第3話 建国への道標
「まぁ、でも……国ねぇ」
さて、改めてここで最初に戻ってみよう。
僕が僕の国を作る。そして、この森を僕の領土だと主張することで、隠れ里のエルフを保護することができるわけだ。
だけれど、本当にそんなことが可能なのだろうか。僕は国なんか作ったことないし、国の運営だってしたことがない。そもそもホワイトフィールド家は辺境伯の使い走りみたいなものだったから、領土の運営すらやったことがないのだ。
だから、国を作るといってもなんとなくふんわりとした印象しか思い浮かばない。
「ノア様、建国には賛成を示してくださるのですか?」
「まぁ、それがここを守る、唯一の方法ならね。でも、僕は国とか作ったことないし、何すればいいかは分からないよ」
「勿論、それは我々配下が全力で補佐いたします。私にも経験があるわけではありませんが、帝国の中枢に近しい場所におりました。少なからずお役には立てるかと存じます」
「……」
ドレイクの言葉に、ふむ、と腕を組む。
なんとなく流されてしまっている気はするけど、ドレイクの言う通りな部分は確かに多い。僕は何の権限もないし、むしろ現在もホワイトフィールド家の三男だ。帝国が僕のことを知っているかどうかは分からないけど、帝国から辺境伯に命令が下り、辺境伯から僕に命令が与えられたら逆らえない立場にあるんだよね。
少なくとも、帝国と真っ当に交渉ができる程度の地力は持っておかなければいけないのかもしれない。
「んじゃ、ドレイクには色々任せるとして」
「は。ありがとうございます」
「他の面々は? ミロ、お前は何ができるんだ?」
「俺に期待するなよ、ご主人。俺ぁ迷宮育ちだぜ。戦うしかできねぇよ」
「……まぁ、そうだよね」
さすがに僕の配下に、そんな建国とか国の運営に詳しそうな奴はいない。
ギランカは目を逸らしているし、チャッピーは意味が分からないと首を傾げているし、バウは不思議そうに目をぱちくりさせているし。パピーは何故か向こうの方で、エルフの子供たちに囲まれていた。「よく来たな! 子らよ!」とか機嫌が良さそうである。
強いて言うなら、この森で数多の軍勢を率いていた、パピーの方がそういうの知ってそうだけど。でも、そのあたりあいつに期待しても無理そうだ。
「む、むず、むずかしい、はなし、してる。おで、わからない」
「僕も全然分からないです! チャッピーさん!」
「……うむ、貴公らはそれで幸せそうだ。我は我が主のお役に立てぬことが情けなくてたまらぬ」
「ええっ! ギランカさんでも役に立たないんですか!」
「うむ、我はあくまで、ただのゴブリンであるからな……」
ギランカは紳士ではあるけれど、決してそういうの詳しそうに思えないもんね。
バウは犬だし、なんか本能で生きてそうな気がする。チャッピーに至っては、生き返ったのがついさっきだから、状況すら掴めていないだろう。
「ノア殿……先程から、一体何の話をしているのだ?」
「ああ、アリサ」
「その、先程からノア殿の言葉しか分からんからな……国を作る、という言葉は分かったが、一体どういう理屈でそうなったのだ?」
そういえば、アリサは魔物の言葉が分からないんだよね。
今後、エルフと魔物で同じ国に住んでもらうつもりではあるけど、大丈夫なのだろうか。むしろ、エルフの住処に魔物は進入禁止、みたいな風にした方がいいのかもしれない。
一応、掻い摘んで説明しておくことにしよう。
「冒険者に逃げられちゃったから、ここにエルフの隠れ里があるってことが、情報として伝わると思うんだよね」
「ふむ……まぁ、そうだろうな。私たちエルフは、高値で売れると聞いている」
「だから、僕はここに国を作ろうと思うんだ。エルフと魔物が共に暮らすことのできる国だよ。そうすればエルフたちを、僕が守ることができるはずだ」
「ノア殿が、我々の王になるということか。我々の中に、断る者はいないだろう」
「うん」
まぁ、一応僕って英雄扱いみたいだし。
英雄が王になる、って流れは英雄譚で何度も聞いたことのある話だ。そこに大きな反対意見は出ないだろう。
あ、そうだ。
エルフの長老とかなら、割とそういうのにも詳しいかもしれない。やっぱり長く生きてるエルフだし。
「だが……一点、心配な部分があるのだ」
「どうしたの?」
「ああ。ノア殿が我々の王になってくれるのならば、それは構わない。庇護を与えられる我々は、むしろ喜んでそれを受け入れなければなるまい。だが……それは、果たしていつまで続くものなのだ?」
「いつまで続く?」
何それよく分からない。
国を作るってことは、つまり滅びるまでその国は存在し続けるってことだと思うんだけど。そして、僕と魔物が混合して存在する国であるわけだし、そう簡単に滅びることはないと思う。魔物って、基本的に人間よりも強者だし。
冒険者が魔物を相手にできるのは、その基礎のスペックを相手に戦えるように、連携して作戦を組んでいるからだ。魔物が組織立って攻めてくるとなって、相手にできる人間の軍など存在するのだろうか。
そう考えると、僕の国って超強いよね。
「私たちエルフは、寿命が長い。長老に至っては、既に五百年もの時を重ねている」
「うん?」
「比べ、ノア殿……人間の寿命は、百年ほどだろう? 私が懸念しているのは、いかに強いノア殿であれ、いつか死ぬということだ。では……ノア殿が死んだその後、魔物たちはどうなるのだ? その後も、我々を守ってくれるのか?」
「それは……」
アリサの言葉に、悩む。
僕は人間だ。確かに、エルフよりも先に死ぬだろう。魔物使いになったからって、永遠の命を与えられるわけじゃないし。
そして、僕が王になって魔物の国を作ったとしても、僕の死後もその国は成り立つのだろうか。
僕が死ぬと共に隷属の鎖が消えるとか、そういうシステムであるのならーーエルフに訪れるのは、魔物たちに囲まれた破滅の道だ。
それは、分からない。
僕が生きている限り、分からない。
「問題ない」
だけれど。
そこで、口を挟んだ声があった。
向こうの方で子供たちに囲まれながら上機嫌だった、パピーだった。
「エルフの娘よ、安心せよ。小僧が死したとしても、我は死なぬ。そして、魔物たちの支配権は最上を小僧とし、次点を我としておる。小僧が死したとしても、我はこの知を、この意思を保つ。我の誇りにかけて、この魔物たちはエルフを襲いはせぬと約束しよう」
「え……」
「ふ、我も甘くなったものよ。この子らを見ておると、我も貴様らの作る国とやらを見たくなった。我も助力する上で、小僧が死した後も、この国を存続させるようにする。千年先まで、我はこの地を守ろうではないか」
「……」
そんなパピーの言葉に、アリサは目を丸くしながら。
こてん、と首を傾げて僕を見た。
「ノア殿、このドラゴンは何を言っているのだ?」
「あ……」
パピー、割といいこと言ったのに。
そういえば、パピーの言葉はアリサには分からないんだよね。
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