でも、なんとなく気になる部分はある。

 ミロの人間姿って、どんな形になるんだろう。

 アマンダは小さい女の子みたいになったけど、ミロはごついおじさんかな。なんかそれっぽい。


「それじゃ……素材は、お前でいいや。ちょっと前に出て」


「……」


 意思を持たない魔物集団から、一匹が前に出る。

 トロールという、巨体の鬼だ。オーガであるチャッピーと種族的には似ているけれど、背丈はこちらの方が高い。レベルも30と、まぁ僕の部下の中では普通の方だ。

 ミロのレベルが45だから、こいつと合成したらまずレベル75のキメラが出来上がるのかな。


「それじゃ、行くよ……《魔物融合》」


 頭の中に、ミロとトロールを思い浮かべる。

 ミロをメインに、トロールをサブに設定し、それと共に光の粒子がミロとトロールを包んでゆく。


「お、お……な、なんか、変な気分だな、これ……」


「……」


 名も無きトロールは何も言わず、ミロはどことなく戸惑っている。

 でも大丈夫。もう実験はしたし、これで何の問題もないことは分かっているのだ。

 あとは、より強いミロの姿を僕に見せてくれれば――。

 そして、二匹を包む粒子はその光を増し。

 それが思わず目を瞑ってしまうほどの光の量となった、その後。


「すげぇな、これ。本当に、俺が人間になってやがるぜ」


「……」


「目線が随分とちっせぇな。つか、全く戦える気がしねぇよ。ま、その辺は変化すりゃいいってことか。なんだよ、この体の情報がぐいぐい入ってくるぜ。ええと、《魔物変化メタモルビースト》ってか?」


「……」


 すらりとした体つき。

 長く後ろに伸ばした金色の髪に、細い手足。切れ長の眼差しに桜色の唇。

 そんな姿の何かが、そこにいた。


「……………………ミロ?」


「おう、ご主人。どうした、顔が真っ赤だぜ」


「なんでお前、女なんだよ!?」


 そこにいるのは。

 誰がどう見ても――絶世の美女である。

 しかもアマンダのときと同じく、一糸纏わぬ姿で。幼女でも刺激が強すぎるのに妙齢の美女とか僕の心臓が保たないんですけど!


「はぁ?」


「いやいやいやいや! 僕めちゃくちゃ混乱してるんだけど!?」


「いや、そう言われてもな……」


 ぽりぽり、とミロが自分の顎を掻いて。


「俺様、生まれて今までずっとメスなんだが」


「……」


 初めて知ったよ!

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