第23話 冒険者の訪れ

「はー。大量だねぇ」


「う、ぐっ……さ、さす、がに、我でも……!」


「よしパピー、頑張って運べー」


「せ、せめて、半分で……!」


 伐採した木材を纏めて、パピーの足首に括り付けた。僕が運んでも良かったんだけど、やっぱり飛べる奴がいるのなら運んでもらった方がいいしね。

 ミロが切った材木は、家材とかに使われるものだ。加工には時間がかかるだろうけれど、これだけの量があればミロとパピーが夜を過ごせる場所くらいは作れるだろう。まぁ、僕には建築センスとか多分ないけどね。

 ふんふんふーん、と風を感じながら、鼻歌が自然と出てくる。


「だけどよ、ご主人。なんでいきなり木材とか取りに行ったんだ?」


「お前たちにも、住む場所は必要だろ? せめて雨風を凌げる場所くらいは提供するさ」


「ご、ご主人……!」


「さすがです! さすがご主人様です! お優しいです!」


「いやぁ、それほどでも」


「や、優しい、ならば、せめて、この、仕打ちを……!」


「パピー、何か言った?」


「………………な、んでも、ありま、せん!」


 パピーはしっかり教育ができているらしい。良いことである。

 そんな風に、やや低空を飛ぶパピーの背中に乗りながら、向かう先――エルフの隠れ里を見やる。

 いつも通りに、平和な村だ。そして隠れ里という特性から、炊煙などの類は上がっていない。そもそも、隠れているのに煙とか上がったら見つかっちゃうし。

 ゆっくりと、パピーが高度を下ろしてゆく。ぷるぷると体を震わせながらだ。


「でも、お前たちと一緒に暮らすとなると、家が狭くなるなぁ」


「それは仕方のないことでしょう。我が主とこのでかいのでは、体の大きさが違いますからな」


「チャッピーも大きいしね」


「パピー殿も大きいですしな。我やバウ殿ならばまだしも、パピー殿まで入る家となるとかなりの大きさになりましょう」


「うん。そのあたりはちゃんと、リュートさんに頼んであるから」


 リュートさんの図面通りに作ると、めちゃくちゃでっかい家になっちゃうのが難点なんだよね。

 まるで、隠れ里にある御殿みたいな形になるかもしれない。ま、僕一応村の救世主みたいな感じだし、いいよね。

 エルフの子供たちとか、いつ遊びに来てくれてもいいし。


 そんな風に話しているうちに、エルフの隠れ里に到着する。

 だけれど、パピーがゆっくりと高度を下げてゆくごとに。

 次第に、そこに響く声が聞こえてきた。


「ご安心ください! エルフの皆さん! 我々は、あなたたちに危害を加えるつもりはありません!」


「パピー、止まれ」


「む、無茶を……!」


 それは、エルフの村の入り口。

 そこに立っているのは、三人の人間だ。まだ離れているからよく分からないけれど、声だけははっきりと聞こえる。

 そして『エルフの皆様』と呼んでいるということは、彼らはエルフではないということ。

 嫌な予感がして、パピーを止めさせる。まだ、背後にいる僕たちには気付いていないようだ。


「我々は、この森に棲まうドラゴンの退治に来たのです! 悪しきドラゴンを退治することこそが我々の使命! どうか我々にその情報を与えてください!」


「里に近付くな! 人間め!」


「くっ……!」


 隠れ里の柵越しに、人間とエルフが言い争っているようだ。

 人間側の主張に対して、子供が石を投げるのが見える。まぁ、迫害されてきたエルフが、見も知らない人間を信用したりしないよね。

 僕も信用してもらうのに、割と時間がかかったし。


「よくもっ……! よくも兄ちゃんの魔物を!」


「この村を救ってくださった恩人に、見せる顔がないわ!」


「な、何を言っているのですか! 我々は……!」


「消えろ! どっか行け!」


 そんな、三人の人間――男が二人と、女が一人。

 その目の前に転がるのは。


 倒れている、チャッピーだった。


「――っ!」


「チャッピー殿!?」


「むっ……あ、あやつら……!」


「んだと……? チャッピーが……?」


 かっ、と頭に血が上る。

 それと共に、僕は気付いたらパピーから飛び降りていた。それほどの高度でもないし、森の木々に足をかければどうにかなる。

 ずぅんっ、という地響きと共に、僕は大地へと降り立った。


「むっ……! に、人間か!? どこから……!」


「あっ! ドラゴンがいるわ!」


「なんだぁ? ドラゴンの上に魔物が乗ってやがるぜ?」


 細面の、僕とさほど変わらない年齢だろう優男。

 全身を桃色の装飾に包んだ、ローブを纏った魔術師風の女。

 禿げた頭に筋骨隆々の、巨大な鉄球を抱えた大男。


 その視線が一斉に僕を見て、それから僕の後ろにいるドラゴン――パピーを、見た。


「きみは……人間か?」


「……お前ら」


「ちっ、まさかドラゴンがここで現れるとは! ランディ! シェリー! 戦闘準備だ! そこの少年! 我々の後ろに回りたまえ!」


「……」


 優男が、拳を構えるのが分かる。

 その視線が間違いなく捉えているのは、僕よりも遥かに高い位置だ。

 ドラゴンを退治に来た――男が言うことが本当ならば、こいつらはパピーを退治に来たというわけだ。


「待って、ドレイク! ドラゴンの足に材木が繋がっているわ!」


「なんだと……!? まさかこの村は、既にドラゴンの支配下にあるということか!」


「ちっ……まさか、そういう罠かよ」


「しかも、ドラゴンの上に乗っているのはミノタウロスよ! あれも強力な魔物だわ!」


「とにかく戦うぞ! 少年! 我々の後ろに……!」


 かつ、かつ、と歩を進める。

 こいつらが何を喚いているのか、全く分からない。エルフの隠れ里はドラゴンの支配下になどないし、罠なんて欠片もない。ついでに言うならば、僕が後ろで守られる必要などどこにもない。

 だけれど、わざわざそれを訂正してやる必要もなく。

 僕は歩みを進めて、ドレイクと呼ばれた優男の目の前に立ち。


「え……?」


「……僕の仲間に、手を出したな」


「は? き、きみ、何を……」


「地獄に落ちろぉっ!」


 思い切り。

 優男の腹を、僕の拳が貫いた。

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