第66話

「え。まさか本当にそうなんですか……?」

「あー、そうだとも。吾輩が魔王だ」


 シャロンは諦めて白状した。


「え……では、シャロンさんは本当は男だったんですか?」

「わ、吾輩は女だっ!」


 むっとしたのか、シャロンは声を荒げた。


「す、すみません」


 アリシアは早口で謝った。


「『魔王』というのは、称号というか役職の名前みたいなものなんですね」

「まあな」

「でも、魔王のシャロンさんがどうして聖王国に?」

「吾輩を殺そうとする勇者を、先手を打って殺すために、この国にやってきたのだ」


 シャロンは説明しだした。


「正直に言うと、吾輩がお前に近づいたのは、お前がカインの恋人だったからだ。聖剣の効力は勇者の精神状態に大きく左右される。カインの精神が落ち込めば、聖剣の威力も落ちる。そうすれば、奴を殺す難易度が下がる」

「カインさんの精神が落ち込むようなこと――それって、私がカインさんと別れて、別の方と付き合うとかですか?」


 俺を見てから、アリシアは言った。


「その通りだ。正確に言うと、恋人が寝取られた現場を目撃したら相当なショックを与えられるな、と考えていた」

「確か、カインさんはルークさんの恋人を……奪い取ったんでしたよね」

「そう。だから、今度は逆に寝取られる立場にならせてやろう、とな」


 自暴自棄――というわけじゃないと思うが、かなりあけっぴろげに喋っている。このままずっと、いつまでも隠しておくのは難しいと思い白状したのか、諸々の事情を隠していることに罪悪感のようなものを感じたのか……。


 アリシアは『カインの恋人だったから近づいた』と言われても、まるで怒っても悲しんでもいなかった。近づいた――知り合いになったきっかけは不純なものでも、二人の間に育まれた友情は本物だからだろうか?

 シャロンがアリシアのことを友達だと思っているのは確かだ。それをアリシアも感じているのだろうか?


「そこで、吾輩はこやつを見つけた」


 シャロンは俺のことを指差した。


「カインに恋人を寝取られたルークに協力してもらう、というか利用して(?)というか……まあそんな感じで、アリシアを寝取らそうと思ったのだが……」

「思ったのだが?」

「ルークはアリシアときちんと付き合いたいと言った」


 そこで、アリシアは俺のことをじっと見た。

 怒ってる? ……いや、微笑んだ。柔らかな微笑み。


「だから、ルークがお前に告白したのは、吾輩の命令とかではなくてこいつの意思だ」


 だから、吾輩のことはともかくとしてルークのことは嫌わないでやってくれ、とシャロンは言外に言いたいのかもしれない。


 俺はシャロンの思惑を知っていて、それにのった。だから、俺は彼女の仲間だと言えるし、アリシアにいろいろと隠しごとをしていた。

 だから、アリシアに嫌われても仕方がない――いや、嫌われたくはないな。でも、人の気持ちを強制的に変えさせることはできない。嫌われたら、『仕方がない。これもまた人生だ』と悟るしかない。


 やがて、アリシアは口を開いた。

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