第13話 衝撃

 一瞬、わけが分からず目を見開く。


「な……な……!?」


 ハル兄さんに、父さんに、母さん。

 僕の血を分けた家族が、処刑された――その言葉に、見開いた目が血走るのが分かる。

 何故、僕の家族が、処刑をされねばならないのか――。


「どういう、こと、ですか……それは……!?」


「言葉通りですわ。そして、これは間違いない事実でもあります。帝国の情報を持ち帰らせている者から、間違いなく伝わった情報ですわ。お三方は、秘密裏に処刑をされました」


「何故……!」


「罪状については、明らかにされておりません」


「……」


 十五歳の頃に家を出て、今までずっと旅をしてきた。その間、実家に顔を出すことは一度もなかった。

 エルフの隠れ里を本拠地にしようと考えていたとき、実家に帰ることは二度とないだろう――そう考えてさえいたのだ。

 だけれど、そんな風に処刑をされたと聞いて、落ち着いていられるほど僕は人でなしじゃない。

 僕を産んで、育ててくれた母。厳しくも優しかった父。長兄として常に僕を導いてくれた兄。

 その三人が、もうこの世にいない――。


「レイ、は」


「……」


「僕の、兄の……レイ兄さんは……レイ・ホワイトフィールドは、生きているのですか……?」


「処刑を受けたのは、お三方のみと聞いておりますわ。わたくしの方でも調べましたが、レイ・ホワイトフィールド殿は騎士団に所属しており、現在は大隊長を任されているとのこと。恐らく、国への貢献があったからこそ死罪を免れたということでしょう」


「……」


 僕の両親と、兄が死ななければならなかった理由。

 僕の実家は、貴族家とは名ばかりのアンドレアス辺境伯の使い走りに過ぎない。一族郎党処断されるような、そんな罪を犯しているわけがないだろう。そもそも、真面目くらいしか取り柄がない父と兄だった。

 ならば、その理由は一つしかない。


 僕だ。


 僕の存在が――ノア・ホワイトフィールドという人間が、魔物使いになった。その事実が、帝国に伝わっていたのだ。僕のことを魔王だと断定して。

 そして、魔王を産んだ一族――ホワイトフィールド家は、その事実により国家反逆罪として処せられた。そう考えれば、納得がいく。

 つまり。

 僕のせいで、家族が死んだ。


「……」


「ノア様。帝国は、ノア様を敵として認識しております。そして、グランディザイアを囲むのは帝国と、わたくしどもオルヴァンス王国だけですわ。ならば、どちらと手を組むべきか……それは、お分かりになるのではないでしょうか?」


「……」


「わたくしどもは、グランディザイアへの援助を惜しみませんわ。必要な人材があれば、必要な物資があれば、必要な兵力があれば、わたくしにお教えください。わたくしは、それをグランディザイアのために、そしてノア様のためにご用意いたしましょう」


 大きく、息を吐く。

 家族が処断されたという事実に、喉がカラカラに渇いているのが分かった。震える手で目の前のカップを取り、そのまま一口、口に含む。

 すっと紅茶の芳しい香りが鼻を抜ける。だけれど、その程度ではざわつく僕の心を落ち着かせてくれない。

 そう、端的に言おう。

 僕は、怒っている。


「フェリアナさん」


「ええ」


「僕は帝国を潰します。いいですね」


「勿論です。ですが、建国して間もない小国が、大国であるドラウコス帝国に対して宣戦布告を行うことは難しいでしょう。ですので、まずはわたくしどもオルヴァンス王国との調印を結ぶべきかと。そうすれば、グランディザイアはオルヴァンス王国の名代としてドラウコス帝国と戦争をする大義名分ができますわ」


「じゃあ、それで」


 大義名分なんてどうでもいい。

 だけれど、国としてそれが必要ならば、用意させればいい。フェリアナが用意してくれるのならば、僕はただ暴れるだけでいいのだ。できることならば、今すぐパピーに乗って帝国に攻め込みたいくらいの気分なのだから。

 父さんと母さんと兄さんを――僕の血を分けた家族を害した帝国を、許しはしない。


「では、ノア様。今宵は、一晩この王都にお泊まりください。王宮に寝室を用意いたしますわ」


「……今すぐでも、いいですけど」


「調印式や、そういったセレモニーにおいては、前段階が必要となりますわ。少なくとも我が国の重鎮を横に控えさせ、グランディザイア、ならびにノア様という同志ができたことを報告しなければなりません。条文などはその際に確認いただく形でよろしいでしょうか?」


「……ええ、それでいいですよ」


 フェリアナは全面的に協力してくれる。ならば、僕はそれを利用するだけでいいだろう。

 僕と、僕の持つ軍事力が必要だと言うならば、存分に使ってやるさ。帝国を根こそぎ潰してやる。

 もう、僕は帝国を潰すと決めたのだ。ミロにも、ギランカにも、チャッピーにも、パピーにも、新たに僕の仲間になった一万五千匹にも、存分に暴れさせてやる。

 それで僕を魔王と呼ぶのなら、それでもいい。


「では、今から女官に部屋の用意をさせますわ。わたくしは、これで失礼いたします。ノア様は、もう少々こちらのお部屋でお待ちいただいてもよろしいですか? 用意ができ次第、案内するよう手配しておきますので」


「……ええ」


「参考までに、用意する部屋はおひとつでよろしいでしょうか?」


「……二つ、用意してください」


 フェリアナの言葉に、そう注文する。

 一人で考えたいことがあるし、個室を貰えるとありがたい。


「承知いたしました。では今宵はゆるりと休まれて、また明日、我が国と調印を結びましょう」


「ええ。よろしくお願いします」


「それでは」


 フェリアナが、部屋から出てゆくのを見送る。

 そして、僕が考えるべきは明日のこと――そして、これからのことだ。

 帝国は、必ず滅ぼす。僕と僕の仲間たちの手で、必ず潰す。

 それが、両親と兄への――僕からできる、せめてもの手向けだ

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