第65話

 最近のことなのだが、俺はアリシアと同棲を始めた。前まで俺が住んでいた家は、シャロンに用意してもらったものであり、厳密に言えば俺のものではない。俺の家はカインとシェリルに奪われ、シェリルは死んだ。


 なので、俺が今住んでいるのはアリシアの家だ。彼女が一人で住んでいた家だから、決して大きくはない。けれど、二人で住むには狭すぎる、というほどではない。

 今日も、シャロンとその部下であるエルナとエルマが、俺たちの家にやってきた。彼らはアリシア宅をカフェか何かと勘違いしているんじゃないか?


「いやあ、すごいことになりましたよ」


 やってくるなりエルナは言った。


「すごいこと?」

「勇者パーティー四人が聖王国国王フィリップを殺したとして、指名手配されたんですよ」


 そう言って、エルナは手配書をテーブルの上に置いた。

 指名、手配……。

 それも、国王を殺しただって……!?

 俺は戸惑いを隠しきれず、手配書をなめるように読んだ。


 紙には四人の写実的な絵と詳しい説明が書かれていた。彼らを捕らえたもしくは殺した者には褒賞金を与える……。

 国王殺し以外にもたくさんの余罪があることが記されていた。四人の悪事の数々は、今や聖王国中に知れ渡ったのだ。


「いやあ、あたしたちも勇者パーティー狩りに参加しちゃいましょうかねえ。褒賞金すごい額ですし」

「そうだな」


 エルマも乗り気のようだ。


「聖剣を持つ勇者カインはともかくとして、他の三人なら俺たちでもいけそうだからな」

「でも、カインが一番お金貰えるんですよね」

「欲をかくな。弱体化しているとはいえ、聖剣を食らえばただじゃすまないんだぞ」

「あな恐ろしや」


 双子の話を黙って聞いていたアリシアが、気になることがあったのか口を開いた。


「どうして、お二人は聖剣をそれほど恐れているんですか?」

「え? だってそりゃあ、あたしたち魔族ですし――あ」


 口を滑らせた。


「魔族」

「いや、あのっ、これはそのっ……言葉のあやというか、なんというか……」


 えへえへへへへ、と困ったように笑ってごまかそうとするエルナ。まったくごまかせていない。

 エルマとシャロンは苦笑気味にため息をついた。


「やっぱり、そうだったんですね」

「……やっぱり?」


 エルナは意味がわからない、といった顔。


「もしかしたら、魔族なんじゃないかって思っていたんです」

「え、どうしてです……?」

「なんとなく……お話の内容や皆さんの雰囲気から」


 アリシアは言った。確証はなかったようだ。でも、確かに三人の雰囲気は、どことなく聖王国の人間とは違うような異質さを感じさせる。


「ということは、エルナさんとエルマさんの上司であるシャロンさんは、魔族の――魔王国の偉い方……あ、もしかして魔王だったりして」


 シャロンが魔王というのはちょっとしたジョークのつもりだったのだろう。アリシアはお茶目に微笑んで言った。

 しかし、エルナとエルマは顔を引きつらせ、『正解です』と暗に言っていた。


「え。まさか本当にそうなんですか……?」

「あー、そうだとも。吾輩が魔王だ」


 シャロンは諦めて白状した。

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