第1話 魔物使いノア・ホワイトフィールド爆誕

 新たに『魔物使い』ノア・ホワイトフィールドが誕生したのはとてもめでたい。素晴らしいことだ。

 だけれど、かといって実感は何もない。生まれ変わった感も特にないし。


 とりあえず、こういう時には確認するに限る。


「《解析アナライズ》」


 呟くと共に、僕の目の前に半透明の文字列が現れる。

 一応元『勇者』であるために、一通りの基礎魔術は使用できるのが僕の強みだ。特に《解析アナライズ》は、職業『魔術師』くらいしか使用できないものであるため、とても重宝している。

 ただし、対象にするのは自分か魔物、あとは道具に使うくらいのものだ。他人に勝手に《解析アナライズ》をかけるのは法で禁じられているので気をつけるように。プライバシーの侵害だからね。


 まぁ、この《解析アナライズ》も、自分に向けてやったものだ。


 名前:ノア・ホワイトフィールド

 職業:魔物使いレベル1

 スキル

 剣技レベル99

 体術レベル88

 基礎魔術レベル43

 雷魔術レベル45

 回復魔術レベル26

 魔物捕獲レベル1

 魔物調教レベル1


 ふむ。

 先程までは間違いなく『職業:勇者レベル99』だったのがちゃんと変わっている。

 だからといって、勇者として積んできた経験が失われているわけではない。ちゃんと《解析アナライズ》を始めとした基礎魔術は使えるし、何故か雷属性しか使えないけれど、攻撃魔術も残っている。戦闘能力も元のままだ。

 そして、新たに増えたスキル――それが、魔物捕獲と魔物調教だ。

 魔物使いという名前だったから、恐らくそうだろうとは思っていた。だが、どのように発動するかは分からない。魔術のように発動するわけではなさそうだ。

 さらに深く《解析アナライズ》を仕掛ける。


 魔物捕獲

 戦闘不能に陥った魔物を一定確率で支配下に置く。成功した場合、魔物に対して隷属の首輪が装着される。


 魔物調教

 支配下に置いた魔物に対して命令を施すことができる。


 なるほど、これは便利そうだ。

 恐らく僕が倒した魔物が、一定確率で仲間になると考えたのでいいだろう。魔物だから仲魔なのだろうか。まぁいいや。

 つまり僕にできることは、今までと特に変わらない。魔物を倒して進むだけだ。

 それにより、自動的に自分の支配する魔物が増えると考えていいだろう。


「よし、帰るか」


 転職の書をそこに置いて、来た道を戻る。

 これは持って帰らずに、このまま置いておこう。僕以外にも必要な人がいるかもしれないし。

 本当に、長い旅路だった。ここまで来るのに五年――僕ももう二十歳だ。

 今から冒険者としてギルドに登録するのは、あまりにも遅すぎると思える。このまま登録しなくていいか。別に死にはしないし。色々迷宮とか遺跡とか回って宝とかを売りさばいているから、それなりにお金はあるし。まぁ潤沢とも言えないけれど。


 改めて、二週間かけた道を戻る。

 残念ながら、来た道をそのまま戻る以外に選択肢はない。ゴールに到着したら外にすぐに出られるようになどなってはいないのだよ。迷宮に潜れば、同じだけの時間をかけて戻る以外にないのである。


 しかし、どうすればレベルが上がるのだろうか。

 基本的にレベルは、『その職業に見合った行動をする』ことによって上昇する。例えば『鍛治師』だったら、剣を作れば作るほどレベルが上がるのだ。そして『勇者』であれば、魔物を倒せば倒すほど上がる。他の職業については残念ながら知らない。

 そして、職業のレベルが上がらなければスキルのレベルも同じく上がらない。つまり、僕の場合は『魔物使い』であるため、魔物を仲間にすればするほどレベルが上がると考えていいだろう。

 どういう基準なのかはさっぱり分からないけれど。


「おっと」


 さて。

 このリルカーラ遺跡は、かつて魔王リルカーラの居城だった迷宮だ。

 そもそもこんな迷路の奥に住んで、交通の便は悪くなかったのだろうかと疑問に思う。加えて、こんな迷宮の奥でひっそり暮らしていた魔王を、わざわざこれだけ奥まで入り込んで倒したとされる勇者は、そんなに魔王が憎かったのだろうか。こんなにも奥深くに潜んでいる魔王なら、人間に何も害を与えないと思うのだけれど。

 まぁ、そんな魔王の居城であるために、最奥に近ければ近いほど敵は強い。僕でもちょっと苦戦するくらいに。


 そんな僕の目の前に現れたのは、漆黒の狼だった。

 夜狼ナイトウルフと呼ばれる魔物の一種だが、その大きさは普通のものとは桁が違う。夜王狼ナイトロードウルフと称される、四つ足で立っているのに僕の三倍は体躯があるという巨大さだ。

 グルル、と狼は僕を睨みつけて。

 そのまま、突進してきた。


「ウガァァァァァァァァッ!!」


「よっ、と」


 そんな狼に対して、僕は思い切り横に跳ねて躱す。

 体が大きい割に、動きは俊敏だ。矢のように迫るそれを避けて、僕はそのまま背後から攻撃を仕掛ける。

 ちなみに一応、剣技レベル99なのだが、僕の剣は迷宮の途中で折れた。だからこそ、僕の武器はこの体だけだ。

 思い切り、狼の背中を殴りつける。


「うらぁっ!」


「グォォォォォォォッ!!」


 めしり、と僕の手にも感覚が伝わる。

 体術レベル88は伊達ではない。僕の拳は凶器になりえるし、攻撃の一つ一つが重いはずだ。人間を相手にすれば、一撃で頭を砕くことができる、というのも実証済みである。

 ちなみに相手は盗賊だ。罪もない者から略奪するだけの輩は死んで当然、というのが僕の流儀である。


 そして、そんな僕の拳は、あっさりと狼の背骨をへし折った。

 狼がのたうち回り、痛みにもがく。魔物が襲いかかってきたのなら、返り討たれて当然、というのも同じく僕の流儀だ。

 次第に狼は動かなくなり、ぴくぴくと震えるだけになった。そして完全に動かなくなり、そのまま消えてゆく。

 魔素と呼ばれる物質でできている魔物は、死んでも死体が残らないのだ。このように、砂になって消えてゆくのである。もしも死体が残るのなら、世界中に『魔物の牙でできた武器』とか流行したかもしれない。


 暫く眺めていたけれど、特に何も変わらない。

 戦闘不能に陥らせたけれど、スキルの魔物捕獲は発動しなかったようだ。

 まぁ、一定確率だし、そんな簡単には発動しないよね。


「さて、行くか」


 ふぅ、と小さく息を吐いて、先に進む。

 この迷宮を出るまでに、どのくらい仲間が増えるかな――そんな期待を胸に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る