第5話 魔物融合

「やぁ、アマンダ。久しぶりだね」


「ノア様、お久しぶりです」


「変わりはない?」


「はい。ノア様の治世ありまして、私たちも安穏な日々を過ごさせていただいております」


「なら良かった」


 パピーが普通に拒否して逃げてしまったため、僕は仕方なくラファスの街の入り口から、少し離れた広い平野へと来ていた。

 そこに、アマンダを筆頭として僕の部下たちが集まっていた。もっとも、そんなアマンダの隣にいるアンガスと、僕の後ろにいるミロ、ギランカ、チャッピー、バウ、ドレイク以外は全員、全く意思を持っていない者たちである。

 そしてゴルゴーンであるアマンダは、今日も今日とて頭髪の代わりである蛇をうねうねと動かしながら、僕に頭を下げている。体のサイズが僕の五割増しほどで大きいことと、この蛇が蠢いている頭であることさえ除けば美人なお姉さんなんだけど。まぁ、女性型の魔物は大体美人なんだけどね。


「それでアマンダ、今日ここに来た理由は知ってるかな?」


「いえ、存じ上げません。何用で私は呼ばれたのでしょうか」


「えっとね……アマンダ、ちょっと見るよ」


「はい、ノア様」


「《解析アナライズ》」


 言葉と共に、僕の目の前に現れる半透明の文字列。

 それは、目の前のアマンダの情報だ。


 名前:アマンダ

 職業:ゴルゴーンレベル39

 スキル

 捕食の蛇レベル39

 石化魔眼レベル39

 体術レベル30

 闇魔術レベル21

 魅了レベル13


 僕が彼女を使役したときと同じく、レベルは39のままである。

 まずは申し訳ないけれど、アマンダを主として実験させてもらうことにしよう。レベル39くらいなら、他にも色々いるし。


「アマンダ」


「はい、ノア様」


「今から、アマンダに新しい実験を行おうと思う。これが上手くいけば、アマンダは他の魔物たちよりも強くなるだろう。だけれど、間違いなく強くなる保証はない」


「承知いたしました、ノア様。この身はノア様の下僕にございます。如何様にもお使いくださいませ」


「ありがとう」


 アマンダの言葉にほっとして、頷く。

 本来、こうだよね。ミロたちだってやれって言ってくれたし。

 なんでパピーの奴、普通に拒んだんだろう。あいつ一番にやってやるつもりだったのにさ。


「それじゃ……そうだね。お前でいいや」


「……」


 僕が指し示したのは、ケンタウロスと呼ばれる魔物の一種だ。

 人間の戦士のような上半身に、馬の下半身を持つ魔物である。半分は人間であるけれど、あくまで人間を模しただけの魔物だ。

 ひとまず《解析アナライズ》、っと。


 名前:なし

 職業:ケンタウロスレベル32

 スキル

 突進レベル32

 剣術レベル32

 物理耐性レベル21

 身体強化レベル11


 まぁ、普通である。

 僕の仲間の中では、平均値くらいだ。それほど際立って強い、というレベルじゃない。


「さて……それじゃ」


 ふぅっ、と小さく深呼吸。

 思い浮かべるのは、スキル『魔物融合』だ。任意の魔物同士を融合させることで、より強い魔物を作り出すというスキルである。

 だけれど、僕にも具体的にどう融合するのか、どう使うのかまだ分かっていない。

 まぁ、こういうのはトライ&エラーだ。失敗しても大丈夫なように、まずアマンダと名もなきケンタウロスを選んだのだから。


「――『魔物融合』」


 スキルの発動のために、そう呟く。

 それと共に、まるでスキル自身が僕にその使い方を教えてくれるかのように、情報が頭に流れ込んできた。

 まず最初に思い浮かべるのは、アマンダ。

 そして、そこに付随するかのように思い浮かべる名もなきケンタウロス。

 頭の中だけでメインをアマンダに、サブをケンタウロスにセットする。

 それと共に、光の粒子がアマンダと名もなきケンタウロスの周りに浮かび上がった。


「こ、これは……」


「……」


 驚いている様子のアマンダと、無表情のままのケンタウロス。

 その二匹を包む粒子がじわじわと広がり、そのまま二匹全てを包み込んだ。

 光は次第に広がった状態から収束してゆき、そこにいたはずの二匹が消える。代わりに、二匹の間に一つだけ、光の粒子に包まれた何かが現れた。

 ごくり、と思わず唾を飲み込む。

 魔物融合――これで、恐らく成功したものだと考えて良いだろう。

 メインサブを選ばせたということは、メインに据えた魔物を主体としたものになるということだろう。だけれど、アマンダがそのままであるのかどうかは分からない。

 僕にとって理想であるのは、アマンダがそのままの形で強くなることなのだけれど。


「――っ!」


 光の粒子が、一斉に輝きを放つ。

 その眩しさに思わず目を細めて、瞼にかかる光への負担を抑え。

 そして恐る恐る目を開いた、そのとき。

 目の前にいたのは――少女だった。


「……え?」


「……ノアさ、ま?」


 女の子である。

 さらさらとした緑色の髪を後ろに流し、ぱちくりとした目をした、可愛らしい女の子だ。

 しかし問題は、その首から下――そこに、何も着ていないこと。


「ちょっ……ちょおっ!」


「おいご主人! どういうことだ!」


「誰か! あの女の子に服をっ!」


「承知いたしました」


 なるべく見ないように、女の子に背中を向ける。

 それと共に、ドレイクが特に何も感じていないのだろうか、少女へ向けて上着を差し出す。おいおい、何その大人な対応。

 まさか目の前に、裸の女の子が現れるとは思わなかった。そりゃ、僕だって男の子だから女の子は好きだけど、かといって『裸の女の子になってくれー』と願った覚えはない。


「ノア様。大丈夫です」


「本当に?」


「はい。私の服を着せましたので」


「ああ、良かった」


 恐る恐る、振り返る。

 そこに立っていた女の子は、ドレイクのややだぼだぼとしたシャツを首から下に着ている状態だ。丈が長いシャツであるため、太腿の半ばくらいまではシャツで隠れてくれている。

 どうにか、直視はできる状態だ。どきどきと跳ねる鼓動をどうにか抑えつつ、目の前の女の子を改めて見る。

 まぁ、代わりにドレイクが上半身裸になってるけど、男の裸なんてどうでもいい。


「きみの、名前は?」


「はい、アマンダでございます。ノア様」


「……」


「ノア様?」


「ちょ……ちょ、ちょっと、待って」


 僕の知ってるアマンダと違う。

 僕の知ってるアマンダは、ゴルゴーンだ。不気味な蛇の頭と僕より五割増しに高い背丈の美人な魔物である。

 間違っても、こんな風に庇護欲を誘う子供のような見た目ではないはずだ。


「ちょ、ちょっと、見せてね」


「はい、ノア様」


「……《解析アナライズ》」


 まぁ、結果はどうあれ、この女の子がアマンダであるのならば間違いないということだろう。

 僕が知らないだけで、女の子に限りなく近い、みたいな魔物も存在するのかもしれない。そういう魔物の種類に変化したとか、そういう。

 そんな風に、思っている僕の視界に。


 名前:アマンダ

 職業:キメラレベル71

 スキル

 変化(ヒューマン)

 変化(ゴルゴーン)

 変化(ケンタウロス)

 変化(ラミア)


「……」


 何なの、これ。

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