第21話 猛省するパピー

「ドラゴンなのに全く注目されずに、他の魔物ばかり子供たちと遊んでいて寂しかった、と」


「……うむ」


「だからちょっと注目を集めるために、我はこのようなことができるのだぞっ、って火を吐いた、と」


「…………うむ」


「その火が僕の家に燃え移って、一気に燃え上がった、と」


「………………うむ」


「何か言いたいことは?」


「……………………ごめんなさい」


 僕の前で、土下座をするパピー。

 まぁ土下座してても、そもそも立っていて僕の三倍、全長にすれば五倍のパピーである。思い切り首をだらりと地面につけてはいるものの、胴体の位置は僕の目線よりも高いのだが。

 だが、そんな僕とパピーを見ながら「すげー」「ドラゴンが土下座してる」「兄ちゃんパネェ」と子供たちがひそひそ話していた。


「まったく……折角、新しい家貰ったのにさ」


「その……ノア殿、すまない。私が村の案内など言い出さなければ……」


「いや、アリサのせいじゃないよ。悪いのは全部パピーだから」


「……」


 パピーは思いっきりしゅん、としていた。魔王リルカーラと面識のある、千年前から生きているドラゴンだとは全く思えない。精神年齢の方は成長してくれなかったのだろうか。


 無残な焼け跡になってしまった、元僕の家を見る。

 家の中に置いていた、鹿の燻製肉ももう見る影もない。幸いなのは、パピーたちと一緒に採ってきた木材は無事だったことと、子供たちにもリュートさんにも被害がなかったことか。


「ご主人、どうすんだ?」


「どうするも何もねぇ……とりあえずパピーは後で殴るとして」


「我、殴られるのか……」


「牙を抜いてもいいけど」


「……せめて、治る傷でお願いします」


 素直なパピーだった。まぁ、今回は全面的にこいつが悪いしね。

 これからの問題は、とりあえず僕の住む場所だ。折角家を貰ったのに、灰にしてしまうとか思わないし。


「ノア殿……よろしければ、私が一から設計しましょうか?」


「リュートさん、いいんですか?」


「ええ。元々ある家をそのまま使うよりも、ノア殿がより使いやすい家を建設する方が良いのではありませんかな? ちゃんと魔物も中で暮らせるような形に、一から設計をする方が良いかと」


「あー……確かにそうですね」


「木材の伐採だとか、高所の作業だとか、力仕事などを魔物の皆様に手伝ってもらうことになると思いますが……それでもよろしければ」


 確かに、マイホームを自分で設計するというのも悪くないかもしれない。

 そもそも僕の家だと、ミロやパピーが入れないから隣に何かを作ろうと思っていたのだ。それを最初から魔物の入れる大きさにして、各自に寛ぐことのできる空間を提供するようにすれば、いいかもしれない。

 使っていない農地も含めれば、かなり広い空間だし。そもそも魔物襲ってこないから、魔物避けの柵を外しちゃってもいいし。そうすれば、それこそ広さは無限だ。


「じゃあ、リュートさん。お願いできますか?」


「ええ、お任せください。ひとまず魔物の皆さんが入れるように、扉は大きいものに致しましょう。広さは……」


「家の裏の、魔物避けの柵を外しちゃいます。僕がいれば、魔物は襲ってこないみたいですし」


「承知いたしました。では……かなり広めに設計をしてみますので、また図面をお見せしますね」


「お願いします」


 設計はリュートさんに任せて、仕事は魔物たちに任せればいいだろう。ミロやチャッピーは力が有り余ってるから、大工仕事だってできるだろうし。あとは細かい作業なんかはギランカに任せればいいだろうし。

 パピーは木材の調達を主に行わせて、バウは僕の癒しって感じで。


「ではノア殿、家が完成するまでは、私の家で過ごすといい」


「……それはありがたいけど、いいの?」


「ああ。どうせ私も一人暮らしだ。寝る場所ならばある」


「いや、そうじゃなくて……」


 男を、そんなにほいほい自分の家に泊めていいものなのだろうか。

 いや、僕別にそんな下心があるわけじゃないよ。ほら、一般的にね、一般的に。そういう警戒心とか必要だと思うし。

 アリサはそんな僕の言葉に、ふふっ、と可笑しそうに微笑んだ。


「なんだ、ノア殿。そんなことを気にしているのか」


「だってさ……ほら、僕だって男だし」


「そもそも、私はノア殿に身も心も捧げているのだ。今更、そんなことを問われても困る」


「だから、そういうわけじゃなくて……」


 アリサの、その気持ちは嬉しい。

 だけれど、こう、違うんだよ。青臭い意見だってことは分かってるけど、そういうのはちゃんとした関係になってからって思ってるし。いや、アリサのことを嫌いとかじゃなくて。

 ……なんだろう。僕一人が勝手に舞い上がっているような気がしてきた。


「まぁ、別にそうなっても構わない、とでも思っていてくれ。勿論、そのときは事前に言ってほしい。私にも色々と準備があるからな」


「ぶっ! じゅ、準備って……!」


「おや、私が何を準備するのか聞きたいかな?」


「……いや、いい」


 もうこれ、完全にからかわれてるよね。

 まぁ古今東西、男なんて女の子に頭が上がらないものだ。実家の父さんも、母さんの尻に敷かれてたし。他の事例は知らないけど。

 アリサが肩をすくめながら、再び可憐な微笑みを浮かべた。


「ノア殿。エルフにおいて、魅力的な異性というのはどんな方か分かるか?」


「……魅力的な異性?」


「ああ。正直に言って、我々エルフはほとんど顔が変わらない。勿論、個人差はあるが……遠目だと、親の顔も間違えることがある」


「あー……」


 確かに、大体みんな変わらない顔をしてるよね。リュートさんがもう少し年を重ねれば長老になるかもしれない、ってくらい。

 リュートさんの孫の女の子も、アリサとよく似た顔立ちだし。むしろ、アリサを含めて全員が兄弟だと言われても納得できるくらいだ。

 そんなエルフにとって魅力的な男性ーー。


「顔の変わらないエルフにとって、魅力というのはその強さにこそある。強い男に強い女が嫁ぎ、そこで子を成して強い戦士に育てるのだ」


「強さ、なの……?」


「ああ。ドラゴンを御し、魔物を率いるノア殿は、その強さも相当なものだろう?」


「まぁ……」


 確かに、弱くはないと思う。多分。

 リルカーラ遺跡でも、大体一撃で魔物は倒せていたし。今はミロたちがいるから、戦闘とかは任せてるけど。

 それでも、元勇者レベル99は伊達じゃないと思ってる。


「率いる魔物たちの強さも含めて、ノア殿の強さだ。この村が全員でかかっても、ノア殿一人には勝てないだろう」


「う、うぅん……そう、かな」


「それは……エルフである私にとっては、とても魅力的な異性だということだ。その子を成したい、と思うほどにな」


「……え?」


 あれ、何これ。

 なんか僕、さりげなく愛の告白受けてない?

 アリサに言われたことを噛み砕いていくうちに、頰に熱が走ってきた。


「おー、ご主人、顔真っ赤じゃねぇか。チビ、あれがご主人のつがいになんのか?」


「うむ、そうであろう。さすがは我が主である。強き雄がもてるのはいつの世も同じよ、でかいの」


「ごしゅ、ごしゅじん、かっこいい、うん」


「さすがはご主人様です! 女性もメロメロです!」


「うむ、我を御しているのだ。女の一人や二人は侍らしても良かろうよ。英雄色を好むと言うからな! はっはっは!」


「お前らうるさいよ!」


 後ろの方でそんな風にぎゃーぎゃー騒ぐ魔物たちに向かって、僕は一喝した。

 あと、パピーは殴っておいた。

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