第57話side勇者パーティー

「彼らの身柄を我々に引き渡してくれませんか?」

「……なんですと?」


 憲兵たちがにわかに殺気立った。

 しかし、軍人たちはまったく気にも留めない。代表者が仲間たちに向かって、『どうする?』と首を傾げた。彼らは黙って軽く頷いた。そのジェスチャーが、どういう意味なのかは、四人も――そして、憲兵たちにもわからない。


 軍人の一人が、憲兵に何やら耳打ちする。

 すると、態度が一変して、はちきれんばかりに膨らんだ殺気が急速に萎んでいった。これを四人は『自分たちを逮捕することを諦めた』のだと勝手に察した。その察しが正しいものかどうかはわからない。


「わかりました」


 憲兵たちは姿勢を正してそう言うと、酒場から去っていった。


(やれやれ……よくわからないけど助かったな)


 ほっと一息つき安堵するカイン。

 しかし、一難去ってまた一難。今度は軍人たちが四人を取り囲んだ。だがそれでも、彼らは軍人が味方なのだと思っていた。


「助かっ――」

「これから皆様には王都セインティルへと向かってもらいます」


 軍人は淡々とした口調で言った。

 王都とは聖王国の中心地であり、国王が座す地でもある。現在地からはかなり遠く、アリシアがいるツヴァインのほうが近いくらいだ。


(どうして、僕たちが王都に……?)


 わけがわからない。カインはただただ混乱した。

 王都に行くのは嫌だった。カインはアリシアに会うために、これからツヴァインへと向かわなければならないのだ。最優先事項はアリシアであり、国王も魔王も二の次だ。


(ん? 王都、国王……)


 王都というと国王のイメージがある。

 それは、王都に行くのは、国王に呼び出されたときがほとんどだったからだ。だから、『王都』という言葉から『国王』を連想してしまった。


 聖王国国軍の人間から、『王都に向かえ』と言われた。それはほぼ間違いなく、『国王による呼び出し』である。

 案の定、軍人はこのように言った。


「これは国王様のご命令です。皆様に一切の拒否権はありません」


 国王に呼び出された。それ自体は問題ではない。問題なのは、どういった理由で呼び出されたかだ。カインの能天気ポジティブシンキングでも、恩賞を与えられるとは露ほども思わない。

 とすると――。


「……どういった理由で国王が?」

「さあ、我々は知りません」


 はぐらかされた。

 表情から察するに、事情をまったく知らないということはない。知っていて、あえて隠している――いや、意地悪して教えてくれないのだ。腹が立った。


「あんたらは、俺たちを助けてくれたんじゃないのか?」


 ダリルが尋ねると、軍人たちは小馬鹿にするように笑った。


「助ける? どうして、我々があなた方を助けなければならないのですか?」

「じゃあ――」

「我々はただ、国王様のご命令通りに、あなたたちを王都へと連れていく、それだけです」


 丁寧に、はっきりと、言葉を区切って教えてくれた。小さな子供に言葉を教えてあげるかのように。


「もう一度言いますよ。貴様らに拒否権はない。今すぐ王都に向かってもらう」


 段々と口調が荒くなっていった。こっちが素なのかもしれない。

 四人は軍人たちに取り囲まれた状態で、酒場から出た。逃亡は許されない。


 外には馬車が数台止まっていた。そのうちの一つの客車に、四人は突き飛ばされるかのように乱暴に押し込まれ、すぐに馬車が動き出した。

 狭い客車の中で、カインは歯ぎしりをした。


(一刻も早く、アリシアのもとへと向かわなければならないというのに……)


 カインがアリシアに再会するのは、ずっとずっと先のことになるのかもしれない。いや、もしかしたら、二度と会うことはないのかもしれない――。

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