第27話 魔物軍集合
「ドレイク、紹介するよ。僕たちの国に新しくやってきた、軍師のジェシカだ」
「あ、あの、ジェシカ・ノースレア・オルヴァンスと申します!」
「まさか、これほど早く来られるとは思いませんでした。私はドレイク・デスサイズと申します。ノア様の忠実な奴隷にございます」
「いや、お前が何言っても分からないから」
ドレイクの元に向かうと、何故かギランカとバウ、チャッピーもいた。
挨拶をするジェシカと、それに応えるドレイクだけど、多分ドレイクの言葉はジェシカには「コォォ」としか聞こえていないはずだ。
「……あ、あの、ドレイク様は一度、オルヴァンス王国にいらっしゃったことがあると思うのですが」
「はい。あの女狐が抱いていた子供が、これほど大きくなっているとは思いませんでしたな」
「……? あの、わ、わたくしのこと、お忘れでしょうか?」
「勿論覚えておりますとも」
「ノア様、ど、どういうことなのですか……? ドレイク様が……」
「うん、まぁ気にしないで」
会話は完全に繋がっていないけど、まぁ説明するのも面倒だ。
ジェシカは混乱しているようだけど、これに関しては慣れてもらうしかない。
そしてドレイクの方も、会話が繋がらないことを分かっていて、普通に『女狐』とか言っちゃってるし。
「それで、どうなされたのですか。ノア様」
「ああ。少し、ドレイクに相談したいことがあってね」
何か仕事をしている最中だったのだろうけど、さすがに優先してもらうとしよう。
一応、掻い摘まんでドレイクに説明をする。
僕の国を発展させるにあたって、帝国の領土を奪い、その地を橋頭堡とする作戦について。
「ふむ……よろしいかと存じます」
「あ、ドレイクもそう思う?」
ジェシカに言われた件をそのままドレイクに伝えると、そう返答された。
一から街を作るより、街を奪った方が早いのは確かだ。それは間違いない。
「我々としても、作業が滞ってきた部分はあるのです。それにあたり、橋頭堡となる場所を奪うというのは良い提案かと存じます」
「それじゃ、どこを奪うかだね」
「良いと思われるのは……ここから最も近くにある、ラファスの街ですな。リルカーラ遺跡から最も近い街ということで、冒険者がよく訪れる街です」
「ふむ」
ドレイクが手で示す場所に、僕は頷く。
ラファスの街は、僕がリルカーラ遺跡に籠る際に立ち寄った街だ。確かにあのとき、冒険者が大勢いた気がする。
でも、その代わりに軍はほとんどいなかったような。
「でもラファスの街って、そんなに大きくないよね?」
「そうですな。住民全部を合わせても、三千人といったところでしょう。冒険者がよく訪れるので、宿などはあるようですが」
「そんなに小さい街を奪っても、僕の部下は一万以上いるよ。全員が住めないじゃないか」
「代わりに、ラファスの街の周囲は平地が広がっております。街を広げるにあたっても、現在よりは楽に作業が進められるでしょう」
あ、なるほど。
今は周りが森だから、伐採とかそういうのしなきゃいけないもんね。
「それに、最近はエルフから不満の声も上がっておりまして」
「どういうこと?」
「元々、エルフは『森の人』と呼ばれる種族です。隠れ里を広げるということは、森を伐採するということですし……彼らにとって隣人である森を開拓することを、あまり快くは思っていない様子なのですよ」
もっとも、ノア様の前で声高らかに叫ぶ者はいませんが、と続けるドレイク。
逆に言えば、言わないだけで不満は溜まっていたということか。さすがに僕も、エルフたちの不満を無理に押さえてまで国を広げたいとは思わない。
そう考えると、この提案は渡りに船ということだったのか。
「よし」
僕の腹は決まった。
ジェシカの提案もあるし、ここは僕が号令を決めるところだろう。
「ラファスの街を、奪おう」
魔王と呼ばれようと、侵略者と呼ばれようと、もう構わない。
僕はグランディザイアの王として、帝国を侵略しよう。
「よっしゃ、戦争だなご主人! 任せな!」
「我が主、我が精兵たちをお見せいたしましょう」
「お、おで、おで、がんばる……!」
「わぁい! 僕だって活躍します!」
「ノア様、私もまた一軍を率い、ノア様の信頼に応える所存です」
ミロ、ギランカ、チャッピー、バウ、ドレイクからそれぞれ上がる、喜びの声。
魔物たちにしてみれば、一から国を作るなんてまどろっこしいもんね。それより、人間を皆殺しにして都市全部奪います、の方が余程シンプルだ。
「ノア様。我ら部下一同、喜ばしく思います」
「ああ。準備が出来次第、攻め込むよ。ドレイク」
「はっ! バウ殿、全軍を集合させてください!」
「はい、ドレイクさん!」
ドレイクの言葉と共に、アオォォォォォン、と大きくバウが咆哮を上げた。
それと共に、伝わるのは地響きのような大地の唸り。それは地震というわけではなく、ここを目指す者の数が多すぎるゆえの、大地の震え。
僕の配下の中でバウだけが持ち得る特性、『魔物召集の吠え声』だ。
その声に導かれた僕の配下は――その数、一万五千。
それがまるで規則性を持っているかのように、僕の部下たちの後ろへと、精兵により構成された軍のように並び始める。
「『獣人隊』三千、揃ったぜご主人」
ミロの後ろに並ぶのは、獣と人を融合させたような魔物たち。
リザードマン、ワーウルフ、ラミア、ケンタウロス、ハーピー、アルラウネ、ドラゴニュートなど、それは半人に近い存在だ。それぞれが手に持っている武器を示しながら、その士気を示している。
「『亜人隊』三千、揃いまして。我が主」
ギランカの後ろに並ぶのは、人に近く、しかし人と異なる進化を遂げた魔物たち。
ゴブリン、オーク、オーガ、タイタン、グレンデル、ジャイアント、サイクロプス、ギガス、トロールなど、人間よりも遥かに大きいものから、人間よりも小さな種まで揃っている。ミロよりも大きい巨人種もいれば、ギランカよりも小さなゴブリンも含めて、まとめて『亜人』としているのだろう。
「『百獣隊』三千、揃いました! ご主人様!」
バウの後ろに並ぶのは、獣の姿から乖離していない、しかし混ざった者もいる魔物たち。
ガーゴイル、キメラ、オルトロス、ユニコーン、バジリスク、ヒポグリフ、マンティコア、ペガサスなど、最も混沌としている魔物たちだ。大きさも様々だが、どこかおかしく思えるのは、それを率いるバウが最も小さいことだろうか。
「『不死隊』三千、御身の前に。ノア様」
そしてドレイクの後ろに並ぶのは、アンデッドだ。
ゾンビやグール、スケルトン、デュラハン、リッチ、ゴースト、レイス、ヴァンパイア――種類は様々なれど、どれにも共通するのは不死者というものか。率いるドレイクもまたゾンビグラップラーという職業になっているため、不死者の軍勢と呼んで良いだろう。
さて。
三千ずつの四部隊がこれで揃ったということだ。だけれど、僕の率いる魔物は一万五千。
さて、残る三千は――。
「残る三千は、ノア様の『親衛隊』にございます」
「……僕の?」
「はい。副隊長としてチャッピー殿を。ノア様の部下である魔物の中でも、能力として上位の者をまとめております」
「……そう、か」
「お、おで、ふく、たいちょ。がんばる」
僕の後ろに揃う、三千の魔物たちを見る。
ワイバーンやサラマンダーといった亜竜種、ケルベロスやバイコーンといった獣種、ゴルゴーンやサハギンといった獣人だとか、ゴーレムやリビングメイルなどの無機物種がいたり、他にも不死者、亜人、巨人など様々な魔物で混成されている。もっとも混沌としている軍団だと言っていいだろう。
これが――僕の『親衛隊』。
「我ら四大将軍、ここに揃いましてございます。どうかご命令を。我らが王」
ドレイクに告げた、ミロ、ギランカ、バウ、ドレイクを四大将軍として軍を編成する案。それが、完全な形でここに存在している。
僕はそんな彼らを睥睨し、種族の揃った部隊を率いる四匹と、僕の後ろに存在する混成軍を見て、思った。
これだけの戦力があれば、帝国になど負けるはずがない――と。
「これほど、の、魔物が……!」
そして、そんな僕の戦力を見たジェシカは。
ただその数に、暴力的な魔物の群れに、戦慄していた。
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