第13話 決着
名前:パピー
職業:スカイドラゴンレベル66
スキル
火炎放射レベル60
噛みつきレベル58
空中殺法レベル45
雄叫びレベル38
物理耐性レベル40
魔術耐性レベル40
隷属の鎖
「心よりの……忠誠を……誓います」
「ああ。これからよろしく頼むよ」
僕の前で、鈍色の首輪を巻いたドラゴン――パピーが、頭を下げてそう言った。
検証は成功だ。どうやら瀕死の状態にしなくても、精神的に追い込むことで仲間になるということが分かった。もっとも、パピーは言葉が通じたからどうにかなったわけだけれど。
さすがに、言葉も通じずにグオー、って向かってくる相手だと、追い込むとかできないよね。下半身だけ攻撃して動きを封じるとか、そういう形なら仲間にできるのかな。そのあたりも要検証だ。
「それで、パピー」
「あの、我、その名は……」
「パピーさん、よろしくお願いします! 僕バウです!」
「――っ! 貴様のような下等生ぶ……」
「何か言ったか、パピー」
「…………………………いえ、何でもありません」
もう僕、決めちゃったしね。もう《
パピーは沈んだ雰囲気のままだ。普通に戦って普通に仲間にしたのなら、まだ普通の名前つけてやるけどさ。こいつ一方的に僕を見下してきてたし。そんな奴に慈悲なんて必要ないよね。
「バウはお前より先輩だからな。ちゃんと従えよ」
「――っ! ぐ、ぐっ……!」
「ご主人様! 僕レベル低いです!」
「大丈夫。僕んとこは年功序列だから」
「くっ……屈辱だ……我が、このような……!」
まぁ、年功序列とか決めたわけじゃないけど。そう考えると、ミロが一番偉くなっちゃうし。
でも、パピーの伸びた鼻っ柱を折るには丁度いいよね。
「まぁ、それでだ、パピー。お前には聞きたいことがいくつかあってね」
「我に、聞きたいこと……?」
「ああ。お前、魔物使いについて詳しかったよな」
「……昔、一人だけ、会ったことがある。それだけだ」
「そいつ、弱かったの?」
僕以外に魔物使いがいた、というのが不思議だ。今まで一度も聞いたことなかったし。
多分、伝説でも残ってないんじゃないかな。魔物を率いて戦った魔物使いの記録とか。
だがそんな僕の質問に、パピーは頷いた。
「ああ。女、だった」
「あ、女性だったんだ」
「我にしてみれば、下等な魔物ばかりを連れていた。もう、何年前かは分からぬが……貴様の」
「牙抜くよ?」
「ご、ご主人様のように……魔物を、連れていた。下等なゴブリンやオークなどばかりで……我にしてみれば、大したことのない魔物ばかりを……」
ふむふむ。
その女性は、魔物使いについて詳しかったのかな。僕、さっぱり分からないんだよね。
誰かに教えてほしいと思っていたけど、まさかドラゴンから教えてもらうことになるとは思わなかった。
「我もそのときは……初めて言葉の通じる人間に出会って、驚いた。そのとき、女から魔物使いについて言われたことを……まぁ、覚えていた。それだけのことだ」
「ふーん……魔物使いのスキルについてとかは、その女の人が言ってたんだ?」
「ああ……我はそのとき、下らぬことだと笑った。我を倒すことができれば、その効果が出るやもしれぬと嘲笑ったが、その女は配下が全滅したと共に逃げた。絶対にお前を仲間にしてやる、と捨て台詞を吐いて逃げたが……それ以降、会ってはおらぬ。縄張りを変えたからな」
「なるほど……それ、何年前くらい?」
「ふむ……」
その女性が、もしもまだ生きているのなら色々教わりたい。
具体的には、『戦闘不能』の条件とか。あとは魔物調教、魔物捕獲のレベルが上がると何が変わるのか、とか。
パピーを仲間にした時点で、魔物使いのレベルは6に上がり、それぞれスキルが6に上がった。だからといって、何が変わったのか僕にはさっぱり分からないのである。
「恐らく、千年ほど前だろうか」
「ぶっ!」
さすがに昔すぎる。というか、ドラゴンってどんだけ長命種なんだよ。
せっかく見つけた手がかりだけど、千年前の人とかさすがに生きちゃいない。期待するだけ無駄だったか。
まぁ、パピーが覚えていた知識だけでも、得ることができた。それだけでも良しとしよう。
「それで、パピー。あともう少し聞きたいことがあってさ」
「む、むぅ?」
「なんでパピーは僕と話ができたわけ? 僕の配下でもなかったのに」
「むしろ、我が驚いておる。ワイルドドッグのような下等の魔物が意思を持つなど、聞いたことがない」
「は?」
え、どういうこと?
バウは、出会ったときからずっと喋ってるけど。
「魔物は、群にして集合体だ。集団において、ただ『人間を殺す』という意思が刻まれているだけに過ぎぬ」
「どういうこと?」
「言葉通りだが……あやつらは、個の意思を持たぬ。ただ、その存在意義として『人間を殺す』という根底が刻まれているだけの、形骸に過ぎぬ。ゆえに意思を持つことなく、彷徨い続けるだけだ。意思の疎通ができる魔物は、我のように長く生きているか、もしくは余程の高位の魔物だけであろう」
「……」
個の意思を持たないのが魔物。
だけれど、ミロもギランカもチャッピーもバウも、自我を持っている。ミロは荒っぽい乱暴者で、ギランカは紳士的な優しい奴で、チャッピーはおどおどした一歩退いた奴、バウは可愛らしい甘え上手。
どうして、そんな風に自分の意思を持っているのだろう。
一周回って、よく分からなくなってきた。
「我も、魔物を操ることができる。今、この森にいる魔物は、我の支配下にある。ゆえに、集団に指向性を持たせ、我の縄張りにある全ての集落を、破壊するように命じた。だが、それだけだ。我は、配下に対して一律でそう命じただけに過ぎぬ。あくまで集団の存在意義に方向を与えただけだ。配下と会話をしたわけではない」
「……」
「だが、きさ……ご主人様が配下にしている魔物は、違う。一匹一匹が意思を持ち、忠誠を誓うなど聞いたことがない。我もまた、き……ご主人様に対し、逆らうことができぬような呪縛をかけられている気分だ。むしろ、我は役に立つために尽力せねばならないと思っているほどだ」
「……」
むしろ、逆なのか。
僕が仲間にしたから、ミロとギランカとチャッピーとバウに、意思が生まれた。個の意思が生まれたからこそ、彼らは僕に忠誠を誓っている。
魔物という意思を持たないものに、意思を与える――もしかすると、それがスキル魔物調教の力なのかもしれない。
だけれど。
何故、そんな風に意思を持たせるのだろう。
ただ『魔物使い』であるのならば、パピーと同じように簡単な命令に従うだけの人形であってもいいと思うのに。
そこに、意思を植え付ける理由とは――。
「ゆえに……少しばかり、思うのだ。我のように、ただ人形のように簡単な命令にだけ従う配下を作るのではない。自分の意思で主人に最大の利益を齎す方法を考え、時に主人の意を汲んで動き、主人の命令がなくとも自分が何をすべきか判断することができる……それは、王にとって理想的な部下であろう」
「……」
「それを人は……魔王と呼ぶのでは、ないか?」
いや、ええと。
さすがに僕が魔王とか、話が飛躍しすぎじゃない?
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