第10話 オルヴァンス王国へ
「お、見えた。あれがオルヴァンス王国の王都だね」
「う、うぅ……わ、我の、鱗が……」
結局。
鱗を全部剥ぐというのはさすがに非道な気がしたので、『オルヴァンス王国の王都に到着するまでの間、僕の手が届く距離にある鱗を剥ぐ』という形に収まった。一枚剥ぐごとにパピーが悲鳴をあげていて、何故かアリサには距離をとられてしまった。
ちなみに、剥いだ鱗は一応袋の中に仕舞ってある。魔物のパーツなのに、何故か消えないんだよね。割と鋭いし、投擲武器に使えるかもしれない。
「いいじゃん。僕が回復魔術かけたら治るんだから」
「かけてくれぬではないか!」
うん。かけてないけど。
ちなみに、僕の周辺は既に鱗が一枚もない。数えるのが面倒になったからやめたけど、多分五百枚くらいは剥いでると思う。
不思議と血は出てないけど。鱗って剥いでも血が出ないものなのかな。
「の、ノア殿……さすがにそれは、パピー殿が可哀想に思えるのだが……」
「いや、悪いのこいつだから」
「私にはパピー殿の言葉が分からないが……それほどノア殿を怒らせるようなことをしたのか?」
「あー……」
したんだけど。
でも、説明しづらい。既に僕は、僕の国をグランディザイアと名乗ってしまったわけで。
パピーの言葉が分からないアリサにしてみれば、グランディザイアという名前を考えたのが僕だと思っているはずだ。少なくとも、パピーに唆されてつけた名前だとは思っていまい。
で、ここで普通に説明すると、僕の威厳とかそういうのが下がってしまうわけで。
「僕の家燃やしたからね」
「……それは、随分前の話では?」
「まぁ、そういう僕に迷惑かかる色々をパピーはやってるんだよ。だからお仕置き」
「我に対してだけ厳しくないか!?」
「そりゃ、お前以外何もしないからね」
余計なことをしてくるのは、パピーくらいのものだ。
ミロは口は悪いけどちゃんと従ってくれるし、ギランカは忠実だし、チャッピーは真面目だし、バウは可愛いし。
なんだろう。これも、パピーが僕の仲間になる前から意思を持っていたからなんだろうか。
「まったく……小僧、王都とやらに降り立ったら、我に回復魔術をかけろ」
「王都に着いたらかけるよ」
「さすがに我も、鱗をこれほど剥がされた姿で威厳など保てぬからな……」
「だったら、ついでに全身剥いでみたらどう? 統一感が出て良いかもしれないよ」
「全力で断る!」
ちぇ、つれねぇ奴。
「ノア殿」
「ん? どうしたの、アリサ」
「先程の帝都と同じく、人が城門の前に集っている。恐らく、兵士だろうな」
「あ、そうなんだ?」
アリサは職業が『弓手』だからか、視力が良い。
僕にはまだ豆粒のようにしか見えないオルヴァンス王国王都――その城門に集う人々が、見えているのだろう。
今度は友好的に対話ができるといいんだけどな。せめて、王都の中にくらいは入りたい。
「んじゃ面倒だけど先にやっとくか。《
「貴様が我を傷つけなければ、貴様が回復魔術を使わずとも済んだものを……」
「なんか言った?」
「……何でもない。ひとまず、先と同じく王都の少し手前で降りるぞ」
パピーも少しは学習しているらしい。
まぁ、パピーも悪いけど僕もちょびっとは悪い気がする。少し苛立ってたんだよね。
ドラウコス帝国は、僕をまるで相手にしていなかった。少なくとも、僕なんて脅威にすら感じてないみたいに。
ランディとシェリーから情報は聞いているだろうに、それでも僕を相手にしなかったのだ。まるで、僕なんていつでも倒せる武力があるかのように。
僕のレベルまで伝わっているのかは分からないけど。多分、あのタイミングで《
だけれど、それでも。
僕は人間の英雄であるという、Sランク冒険者を圧倒したのだ。そしてグランディザイアとかご大層な名前を持つパピーを従えているのだ。そんな僕に対して、もう少しそれなりの態度というのはなかったものなのだろうか。
オルヴァンス王国も、僕に対してそんな態度をとるのなら。
いっそのこと、予定を変更してここで暴れてもいいかもしれない。僕は元々、自由気ままな旅人だ。その日の気分で動いていた毎日だったのだから。
今更、そんな風に自分を抑制することも――。
「小僧、降りるぞ」
「ああ」
オルヴァンス王国の王都が、ようやく近付いてきて。
その城門の前に集う、鎧姿の数多の軍勢――その姿が、僕にも見えてきた。
数だけならば、ドラウコス帝国よりも遥かに少ない。だが、あちらが民兵に毛が生えたくらいの力しか持っていないのに比べて、こちらは鍛え抜かれた精兵だということが一目で分かる。上等な鎧に身を包んでいるし、その装備も重装だ。恐らく、近衛騎士団とかそういう連中なのだろう。
パピーが、ゆっくりと高度を下げる。
そして地面との距離をゼロにしたあと、僕はパピーの背中から飛び降りた。共に、パピーが首を下げると共にアリサが降りてくる。
「くっ……あ、あれが、ドラゴン……!」
「なんという覇気……! 最強と称されるだけのことはある……!」
「恐れるな!」
騎士たちが、そんな風に呟く声が聞こえる。
だけれど、そこに違和感が一つあった。
ドラウコス帝国の帝都防衛騎士団――その先頭に立っていたのは、騎士団長アイザックだった。
だが、そんな騎士たちを後ろに、先頭に立っていたのは。
女性、だった。
「ようこそ、オルヴァンス王国へ……あなたが、ノア・ホワイトフィールド様でよろしいですか?」
「え……え、ええ」
あれ。
僕、この国に来たこと、一度もないんだけど。なんで僕の名前知ってるんだろう。
僕と変わらないくらいの、若い美しい女性だ。だけれど、どことなく気品のようなものが漂っているのは、その生まれが高貴であるからだろうか。
純白のドレスに金の刺繍が施され、派手だが悪趣味なほどではない貴金属を身につけている。その頭に被っているのは、恐らく純金でできているのだろう金色のティアラだ。そのティアラから流れるような銀色の髪が、陽光に映えている。
端的に言うなら、物凄く上品そうな美女である。
「お待ちしておりました、ノア様」
「え……待ってたって」
「我々に敵意はありません。ただ、わたくしの身を案じた者たちが後ろに控えているだけに御座います。勿論、ここで戦うつもりはありません。そちらも同じお気持ちだと嬉しいのですが」
「あ……あ、はい。僕たちは、ここで戦うつもりは……」
なんだろう、色々予定外だ。
ここで同じような待遇を受けるなら、暴れてもいいかなって思ってたところなんだけど。
なんとなく肩透かしを食らった気分になりながらも、しかし女性はまるで敵意を見せることなく、僕に向けてにこりと微笑んできた。
「申し遅れました。わたくし、フェリアナ・ノースレア・オルヴァンスと申します」
女性――フェリアナは、そう微笑みながら僕に一礼し。
その形の良い唇で、驚きの言葉を発した。
「このオルヴァンス王国の、女王をしておりますわ」
「………………え?」
なんだか、ちゃんと話ができそうな女性が来てくれたと思ったら。
まさかの、女王が直々に来たとか物凄いサプライズだった。
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