第68話side勇者

 後10話ほどで完結です。

――――――――――


 王都まで行くのもなかなか時間がかかったのだが、王都からツヴァインまではもっと時間がかかった。ようやく、ツヴァインにたどり着いた。


(一体、何十日かかったことやら……)


 町の中に一歩足を踏み入れた瞬間に、懐かしさを感じる。


(ああ、僕はここで生まれ育ったんだ……)


 太陽は既に沈み、月が空に浮かんで輝いている。

 ――夜だ。


「どうしますか?」


 ロニーが尋ねた。

 四人は顔が見えないようにフードを被っている。フードを被っている人はさほど珍しくはない。周りからは冒険者のパーティーだと思われているだろう。


「あー、疲れた……」ダリルは言った。「宿とろうぜ」


 四人は安そうな、けれど綺麗めの宿を見つけるとそこに入った。高級な宿だと金銭もさることながら、安っぽいフード付きの外套をまとっているので浮いてしまう。怪しまれるのは避けたい。

 四人で一つの部屋をとると、カインは一人で出かけることにした。


「あ? どこに行くんだ?」


 ベッドに倒れこんだダリルが尋ねる。


「アリシアに会いに行ってくる」

「面倒事は起こさないように」


 ロニーもベッドに倒れこんで言った。

 三人は相当疲れがたまっているようだった。しかし、それはカインも同じ。彼はアリシアに早く会いに行きたいので、疲労を無視しているのだ。


「わかってる。すぐに戻る」


 そう言うと、カインは宿を出た。


 ◇


 アリシアの家がどこにあるのか、正確な住所は一応覚えている。しかし、彼女がまだその家に住んでいるとは限らない。もしも、引っ越していたりしたら、どのように探せばいいのか……?

 頭が痛くなりながらも、カインはアリシア宅に到着した。


 とりあえず、家はそのまま建っている。取り壊されてはいない。うっすらと明かりがついているので、誰かが住んでいるのは間違いない。それがアリシアかどうかはわからないが……。

 コンコン、とドアノッカーを鳴らす。

 しかし、いくら待ってもドアは開かない。


(居留守を使っている――いや、気づいてないのか……?)


 どうしようかと悩んだのちに、ドアに耳をはり付けて、中の声を聞いてみることにした。周囲に人はいないので、不審な行動をしても何の問題もない。

 ほんの少しだけ、声が聞こえた――ような気がした。


 それは女の声。アリシアの声。

 しかし、その声の主がアリシアだと認めたくはない。なぜなら、その声は喘ぐかのような、すぐに空気に溶けて消えてしまいそうなか細い声だったから――。


(あり得ない。こんなことはあり得ない……)


 震える手でドアを開けようとする。当然、鍵はかかっている。

 カインは躊躇することなく、〈解錠:アンロック〉の魔法を発動させた。シンプルな鍵だったので、すぐにカチャと開いた。

 鍵を開けて家の中に入ると――


「なっ……」


 ――ベッドで、アリシアとルークが裸で抱き合っていた。

 あまりの衝撃に、カインは絶句し、目を瞬かせた。


(僕は……悪い夢を、見てるのか?)


 頭がぐわんぐわんと揺れた。視界がぐにゃぐにゃと歪んでいった。めまいがした。

 同じだ、とカインは思った。


(あの時と同じだ。僕がシェリルと抱き合っているときに、ルークが家の中に入ってきたんだ……)


 同じシチュエーションだった。 

 自らが犯した罪が、そのまま自らに返ってくる――。これが、因果応報というやつなのだろうか……?


(因果応報……いや、別に僕は悪いことなんて――)


「どうだ、恋人を寝取られた感想は?」


 背後から囁くように、悪意が込められた声がした。


「――んあっ!?」


 振り返りざまに聖剣を引き抜こうとしたが、その前に右腕が斬り裂かれていた。だらりと右腕が下に垂れる。


「ああ、間違えた。恋人じゃなくて元恋人だったな」


 そこにいたのは、通信結晶での通話の際にいた怪しげな美女だった。

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