第58話

 俺とシャロンがアリシア宅に出向いて、お茶を飲みながらのんびりお喋りしていると、ドアノッカーが鳴らされた。またもや通信結晶を届けにやってきたのだろうか、なんて思っていたのだが……。


「……おや?」


 ドアを開けて応対したアリシアが首を傾げた。

 知らない男女二人組が立っていた。

 女は赤い髪で男は青い髪。顔立ちは似ているが、まとった雰囲気は随分異なっている。二人とも二〇歳前後に見える。


「どうもですっ」女のほうが言った。

「こんにちは」男のほうが言った。

「えっと……どちら様ですか?」


 アリシアは戸惑いながら尋ねた。彼女の知り合いというわけではないようだ。俺の知り合いでもない。となると、見知らぬ人かシャロンの知り合いか……。


「おおっ。エルナとエルマではないか!」


 シャロンが立ち上がって、二人のもとへと向かう。

 エルナが女のほうで、エルマが男のほうか? 似た名前と顔立ちから察するに、二人は双子なんじゃないかと思う。で、おそらくだがシャロンの部下だろう。


「入れ入れ」


 まるで自分の家のようにシャロンは言った。


「では、お邪魔します」とエルナ。

「お邪魔します」とエルマ。


 シャロンに一礼してから、二人は遠慮なく家の中へと入ってくる。空いている椅子に腰を下ろそうとするが、一つしか空いてなかったので、椅子の取り合いになった。


「姉に譲ってください」

「姉なら弟に譲るべきだ」


 最終的に、二人は一つの椅子に腰かけることになった。アリシアが椅子を譲ろうとしたが、それは断っていた。


「初めまして。ま――シャロン様の部下のエルナです」

「同じく初めまして。ま――シャロン様の部下のエルマだ」


 それから、二人同時に、


「「どうぞよろしく」」


『魔王様』じゃなくて『シャロン様』と言ったのは、シャロンが魔王であるとアリシアが知らないからだろう。確か、アリシアには『冒険者だ』と名乗っていたはずだ。うん、そうだったな。竹馬の友の冒険者。

 ん? でも……。


「シャロンさんの、部下……?」

「そうだ。吾輩の部下だ!」


 それ以上の追及はさせぬぞ、といった気迫で言った。何もやましいことなどないぞ、といった堂々たる態度だった。

 もういっそのこと、『実はシャロンは魔王国の女王――魔王なんだ』と明かしてしまってもいいんじゃないか、と思う。それを知ったところで、いまさらアリシアの態度は大きく変わらないだろう。


 まあ、いいや。

 それにしても、シャロンの部下二人は一体何しにやってきたのだろうか? 何らかの報告をしに来たのか、それともただ単にシャロンに会いに来たのか、はたまた俺とアリシアに自己紹介でもしに来たのか……?


「で、今日は何しに来たんだ?」

「シャロン様に報告しにまいりましたっ」


 エルナは元気に言った。


「報告? ということは、奴に何か動きがあったのか?」

「はい。この数日でいろいろとありましたよ」


 シャロンは不敵に笑うと、


「聞かせてもらおう」


 と、言った。

 エルナとエルマはお茶を一口飲むと話し始めた――。

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