第6話 融合の結果
さて。
今、僕の目の前で謎の現象が発生している。
「ノア様、どうなさいましたか?」
「いや、どうしたも何も……状況に混乱しているわけなんだけど」
アマンダは『キメラ』という謎の職業になり、しかもその覚えているスキルが全部『変化』という謎のスキルである。
僕はてっきり、魔物同士が合体して別の魔物になるのだとばかり思っていたんだけど。
しかもレベルは驚異の71だ。純粋に、レベル39のアマンダとレベル32のケンタウロスが合体したから、合算でこのような数値になったのだろうか。単純に足し算で上がっていくというのも、かなり意外ではあるのだけれど。
「アマンダ、その……今、スキルを使っているのか?」
「はい、ノア様。今、私はスキルを自動的に使用している状態でございます」
「それは……」
「《
「……」
以前、パピーから聞いたスキルで間違いない。
そして、アマンダは既に《
「……他の魔物には、変化できるの?」
「はい、勿論です。ノア様」
「それじゃ……ゴルゴーンに戻ってくれる?」
「承知いたしました」
アマンダはそう頷き、自分の胸のあたりに手をやる。
それと共に、その唇が紡ぐのは力ある言葉。
「《
そして、アマンダの姿が発光すると共に、その体躯が巨大になってゆく。
ただの女の子だった姿は僕の背丈五割増しほどの巨躯となり、艶のあった黒髪はその一本一本が蠢く蛇へと変わり、その全身に鱗を纏う。
同時に、びりびりと何かが破ける音。多分、ドレイクのシャツだろう。
ドレイク、ごめん。
「お待たせしました、ノア様」
「……自在に、変身できるってこと?」
「はい。この姿における力も、以前より増している気がいたします」
「じゃ、見せてね。《
純粋にレベルが上がっているのなら、それでいいのだけど。
名前:アマンダ
職業:ゴルゴーンレベル42
(キメラレベル71)
スキル
捕食の蛇レベル42
石化魔眼レベル42
体術レベル31
闇魔術レベル22
魅了レベル13
ゴルゴーンに戻った瞬間に、そのスキル構成はゴルゴーンのものと変わった。
そして、レベル自体は単純に3上がっている状態である。この3上昇というのが、どういう理屈に基づいているのか僕には分からない。
「……それじゃ次、ケンタウロスになって」
「承知いたしました。《
ほんとに自在なんだ。
一瞬発光すると共にその頭から蛇が失われ、下半身が馬の姿をした魔物へと変貌する。
ただし、名もなきケンタウロスの頃とは異なり、その上半身は女性のそれだ。蛇から変化した髪は真っ白で、長く伸びたそれを背中に伸ばしている。
名前:アマンダ
職業:ケンタウロスレベル36
(キメラレベル71)
スキル
突進レベル36
剣技レベル36
物理耐性レベル22
身体強化レベル12
こちらも、元のレベルから4ほど上昇している。
キメラは純粋に合算のようだけれど、魔物としてのレベルはまた上がり方が違うのかな。
「なんだか不思議な気分です。剣など扱ったことがないというのに、この姿だと自在に振るえるような気がします」
「……スキル構成が一気に変わるって、やっぱり違和感があるのかな」
「逆に、人間の姿をとると、全く何もできません。戦闘能力はほとんどないです」
「なるほど」
確かに、キメラのスキルって変化以外に何もなかったもんね。
戦闘スキルがあれば、その分攻撃力に加算されるのだ。僕の『剣技』や『体術』みたいに、その武器での戦闘における身体強化をしてくれる効果がある。
それが全くないということは、キメラ状態で戦闘能力は低いと言っていいだろう。純粋な力だけで戦わなければならないのに、この細い体だとその筋力も低いだろうから。
「それじゃ……最後に。ラミアに変化してくれる?」
「承知いたしました。《
そして、最後に残る問題がこの魔物だ。
アマンダはゴルゴーンであり、その素材に使ったのはケンタウロスである。その二種類に変化できるというのは、まぁ納得できるものだ。
だけれど、この二種類を合わせたことで新たに出現した魔物、ラミア。
僕も何度か、リルカーラ遺跡で出会ったことのある魔物ではあるのだが――。
アマンダの姿が再び変わり、今度は下半身が蛇の巨大な女性へと変貌する。
純粋に、下半身が馬から蛇に変わっただけのようなものだ。あとは、上半身へ僅かに鱗があるのが違いといえば違いだろうか。顔立ちはアマンダのものである。
「《
ごくりと唾を飲み込み、その全貌を見る。
恐らく、このラミアへの変身こそが、この『魔物融合』の本領――。
名前:アマンダ
職業:ラミアレベル53
(キメラレベル71)
スキル
蛇格闘術レベル53
締め付けレベル53
闇魔術レベル21
物理耐性レベル21
魅了レベル12
身体強化レベル11
「へぇ……」
想定以上に強くなっていた。
しかも、僕が前に見たことのある魔物のラミアとは、また違う気がする。
スキルとしては『蛇格闘術』と『締め付け』は普通のラミアでも見た気がするのだけれど、大体どんな魔物でもスキル三つから四つといったところだ。少ないものならば二つとか。パピーのような高レベルの魔物で、ようやく六つである。
それが、ゴルゴーンとケンタウロスからそれぞれスキルを持ってきたみたいに、六つのスキルを所有している。
ひとまず紆余曲折はあったけれど、この『魔物融合』が僕の仲間たちの強化に繋がるということは分かった。
これで、幹部たちにも十分に施せるということだ。もしも変化した先に魔物が気に食わなければ、元の姿に戻ることだってできるわけだからさ。
まぁキメラっていう謎の職業は残ってしまうわけだけれど、単純にレベルが上がって強くなることができて、しかも人間の姿を模すこともできるとなればもう利点しかないだろう。
「なぁ、ご主人。そろそろ説明しろよ。何やってんのか、俺らには分かんねぇんだが」
「ああ……」
ミロから、そう不満が漏れる。
確かに今のアマンダのスキル構成は、僕にしか見えないものだからね。
あとは、最後にもう一つ。
「アマンダ、最後に……人間の姿になってくれ」
「はい、ノア様。《
とりあえず予防に、僕は後ろを向く。
同じ轍は踏まないよ。シャツ破けちゃったから、裸だしね。
何故か、魔物の姿だと何とも思わないんだよね。ラミアの姿だって、上半身裸みたいなものなんだけど。
「ノア様。変化しましてございます」
「うん。それじゃ……ミロ」
「……?」
そこで、ミロに声をかける。
僕の考えが正しければ、間違いないだろう。
「お前、強くなりたい?」
「そりゃ、当然だろ。つか、ご主人が何やってんのか、そろそろ教えてほしいんだけどよ」
「うん。それじゃ、アナンダ」
後ろを向いたままで。
アナンダの姿を見ることなく、そう声をかけて。
「今、ミロが何て言ったか分かった?」
「……ノア様」
後ろからの、アナンダの困惑したような声。
きっと、混乱しているのだろう。今まで、こんなことはなかったはずなのに。
「『グルル』としか、聞こえません……」
ビンゴ。
《
僕はスキル《魔物言語理解》があるから、魔物とも人間とも会話が成立する。だけれど、僕が人間との交渉を何もかもやらなければならないという状況は遠慮したい。
だけれど、これで人間と会話をすることのできる者が、僕以外にも増えたわけだ。
これで、今後の他国との交渉とかそういう場にも、魔物を連れていくことができる――。
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