第16話 新スキル

「ふーん……」


 新しいスキルが増えてくれたのは、僥倖だ。

 ひとまず僕が覚えたのは、『魔物呼び寄せ』『魔物融合』『魔物心内会話』の三つだ。単純に、呼び寄せは一匹だけ自由に自分の近くに召喚することができ、融合は合体させることでより強力な魔物を作り出すことができ、心内会話はいわゆるテレパシーのようなものが使えるのだと考えていいだろう。

 さて、それじゃ物は試しに、と。

 頭の中で、パピーのことを思い浮かべながら、唇が言葉を紡ぐ。


「《伝信メッセージ》」


 呟いた瞬間に、頭の中に空間が一つ作られたような感覚が過る。

 声に出す言葉と、頭の中で考えている言葉――その中間にあるような感覚だ。考えていることがそのまま出るのではなく、かといって言葉に出すことなく会話ができるような、そんな奇妙な感覚である。

 そして、スキルの効果であるのかどうかは分からないけれど、なんとなくパピーと繋がっているような気がする。


『おい、パピー』


『む……む、小僧か? 心の内に語りかけておるのか?』


『ああ、そうだよ。僕の新しいスキルだ。パピー、そっちはどういう状況?』


『どういう状況も何も、我は特に変わりないわ。貴様らが王都の中へ入っている間、我は暇を潰すだけのことよ』


『だよなぁ』


 現状、パピーの役割って特にないしね。

 まぁ、いざとなれば僕と一緒に暴れてもらうけどさ。少なくとも、オルヴァンス王国は友好的だし、現状パピーの出番はなさそうである。

 あとは僕たちが用事を終えてから、またあの森まで送ってもらうだけだ。

 しかし、ちょっと最近思うことがあるんだよね。

 僕の仲間は、確かに一万五千匹いる。エルフたちも庇護対象ではあるけれど、僕の仲間だと言っていいだろう。

 でも、思うんだ。明らかに、僕の国に足りない人材がいる。

 それは、知恵者だ。

 言い方は宰相とか軍師とか色々あるのかもしれないけれど、とにかく頭脳面で働ける人がいない。特に、こんな風に他国と交渉するにあたって、である。今のところドレイクがその立場にあるけど、正直他の人間には「コォォ」としか聞こえないらしいし、交渉とかできないだろう。

 僕の頭が、あまり出来の良いものじゃないことは分かってる。だったら、僕の代わりに色々と考えてくれる人材が必要だと思うんだよね。アリサとかはいるけど、こっちは逆に頭があまり良くないから、交渉には向かないだろう。


『なぁパピー』


『何だ小僧』


『うちの国にもさ、軍師とかそういうの必要だと思わない?』


『どういうことだ?』


『さっき、女王様……フェリアナさんと色々話してたんだけどさ、僕の頭じゃ、彼女が何を考えているのか読めないんだよ。だから、僕の近くで僕に助言してくれるとか、僕の代わりに交渉できるとか、そういう役割の人材が必要だと思うんだよね』


『ドレイクで良いではないか。あやつは色々知っておる』


『そうじゃなくて、人間と話ができる奴が必要なんだってば』


 このままじゃ、いつまで経っても他国との交渉を全部行うのが僕になっちゃうよ。

 そもそも楽して静かに暮らしたいから建国を決意したのに、僕が忙殺されてちゃ意味がない。


『ふむ、知恵者か。確かに、小僧の頭の出来はあまり良くないからな』


『殴るぞパピー』


『事実ではないか。それを理解した上で、他者の力を求めるのならばそれは賢王よ。一人で何でもできる王よりも、他者に頼り仕事を割り振り、その上で協力する王である方が心象は良いと思うぞ』


『ふーん……』


 別に賢王になりたいわけじゃなくて、僕が楽をしたいだけだ。

 そのためにも、やはり人材というのは必要になってくるだろう。誰か仲間になってくれないかな。

 例えば……リルカーラ遺跡で会った、マリンとか。少なくとも、人と会話ができる人で。


『そういう仲間ってさ、どうやったら手に入るんだろ?』


『我が知るか。そういう輩は、別段探さずとも自然と仲間になるものではないのか』


『自然に仲間になってないから困ってんだよ』


『だが、我にその役割を求められても困る。我は《人変化メタモルヒューマン》など覚えておらぬからな』


 む。

 なんか、ちょっと意味深な言葉が出てきた。

 今まで聞いたこともない術の名前なんだけど。《人変化メタモルヒューマン》?


『パピー、何それ』


『何がだ』


『いや、その《人変化メタモルヒューマン》ってやつ』


『高位の魔物だけが覚えるスキルだ。我も詳しいわけではないが、人間に変化することができるらしい。覚えるためにはレベル70が必要だと聞いたことがある』


『へぇ……ああ、だからお前覚えてないのか』


 確か、パピーのレベルって66だったか。僕に甘噛みしていただけでバウのレベルはすごく上がったし、パピーにも僕に攻撃させてやろうかな。

 あ、でも反射で殴っちゃいそう、僕。


「……あれ?」


 そこで、ふと思った。

 それは、新しく覚えた僕のスキル――魔物融合である。

 自分の従えている魔物同士を合体させることで、より強力な魔物にする、とか書かれてたはずだ。どのくらいレベルが上がるのかは知らないけど。

 でも、もしもこれでレベル70とかの魔物を作ることができたら、《人変化メタモルヒューマン》とやらを覚えた魔物が僕の仲間になるってことだよね。

 何それすごい。


『まぁ、世の中を探してもレベル70を超えた魔物など、僅かなものだ。少なくとも、我は知らぬ。《人変化メタモルヒューマン》を聞いたのも、噂くらいのものだ』


『……』


『我とて、この百年はレベルが変わっておらぬからな。60を超えると、レベルが上がることすら時間がかかる。まぁ、我がさほど戦っておらぬから、という理由はあるだろうがな』


『……』


 面白いかもしれない。

 今、僕には従う魔物の中で、意思を持っていない者が一万匹以上いる。

 さすがに意思を持っている魔物だと、なかなか捨て駒のように融合とかできないけど、僕に機械的に従う者は大勢いるんだよね。だったら、このあたりの魔物で実験をしてみてもいいかもしれない。

 あとは、希望者とか? ミロあたりが、強さを求めて希望してきそうな気がする。

 でも、融合して生まれた魔物って、どんな感じになるんだろう。元の性格とか思い出とか引き継いでくれるのかな。引き継いでくれないのなら、ミロは融合させたくないよね。あいつ、僕に一番に従ってくれたし。

 あと、やっぱり生まれるのは魔物であるわけだから、教育は必要になるよね。学校とか、そういうのを作らなきゃいけないかもしれない。

 でも、面白そうだ――純粋に、そう思った。


『パピー』


『何だ』


『安心してくれ、お前を一番にやってやるからな』


『……? 何を言っているのか分からんが、まぁ好きにせよ』


 うん、安心してくれパピー。

 ちょっと性格とかどうなるか分からないし、自我とか思い出とか過去とかどうなるのかさっぱり分からない。むしろ、ちゃんと成功するのかも分からない、危険そうな実験ではあるけど。

 パピーなら、まぁどんな結果になっても「ま、いっか」で済むだろう。

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