第12話 ドラゴンとの決戦
「さぁ、脆弱なる魔物使いよ! 死ぬがいい!」
「あー……」
ドラゴンが翼を揺らし、そのまま高く飛翔する。
一体何を仕掛けようとしているのかは分からない。スキル構成からして、恐らく噛み付いてくるか炎を吐き出してくるかのいずれかだろうけれど。
とりあえず僕としても、ただ攻撃を受けるだけ、というわけにもいかない。
「我が炎を食らうがいい!」
「ああ、予告してくれるのね」
叫びと共に、ドラゴンから炎の球が吐き出される。
これが火炎放射レベル60の威力だということだろう。高速で迫ってきたそれを、思い切り殴りつける。僕の拳が思い切り振り抜かれると共に、あっさりと炎の球がかき消された。
多少、手首から先が熱いけど、それくらいだ。
「……む」
だけれど、そんな僕の行動にドラゴンが訝しむ。
まぁ、拳で炎の球を殴りつけて、そのまま消えたわけだ。理解に苦しむよね。僕も何の原理で消えるのか分からないし。なんか真空波とか発生してるのかな。
ドラゴンは再び、僕へ向けて炎の球を吐き出してきた。今度は連続で、五つほどだ。
「死ねぇっ!」
「やなこった」
拳を振り抜き、足を蹴り上げ、炎の球をかき消す。
当たらなければ、こんなものただのパフォーマンスだ。大した威力があるわけでもない。延々と吐き出される炎の光線とかなら脅威かもしれないが、せいぜい僕がかき消すことのできる程度の代物である。
この程度の威力で、それほど有頂天になる理由が分からない。ドラゴンとは初めて戦ったけれど、こんなものなのだろうか。
次にドラゴンは、思い切り翼を広げて滑空し、僕へ向けて突進してきた。
鋭い牙の並んだ口で、噛み付いてくるつもりなのだろう。
「はぁぁぁっ!!」
ドラゴンの咆哮と共に、その巨大な口が迫ってくる。
だけれど、特に僕が焦ることもない。直線で迫ってくる攻撃なんて、軌道が丸分かりだ。いくら威力が強くたって、そんな攻撃に意味なんて何もない。
せいぜい、空を飛んでいるから面倒だ、くらいのもの。
わざわざ近付いてきてくれるのなら、ありがたい。
「ふんっ!」
「がぁっ!?」
迫ってきたそんなドラゴンの口へ向けて、思い切り足を振り上げる。ただし、砕かない程度に。
わざわざ出してきたご自慢の噛みつきだ。その鋭い牙で、僕のどこを噛み付くつもりだったのかは分からないけれど。
その下顎を、僕の足が思い切り蹴り上げた。
「ぐ、あ……!? な、な……!」
「その程度なのか?」
「ぐはぁっ!?」
ドラゴンの頭に生えている、角。
それを掴んで、思い切り地面へと叩きつける。ドラゴンがどれほど巨体であっても、頭を押さえられればそう動くことはできまい。
僕の全力をもって、ドラゴンの動きを封じる。
僕が角を掴んで押さえつけ、ドラゴンは全く動かない。そんなドラゴンが、困惑しているように叫ぶ。
「な、な……!? 何故だ!? 何故、我がこのような!?」
僕は、ドラゴンと戦うのは初めてだ。
だけれど、他の魔物とは何度となく戦ってきた。リルカーラ遺跡のみならず、様々な迷宮に五年間、僕は挑み続けてきたのだ。
空を飛ぶ魔物もいた。噛みつきをしてくる巨大な敵もいた。炎の球を吐いてくる敵もいた。その全てを、僕は倒し続けてきたのだ。
リルカーラ遺跡の最下層など、出てくる魔物が軒並みレベル80代だったのだ。
そこを駆け抜けてきた僕にとって。
レベル66のドラゴンなどーー彼の言葉を借りるのならば、矮小にして脆弱。
本気を出せば、一撃で蹴り殺せる敵に過ぎない。
「おい……」
「ぐ、ぅっ!? そ、その手を、離せっ……!」
人のことを散々言ってくれたよね。
魔物使いは弱いとか、欠陥品だとか。矮小な犬しか仲間にできないとか。
でもさ。
そんなに散々言ってたお前が、今から僕の仲間になるんだよ。
「お前さ……どうやったら瀕死になるのかな」
「は、はぁっ!?」
「どうすればいい? 隷属の鎖さえ発動すれば、とりあえず体力は全部回復するみたいなんだよね。でも、本気を出して蹴っちゃうと、死ぬかもしれないからさ」
何をどうすれば、ドラゴンを瀕死にできるのか分からない。
だから、折角だ。検証させてもらうとしよう。
押さえつけているドラゴンの頭ーーその口に生えている、牙へと手をやる。
魔物捕獲のスキルは、『戦闘不能に陥った魔物を一定確率で支配下に置く』という内容だ。
だが、この『戦闘不能』というのが曖昧で、どのような状態であるのかが不明である。だからこそ、検証するべきだと思っていたのだ。
現状、『戦闘不能』はイコールで瀕死である。攻撃によって、限りなく生命を脅かされている状態だということだ。
だが、他に『戦闘不能』に至る方法はないか。
「ぬんっ!!」
「うがあああああああっ!!??」
思い切り、ドラゴンの牙をへし折る。
太く鋭い牙だが、牙を折られたところで死ぬ魔物はいないだろう。頭とか腹とか、そういう重要な場所を破壊されたら死ぬのは分かる。だけれど、牙ならばいくらへし折ったところで、簡単には死なない。
だが、一つ一つ牙を折っていくことで。
そこに痛みは生じる。
「が、あっ……! き、きさ、まっ……!」
「おいおい、まだ一本折れただけじゃないか。ぬんっ!」
「ぐはああああああっ!!」
二本目の牙を、へし折る。
牙の根元から血が噴き出し、押さえつけた地面へと広がってゆく。
「き、さま……ど、どういう……!」
「お前は、どうすれば僕に屈服する?」
「何、を……!」
「検証しようと思うんだよね」
スキル魔物捕獲の条件である、『戦闘不能』。
それは物理的に瀕死に陥った場合に限られるのか。それとも、そうでないのか。
にやり、と口元を歪める。これから行われるのは、一方的な暴力だ。
僕のことを散々に見下したのだから、これくらいの報復はいいよね。
「とりあえず、牙を折る。牙が終われば、次は爪だ。それもなくなれば、鱗を剥ごうか」
「な、何、を……!」
「お前が僕に、心から屈服するまで。精神的な『戦闘不能』に陥るまで。ふんっ!」
「ぐああああああっ!!」
三本目の牙をへし折って、さらに次の牙へと手をかける。
物理的な『戦闘不能』と、精神的な『戦闘不能』。
ドラゴンが心から「こいつには勝てない」と思ったら、それはイコールで『戦闘不能』だということだろう。
「そういえばお前、名前なかったよね」
「ぐ、あ……!」
「喜べよ。お前が僕に屈服したら、名前をつけてやる。そうだね、パピーとかでどうかな? カワイイだろ? ふんっ!」
「うがあぁぁぁぁぁっ!!」
僕の一方的な暴力に、ドラゴンは叫びを上げながら。
その首に隷属の鎖が巻かれたのは、二十五本目の牙をへし折ったときだった。
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