第4話 軍編成

 まぁ、そういうわけで。


 物凄く流された感はあるけれど、僕は僕の国を作ることに決まった。決まってしまった。ぶっちゃけ何をやればいいのかさっぱり分からない。

 とりあえずドレイクが「まず、我らの強靭なる民をノア様の支配下に置くべきかと」とか言い出したから、ひとまず僕の仲間にはなっているけれど完全な意思を持っていない連中を、一匹ずつ僕の仲間にしているわけだ。


「はぁ……」


「なんだよご主人、もう飽きたのかよ」


「とっくに飽きてるよ」


 最初は、魔物が仲間になっていくのが楽しかったよ。あー、こいつこんな性格なのかー、とか。

 でもね、段々と作業になっていくんだよ。かといって、集中切らすと手加減を誤って殺しちゃうし。さすがに魔物とはいえ、既に僕に従っている魔物を殺すというのは偲びない。しっかりと僕の仲間になっていない魔物だと、魔素が凝固していないらしく消えちゃうんだよね。

 だから一生懸命手加減をしながら、もう何匹仲間にしただろう。ミロが言うには、まだ千匹もいってないらしいけど。

 もう、僕が国を作るって言い出してから一月も経ってるのに。

 単純に一日で三十匹くらいしか仲間にできてない。一万五千匹、仲間にするのに一年以上もかかる計算だ。


「つか、まとめて吹っ飛ばすわけにはいかねぇのか?」


「まとめて吹っ飛ばした場合、前の方にいる数匹は死ぬと思う」


「面倒くせぇ能力だな、ご主人。使い勝手が悪ぃ」


「僕も切実にそう感じてるよ」


 どうにか短縮する手段とかないかな。

 もう、意思疎通ができる魔物は千匹以上いるわけだし、残りは別に意思を持たなくてもいいじゃない、とか。ほら、ミロを将軍にして意思疎通ができる魔物を隊長にして、兵隊はそれ以外、みたいな。それで作るのがミロ軍で、ギランカを将軍にした場合はゴブリン種族をメインに据えたものだとか。

 あれ、案外いけそうかも。とりあえずそれで軍の形だけ作って、僕があとは空き時間とかで一日一匹とか二匹とかやっていく形。

 そうすれば、現状からは解放される。


「よし!」


「んだよ、ご主人」


「とりあえず外に出よう。相談しなきゃ」


「何があったんだよ」


 立ち上がって外に出て、まず外の空気を吸った。

 室内の淀んだ空気ではなく、澄んだ森の空気だ。それだけで、まるで心が洗われるように感じる。

 まぁ、列をなした魔物の群れを見ると、そのテンションも一気に下がるんだけどね!


「えーと……」


 とりあえず、探す相手はドレイクだ。

 何故かは分からないけど、最近ドレイクが参謀みたいな感じになってるし。まぁ、人間社会のことを知らない魔物よりも、それなりに冒険者として格の高い位置にいたドレイクの方が、よく知ってるしね。適材適所、ってやつ。

 え、僕? 十五歳からずっと旅ばっかりしてきたから、社会のことなんてさっぱり知らないよ?


「ひとまず、オルヴァンス王国側の森を伐採いたしましょう。まずは、ノア様に相応しい居城を建てなければなりますまい。パピー殿、建築についてはどうお考えでしょうか?」


「うむ。エルフの村に良い腕の建築士がおる。あやつに任せれば問題あるまい。我らと会話はできぬが、それは小僧を交えれば済む話よ」


「そこまでノア様のお手を煩わせるわけにはいかないでしょう。私も言葉が通じないことは不便に感じておりますが、どうにか疎通をするための手段を考えるべきだと思います。例えば……そうですね。筆談などは如何でしょう?」


「我は人間の言葉は分かるが、文字は分からぬぞ」


「それは私が分かります。そうですね……では、そのあたりを魔物に教える機会も必要になるかもしれませんね。教育という形で、まずは魔物全員に人語を習得してもらいましょう。幸い、人間の言葉は理解できるようですし」


「うむ、お前の好きにするがいい」


「は。お任せください」


 ドレイクいた。

 何故かパピーとそんな話をしている。というか、なんでそんなに偉そうなんだよパピー。

 言っとくけどお前、僕の仲間の中ではかなりランキング下だからな。


「ドレイク」


「おや……おお、ノア様。どうなされたのですか?」


「いや……何してんのかな、って思ってさ。ちょっと相談事もあるし」


「は。このドレイク、ノア様の下僕にございます。何であれご命令くださいませ」


 いや、別に下僕である必要はないのだけれど。

 それだけ僕を慕ってくれている、と喜ぶべきなのだろうか。これで女の子なら喜んだかもしれないけどさ。


「まず、軍を作ろうと思うんだ」


「軍を、ですか?」


「うん。とりあえず、僕の仲間になったのは千匹くらいだ。千匹もいれば、幹部クラスは十分だろ? ミロとギランカ、バウにドレイク、お前たちを四天王として、四大将軍とする」


「おぉ……!」


 僕の言葉に、ドレイクが感嘆の溜息と共に目を見開いた。

 四大将軍というのは、さっき考えたばかりのことだけど。少なくともミロ、ギランカ、ドレイクは僕の仲間の中でも、最もレベルの高い者たちだ。最も低いギランカでもレベル43であり、その他の魔物はほとんどが30台である。

 ちなみに、バウも現在はレベル34まで上がっている。何故そこまで上がっているのか不思議でたまらなかったが、どうやら僕がバウと遊んでいるとき、甘噛みをしてくるのが僕への攻撃と認識されるらしかった。レベル差のある相手への攻撃は、それだけでレベルが上がるのだと聞いたことがある。そういうことだったのだろう。


 しかし僕の言葉に、信じられないとばかりに目を見開いているのはパピーだ。


「お、おい、小僧……!?」


「そして、お前たちの配下に、僕が新しく仲間にした者を隊長として据えさせる。その下に、まだ意思を持たない魔物たちを配備する形だ。そのあたりの選別はドレイク、お前に任せる。それでいいな?」


「承知いたしました、ノア様。必ずや、精強なる軍を作ってみせましょう」


「ちょ、ちょっと待て小僧! 我は! 我は!?」


「ははっ、俺も将軍ってか。ああ、チビと犬には俺から伝えておいてやるよ。ドレイク、てめぇは俺の配下を選別しとけ」


「ええ。それぞれの特色を出しても良いかもしれませんな。ミロ殿の軍は獣人種を主とし、バウ殿の軍は獣種を主とし、ギランカ殿の軍は亜人種を主とする形で如何ですかな? 私の軍は残る混成軍といったところで……」


「まぁ、そのあたりは任せるよ」


「はい、ノア様。お任せくださいませ」


「我の話を聞かんかぁーっ!!」


 僕の仲間で最もレベルが高いのはパピーだ。それは間違いのない事実である。

 でも、僕はパピーを将軍にするつもりは決してない。


 だって、こいつが調子に乗るの、目に見えてるし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る