第15話 僕は魔王じゃありません!
「ここで待っていてくれ。少し、村の者を呼んでくる」
「え、アリサ、どうして……?」
「すぐに戻る!」
たっ、とアリサが駆け出して、村の中へと入っていった。
そして僕は、僕に従う五匹の仲間と共に取り残される。ちょっと、色々整理したいのに。
大体、リルカーラが当時魔物使いだった、っていう記録は残っていないだろうし。全部パピーの妄言だと思った方がいいだろうか。ほら、僕が遺跡の最奥で見つけた転職の書、普通に職業『魔王』ってあったし。きっとリルカーラは、自称魔物使いの本当は魔王とかそういうやつだったんじゃないかな。多分。
そう考えると、ちょっと安心した。
「おい、きさ……ご主人様」
「もういちいち言い直さなくてもいいよ。言いにくいんなら」
「……すまぬ。どうにも慣れぬ」
「大体、てめぇ新入りの癖にご主人に偉そうなんだよ。もうちょっとてめぇを弁えろ」
「それはミロが言っていいことじゃないと思う」
ミロの口調、割と雑なんだけど。
ギランカほど恭しく接してくれとは言わないけど、もうちょっとこう、ね。
「まぁいい……おい、貴様」
「何?」
「これから、どのように過ごすつもりだ? 我は既に貴様の下についている。どこへ行こうともついてゆくが……」
「あー……そうだね」
どうしよう。パピーの答えに少しだけ悩む。
別に何も考えてはいないんだよね。とりあえず、どこか一箇所で落ち着こうとは思っているけど。
魔物を連れての旅はできそうにないしね。全部の都市から入るのを断られる未来しか見えない。というか、アリサみたいに僕も魔物の一員だと誤解されそうだ。
別にお金に困っているわけじゃないし、どこかの村とかでのんびり過ごしてもいいかなー、とか思ってる。
「まぁ、森を出るつもりだよ」
「森を出て、何処に行く?」
「まぁ……適当に? どこかに落ち着きたいとは思ってる」
「拠点を築くということか。まぁ、大所帯だからな」
「そういうこと」
さすがに僕以外に五匹いるし、僕の倍はあるミロに、僕の三倍はあるパピーがいるわけだし、大所帯と言っていいだろう。
どこかの村ででも、大きな家を建てて住もうかな。そこで牛とか鶏とか飼って、野菜とか育てて、自給自足の生活をするんだ。やっと手に入れられるスローライフってやつだよね。
そこで村人として過ごしながら、まぁいずれは結婚とかしたり、そういう人生っていいよね。生きていくのに十分なお金はあるし。
チャッピーには力仕事をしてもらって、ミロとギランカは器用そうだから畑とか手伝ってもらって、パピーは飛べるから移動手段で、バウは番犬と僕の癒し。
あれ、割と楽しそうだぞ、この生活。
その間も、僕の仲間はもっと増えるだろうし。魔物だから食事とかいらないから、何匹でも仲間にできるよね。
と、そんな風に考えているうちに、アリサが戻ってきた。
その後ろに、数十人くらいいる老人と子供を引き連れて。
「皆! この方がノア・ホワイトフィールド殿だ!」
恐らく、既にアリサから説明を受けているのだろう。
僕の前で、何十人もの老人と子供たちが、膝をついて頭を下げ始めた。
「おぉ……ドラゴンを従えているとは……!」
「ありがたや……ありがたや……」
「まさに、リルカーラ様の伝説そのまま……!」
「村を救ってくださるとは……!」
老人たちが、次々に僕に向けて感謝の言葉を述べ始める。
感謝してくれるのは別にいいけれど、なんとなくこそばゆい、というのが本音だ。
「はん。やっとご主人の偉さがこいつらにも分かったってか」
「ふっ。ここに至りようやく我が主のご威光に気付くとは、愚かなことよ」
「ごしゅ、ごしゅじん、えらい……!」
「凄いですご主人様! かっこいいです!」
それから、後ろでそんな風にやたら持ち上げられてるし。
声が僕にしか聞こえないっていうのが、一応良かった。
「ノア殿、村の皆、ノア殿に感謝している。勿論、それは私もだ」
「僕は、大したことをしたわけじゃありません。どうか、顔を上げてください」
「そんな……!」
事実、大したことはしてない。
ちょっとパピーを虐めたら仲間になった。それで良しとしようじゃないか。
村を救った救世主、とか持ち上げられるほどのことじゃないし。
「皆、これからは、戦士が一人も残ることなく、魔物に立ち向かわねばならないと思う。だが、ノア殿のおかげで、ドラゴンという脅威は排除された。これからは、今まで通りにはぐれた魔物が襲ってくるくらいのものだろう」
「……」
あれ、今なんかおかしいこと言わなかった?
戦士が一人も残ることなく、って。アリサがいるのに。
「だが、もうすぐ戦士となることのできる若者はいる。これからは、皆でこの村を支えていってほしい。私がおらずとも、これからのこの村は大丈夫だろう。私も安心して、この村を出るつもりだ」
「……え、アリサ、村出るの?」
「ああ」
人一倍、この村を愛していると思っていたんだけど。
そんなアリサの宣言に、パピーが首を傾げていた。何がそれほど疑問なんだろう。あと、ドラゴンが首傾げても別に可愛くない。
「ノア殿。報酬の件だが」
「あ、うん」
何故、そこでどうして僕の報酬の話になるんだろう。女の子の話題はころころ変わりやすいとは聞くけど・
アリサが嬉しそうに、笑みと共に自分の胸に手をやった。
「私を、奴隷として売ってくれ。その対価を、報酬としたい」
「…………………………はい?」
「私も、己の価値は知っているつもりだ。エルフの女ならば、金貨五十枚にはなるだろう。私はこの村を救うことができた。その誇りさえ胸にあれば、どれほどの汚泥を纏う日々になろうとも構わない」
「いきなり何言っちゃってんの!?」
いや、確かに疑問だったけど。
エルフの隠れ里に金貨なんてないんじゃないか、って思ってたけど。
どこから金貨五十枚出すつもりなんだろう、って疑問に感じてたけど。
まさか、それが。
アリサの身を売って、得る金貨だなんて――。
「私は村を救った誇りを胸に、喜んで奴隷に落ちよう。さぁ、どこにでも売り払ってくれ」
「いやそんなこと言われても!」
そんなことするって、僕どれだけ冷血漢なんだよ。
頼んできたんだからお前の体を売ってでも金を作れゲヘヘ、とか言わないよ。
むしろこれから、アリサもこの村でのんびり暮らせるよねとか喜んでいた僕だよ。
それがどうして、アリサを奴隷商人に売る話になっちゃってんのさ。
「あー、貴様」
「なんだよパピー! 今ちょっと忙し――」
「魔物は、もう来ないぞ」
「……へ?」
そこで無理やり乱入してきたパピーの相手をする時間も惜しい。
アリサに、その考えの真意を――そう思っていたところで、パピーがそう言った。
魔物はもう来ない。
それは、何故――。
「決まっているだろう。この森の魔物は我の配下だ。我の配下は貴様の配下でもある。今や貴様は、この森に住む魔物達の王だぞ」
「……」
パピーの言葉の意味が分からなくて、僕の喉から言葉は全く出てこなかった。
今僕は、この森に住む魔物達の王。
何故なら、そんな魔物達を従えていたパピーを、僕が仲間にしているから。
待って。
本当に待って。
僕、魔王じゃないんですけど――!
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