第55話side勇者パーティー

 勇者パーティー四人が酒を飲んでいると、大勢の憲兵が酒場にやってきて、彼らを取り囲んだ。何やら剣吞な雰囲気だ。酒場にいた他の客は驚きつつも気になるのか、事の成り行きをじっと見守っている。


「貴様らが勇者とその仲間――勇者パーティーで間違いないな?」

「……僕たちに何か用?」


 カインは不機嫌なのを隠そうともしない。

 表情にはそれほど出ていないが、内心では憲兵が自分たちの元へやってきたことに対してとても驚いている。


「シェリルという女性を知っているな?」

「さあ、誰だったかな?」

「とぼけるな。貴様と同棲していた女だろうが」

「ああ、そうだった」


 とぼけたり、嘘をついたりするのは、避けたほうがいいかもしれない。

 憲兵たちはどうやら、カインのことをある程度調べているようだ。そのある程度がどの程度なのか――それによって対応も変わる。


(まさか、僕がシェリルを殺ったということがバレた……? それとも、放火の件か……? いや、でも、誰にも目撃されてないはずだし、それにシェリルの死体は焼かれて骨になっているはず……)


 放火してから何時間か経っていた。

 火事は今頃、周囲の家屋を巻き込んで、大規模なものになっているはずだ。

 その対応で、憲兵なども忙しいはず……。それなのに、シェリルのことをカインに聞きに来た。これは一体――。


(どういう、ことだ……?)


 何かがどこかで狂ったのだ。

 それが何なのか。何が原因で狂ってしまったのか……?

 わからない。


「率直に言おう――貴様、シェリルを殺したな?」


 動揺から、手に持ったジョッキを落としてしまった。

 椅子からひっくり返りそうになったので、逆に重心を前方へと持っていった結果、勢いよく立ち上がることになった。

 カインは憲兵を睨みつけ抗議しながら、


「な、な、何を言っているんだね? 意味がよくさっぱりめちゃくちゃまったくよくわからないな……」


 動揺のあまり、声が上擦った。鳥の首を絞めたような、気色の悪い声だった。

 憲兵たちは『当たりだな』とでも言いたげに口角をあげ、『わかりやすくて助かるよ』といった感じで鼻で笑った。


 シェリル宅に放火したのが勇者パーティーだということはわかっているが、シェリルを殺した犯人が誰なのかはわかってないし、確証がない。確証はないが――状況的に限りなく怪しいのは、放火犯であり、シェリルと同棲していたカインだ。


 そう、確証はない。

 けれど、このあからさますぎる反応を見れば、火を見るよりも明らかだ。

 ――黒だ。


「カインがシェリルを殺したという証拠はあるのですか?」


 ロニーは落ち着いて、憲兵に尋ねた。

 憲兵の一人がすっと録画結晶を取り出して、それを見せつけた。

 そこに、カインがシェリルを殺した証拠は記録されていない。だが、録画結晶を見せつけるだけでも一定以上の効果は見込める。


「言っておくが、逮捕するのは勇者カインだけじゃないぞ」


 憲兵は、余裕綽々の勇者の仲間三人に向かって言った。


「お前たち、勇者パーティー四人全員だ」

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