第59話

「――なるほど」


 シャロンは腕組みして二人の話を聞いていた。

 エルナとエルマが話したのは、カインがシェリルを殺したこと、その際にカインも重傷を負ったこと(現在は完治している?)、勇者パーティーがシェリル宅に放火し、それを二人が消火したこと、やってきた憲兵に放火シーンをおさめた録画結晶を渡したこと。

 それから、勇者パーティーの身柄が憲兵から軍へと引き渡され、馬車で王都セインティルへと移送されたこと――。


「以上、報告終わりですっ」


 俺が一番驚いたのは、やはりシェリルが殺されたことだった。

 シェリルは俺を裏切って、カインのもとへと行った。しかし、そのカインに裏切られ――というか捨てられ(?)――失意の果てに奴を殺そうとした。


 カインにとって大切なのはアリシアであり、アリシア以外は等しく低い(限りなく低い)価値しかない。シェリルはそのことをわかってなかったのだろうか? それとも、わかったうえで付き合い、自分は他の人とは違う――カインにとって価値ある人間だ、とでも思ったのだろうか?

 わからない。でも、何も考えずに付き合っていたとは考えにくい。シェリルは馬鹿ではなかった。少なくとも、俺よりは賢い人間だ。


 死んでしまった今となっては、シェリルに聞く方法はない。聞くことはできない。死者は何も語らないんだ。

 彼女は最後に何を思ったのか。

 自分の人生最後の瞬間、どのようなことを考え亡くなったのか――。


「ふぅむ」


 シャロンは興味深そうに唸った。


「奴らは王都へ移送されたのか。面白い」

「国王に呼び出されたそうです」


 エルマは平板な声で言った。


「どういった目的なんでしょうね?」


 エルナはシャロンに尋ねた。


「考えられるのは……」シャロンは考えながら言う。「……勇者の称号の剥奪、あるいは勇者パーティーの処刑……少なくとも、良い意味ではないだろうな」

「あいつらがひどい目に遭うのは見ものです。楽しみですね」

「いや、カインが勇者の称号を剥奪されるのは困るし、処刑されるのも困る」

「どうしてですか?」


 エルナは尋ねる。説明を求めている。


「聖剣を没収されたら、プロジェ――んんっ、今までの諸々が台無しになる。他の奴が勇者になったら、また一からやり直しだ」

「ははあ、なるほど」

「どうしますか?」エルマは言った。「癪ではありますが、勇者たちが裁かれないようにいくらか手助けでもしますか?」

「いや……」


 手助けなんて嫌だ、と言いたげに首を振った。


「放っておけ。どうせ奴らのことだ。罰を与えられそうになったら、意地でも抵抗して逃げるに決まっている」

「どう抵抗しますかね?」

「国王をぶっ殺しちゃったりしちゃうんじゃないですか?」


 エルナはそんなことを言って笑った。ジョークのつもりらしい。


「案外、あり得なくはない」


 シャロンは真面目に言った。

 クエスチョンマークを浮かべながら話を聞いていたアリシアは、俺を見て微笑みながら首を傾げた。俺も微笑んで首を傾げてみた。


 さて、カインたちはどうなるのか?

 そのうち、ツヴァインに何らかの情報が流れてくるだろう。それまで、のんびりと待っていようじゃないか。

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