『バーチャル家族』『第4話 Sideヒナタ お題【ないものねだり】』代替え案

皆木 亮

『第4話 Sideヒナタ お題【ないものねだり】』改稿版

 容赦なく照り付ける太陽。

 僅かな日陰を求め路肩に腰掛け冷えた飯をむさぼる。



 片手にスマホを持ち、最近始めた携帯ゲーム、バーチャル家族を起動する。



 このゲームの中で僕は8歳だ。

 8歳といえば僕の人生が狂い始めた頃だ。



 人並に両親の揃った生活を送ってみたかった。

 そんな究極のないものねだりとも言える欲求を、

 このアプリは僅かばかり満たしてくれた。



 しかも、偶然ママ役のハンネは【みお】。

 僕が子供の頃、恋焦がれた初恋の人と同じ名前だった。



 もちろん架空の名前だろう。

 だが、その名前を見ているだけで少し心が温まる。



 クエストを消化しながら、エネルギー補給のため事務的に飯を食う。





「よう、坊主。また会ったな」

 似たような作業着のおじさんが、

 獣のような匂いを漂わせながら僕の隣に腰を下ろした。



 僕もきっと同じような匂いを発しているのだろう。

 同じ匂いにつられて群れを作りにやってくる野犬みたいな物だ。



 或いは一昨日、うっかりしゃべってしまった僕の昔話がまた聞きたいのだろう。

 子供の頃は、恰好のいじめのネタだった僕の身の上話を。





 キモい。


 汚い。


 そんな言葉に心を抉られ続けた、類まれな僕の生い立ちを、

 おじさんは、さも羨ましそうに聞いてくれた。




「今日もコンビニ飯か、贅沢だな」


「違います。自分で作りました」


 コンビニの弁当の容器を、洗って使いまわしているだけだ。

 毎日コンビニ飯なんて贅沢だ。弁当箱にできるような容器もない。

 必要な物以外は持たない主義なんだ。




「最近は、こうやって路肩に座って昼飯を食う作業員も、

 すっかり見かけなくなったなぁ」




 おじさんは少し遠い目をして、ラップに包んだ白飯の塊を頬張る。

 その姿に、数十年後の自分を重ね合わせ、目を反らす。

 いたたまれない。




 どんなに足掻いても、

 中学までしか学校を出ていない僕に、

 これ以上の未来なんて思い描く事さえできない。




「坊主、飯食う時ぐらい携帯置いたらどうだい?」


「坊主じゃありません」

 おじさんは、僕の尖った口調に面食らった様子で動きを止めた。



 僕はもう、酒もたばこも許される立派な大人だ。

 女の体だって隅々まで知っている。



 何せ、子供の頃は、女の裸体にまみれて暮らしていたのだから。



「本多です。本多幸樹。二十歳です」



「こうき。いい名前だな」

 


 少し微笑んだ後、こう続けた。

「またあの話聞かせてくれよ。ストリッパーの母ちゃんの話」

 おじさんは下卑た笑いを浮かべ、僕の顔を覗き込んだ。

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『バーチャル家族』『第4話 Sideヒナタ お題【ないものねだり】』代替え案 皆木 亮 @minakiryou

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