第62話side勇者パーティー

「勇者をクビ? そんな生ぬるいことだけで済ますと、本気でそう思っているのか?」

「え? では――」

「貴様ら全員死刑だ。ギロチンで首をちょん切ってやる!」


 国王フィリップからの死刑宣告。

 それは、四人にとって予想だにしない絶望的な衝撃を与えた。全員の顔が蒼白になっている。へなへなと体から力が抜けた。


(し、死刑だって……っ!?)


 なるほど。よく考えてみれば、自分たちは死刑になってもおかしくないくらいには、多くの罪を重ねてきた。しかし、自分たちは勇者パーティーで、だからなんでも許される――そういう驕りがあった。


 死ぬのは嫌だった。

 勇者をクビになるのも嫌だ。

 自分にとって都合の悪いことが起こるのは嫌だ。


 すべてが自分の思い通りにいく、そんなすばらしい世界を生きていると思っていた。

 それはまやかしだ。幻想だ。

 そんな世界は存在しない、と――あのとき、アリシアに別れを告げられたときに思い知ったではないか。


 しかし、今まで生きてきて、すべてが自分の思い通りだったから、自分にとって都合の悪い辛い現実は偽りであると思おうとした。

 カインは挫折や失敗とは縁のない人生を送ってきた。だから、慣れてないのだ。一つの挫折が、一つの失敗が――大きな傷を生む。


(ど、どど、どうすれば……)


 三人の仲間に助けを求める。しかし、三人とも呆然としていて使い物にならない。独力で現状を打破しなければ。


(どうする? どうするどうする? どうすすすすす……)


 フィリップの鋭い双眸が、カインの腰にはいた聖剣を見つめる。


「元勇者カインよ……勇者の証である聖剣を返したまえ」


 そう言って、しわだらけの手を差し出してくる。

 このまま何もしなければ、四人は死ぬ。どれだけ謝罪しても許してはくれない。もうこうなったら、腹をくくるしかない。


(死刑になるくらいなら、逃げてやるっ!)


 三人にアイコンタクトする。

 彼らはカインが何を考えているのか理解したようだ。


(僕にはやらなければいけないことがある……アリシアに会いに行かなければならないんだ……っ!)


 カインが聖剣を渡さないので、フィリップは自らの手で聖剣を回収することにした。聖剣の収められた鞘を、手でガシッと掴む。


「返してもらうぞ」

「これは……聖剣は僕のものだっ!」


 カインは聖剣を引き抜きざまに、逆袈裟に斬り上げた。

 聖剣の淡く光り輝いた刀身が、フィリップの体を深々と斬り裂く。溢れ出る血。信じられぬ、と目を見開きながら、フィリップは仰向けに倒れた。死んだのだ。


「は、はは……ざまあみやがれっ!」


 カインはフィリップを何度も蹴ってやった。

 後々のことなど考えない。刹那的に生きるのだ。嫌いだったフィリップを殺すことができたので、気分は爽快だった。自分たちはこれから逃亡者になるのだ。今まで、散々罪を犯してきた。国王殺しという大罪を犯したところで、罪が一つ増えたくらいのものだ。


「こ、国王様!」

「カイン、貴様なんてことを!」

「こいつらを殺せ!」

「串刺しにしてやるぞ!」


 怒号が飛び交う中、四人は動き出した。

 四人を捕まえようとする――あるいは、殺そうとする――衛兵たちを殺しまくりながら、部屋から飛び出す。そのまま廊下を駆け抜け、階段を下り、王城から脱出した。

 王城から出てきた四人に驚いている軍人を皆殺しにし、馬車を奪うと客車に乗り込んだ。そして、御者を脅して馬車を動かせた。


「ツヴァインに向かえ」

「ですが、王都からツヴァインまではかなり遠――」

「僕の命令に従えないというのなら、殺す」

「わ、わかりました……」


 御者は青ざめた顔で頷くと、ツヴァインに向かって馬を走らせる。


 こうして、四人の身分は『勇者パーティー』から『指名手配犯』へと変化を遂げたのだった――。

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