第56話side勇者パーティー

「言っておくが、逮捕するのは勇者カインだけじゃないぞ」


 憲兵は、余裕綽々の勇者の仲間三人に向かって言った。


「お前たち、勇者パーティー四人全員だ」


 四人全員――それまで余裕があった三人も、大いに慌てふためきだした。

 対岸の火事だと思っていたら、自分たちにも火の粉が飛んできて、ぼうぼう燃え出したといったところか。


「お前らがシェリルの家に放火するところは、これにばっちり記録されている」

「あ、そうそう。放火といえば、貴様らの犯行を録画してくれた方が火を消してくれて、幸いボヤで済んだんだったな」

「よかったなぁ」


 ねっとりといやらしい口調で言ってきた。

 ボヤで済んだ。大規模な火事になっていない。だから、こうして憲兵たちが自分たちの元へとやってきたのか。


(――ということはぁ……シェリルの死体は燃えてないのかっ!?)


 すべてを抹消隠滅することはかなわなかった。

 それどころか、何者かに放火の証拠をとられてしまった。


「畜生っ! 誰だ、録画結晶なんて使った奴はっ!?」


 カインは発狂し、叫んだ。


「そんなの言うわけないだろ」

「さあ、逮捕だ」


 手錠をかけようとする憲兵の手を、カインは思い切り振り払った。そして、憲兵を斬り殺そうと聖剣の柄に手をかけたが、仲間たちによって止められた。


「カイン、やめなさい。憲兵を殺すのはさすがにまずい」とロニー。

「これ以上罪を重くすると、死刑になってしまうかもしれません」とアニタ。

「ここは耐えるしかねえよ……」とダリル。


 カインは柄から手を放した。激情からか手が震えている。

 憲兵を全員殺すこと自体は簡単だ。しかし、それをやってしまうと、取り返しがつかない事態になる。アニタの言う通り、死刑になる可能性だってある。

 もちろん、勇者の称号は剥奪、聖剣も没収――そしてカインが勇者だったこと、ロニー、アニタ、ダリルがその仲間だったことも歴史からは葬られ、なかったことにされる。


(この僕が……逮捕される……?)


 屈辱的だった。

 しかし、耐えるしかない。今はただ、この屈辱に耐えるほかないのだ。

 耐えていれば、いつか道は開ける。誰かが彼らの罪をうまいこと揉み消してくれるかもしれない。


 憲兵が今度こそ、カインに手錠をかけようとしたところで――。


「待ってください」


 その声は酒場の入口から聞こえた。

 誰だろうか、と憲兵たちが振り返って、声の主を見遣った。


 軍服を着た男たちが複数――憲兵と同程度の人数――立っていた。聖王国国軍の人間だ。国軍は憲兵より立場が上である。憲兵たちはかしこまった態度で話しかけた。


「なんでしょうか?」

「彼らを――」


 軍人は四人を一瞥してから、


「――逮捕されるのですか?」

「ええ。そうですが……」


 憲兵は慎重に答えた。国軍の目的がわからなかった。


「どのような罪で?」

「放火と殺人です」

「ふむ……」


 軍人は頷くと、酒場の中をゆっくりと歩き出した。

 勇者パーティー四人も憲兵たちと同じように、国軍がやってきた目的がわからなかった。四人とも不安を感じながら、どちらだろうかと考える。


 敵か?

 味方か?

 表情がなく淡々としているので不気味だった。どちらかわからない。しかし、『待ってください』と言うのだから、四人の逮捕に待ったをかけたと言ってもいいのでは?

 だとすると――。


(国軍は僕たちの味方かもしれない!)


 希望が降ってわいた。

 一度、ポジティブに考えると、一気に考えがそちらに傾いていく。『味方かもしれない』から『味方に違いない』――『絶対に味方だ』と、自分にとって都合のいい考えを抱いてしまう。自分の考えが絶対的に正しいと思ってしまう。


 カインは先ほどまで憲兵たちが浮かべていた笑みを装着すると、『ざまあみろ』と内心で呟きながら、彼らのことを睨みつけた。他の三人も思考回路がカインに近いのか、同様の結論にたどり着いている。

 やがて静止すると、軍人は言った。


「彼らの身柄を我々に引き渡してくれませんか?」

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