第61話side勇者パーティー
王都セインティル――その中心部に鎮座する王城の前で馬車は止まった。
客車のドアが開けられ、軍人に降りるように言われた。四人は馬車から降り、軍人たちに取り囲まれた状態で王城内を歩いた。
やがてたどり着いたのは、最上階――国王フィリップの部屋の前だった。両開きの荘厳なドアの内からは、威圧感のような重苦しい何かを感じる。
「国王様、勇者とその仲間、計四人を連れてまいりました」
「入れ」
国王らしく威厳に満ち溢れた声だった。
カインは偉ぶった国王があまり好きではなかった(どちらかというと嫌いだ)。しかし、自分より上の立場の人間なので、できるだけ下手に出るようにしていた。これはいわゆる処世術というやつだ。
ふう、と深呼吸をした。
軍人がドアを開けて、四人に中に入るように促す。
四人は中に入った。王座には国王が座っていて、その隣には大臣が立っている。王妃や王子たちもいる。そして、大量の衛兵が待機している。
「よく来たな」
形だけの労う言葉。
「いえ……」
「どうして、私が貴様らを呼んだかわかるか?」
「……」
どう答えたものか悩んだ。
自分から悪事のことや勇者の称号の剥奪に関して言うのは気が引けた。もしも、万が一違った用件だとしたら、と思うと何も話せない。
カインが黙っていると、国王フィリップが言った。
「貴様らが犯してきた罪の数々について、この私の耳にも入ってきた」
「それは、単なる噂にすぎません!」
ロニーが発言した。噂話なら言い逃れることはたやすい。きっちり否定すれば、なんとかなるかもしれない……。
しかし――。
「言い逃れようとするな。そのうちのいくつかは証拠や証言があるのだ」
「…………」
ロニーは沈痛な表情を浮かべて沈黙した。ここは素直に謝罪すべきだったか――そんなことを思っているのがよくわかる。
「今までの私は甘かった。甘すぎた。貴様らが勇者とその仲間という立場だったから、ある程度の横暴には目をつぶった。しかし、それも我慢の限界だ。貴様らは一向に魔王を始末しない――どころか、魔王国に行くことすらしない」
「それについて、なのですが……」
カインは平伏して言った。
「すぐに魔王を討伐してみせますので、もう少しだけ猶予を――」
「いまさらそんなこと言っても、もう遅いわっ!」
フィリップは立ち上がると、平伏するカインのもとまでやってきて頭を蹴り上げた。
「ぐぇぁ……」
カインは地面をみっともなく転がる。鼻血が床に敷かれたカーペットに流れ落ちる。惨めだ。屈辱的だ。普段なら相手を斬り殺しているところだが、国王相手にそんなことはできない。せめて睨みつけるくらいはしたかったが、それもぐっと我慢した。
アニタが駆けつけて、回復魔法をかけてくれた。
「いまさら何を言っている!? 猶予だとっ!? 今までに散々待ってやっただろうかっ! それなのに貴様らときたら、行く先々で遊びまくって罪ばっか犯しやがってっ! ふざけるのも大概にしろっ!」
馬車の中で考えたすばらしいアイデアは、あっという間に霧散した。許してもらえるどころか、逆に国王の怒りを増幅させてしまった。
(ああ、なんてことだっ……)
カインは嘆く。
このままでは、自分たちは勇者パーティーから、ただのパーティーへと――ただの平民へと落っこちてしまう。勇者から平民へ……。
それだけは避けなければ……しかし、良いアイデアは思いつかない。とりあえず、頑張って必死に謝ってみることにした。
「お願いです。どうかお許しください。勇者をクビにすることだけはどうか――」
「は? 貴様、何を言っている?」
フィリップは呆れた顔をしている。
「……は?」
「勇者をクビ? そんな生ぬるいことだけで済ますと、本気でそう思っているのか?」
「え? では――」
「貴様ら全員死刑だ。ギロチンで首をちょん切ってやる!」
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