第53話side魔王部下

「ふむ。どうやら彼女は何者かに殺されたようだな……」


 やってきた憲兵が、シェリルの死体を観察して言った。

 それは、どう見ても他殺体だった。自殺や事故でこんな傷がつくはずがない。


「そして、その後犯人は放火した、と」

「君たちは――」


 と、別の憲兵がエルナとエルマに尋ねる。


「――この家に放火した者を見たのか?」

「はい」エルナは答える。「たまたま偶然、通りかかって……彼と二人で放火魔たちの様子を窺っていました」


『たまたま』『偶然』――と強調した。

 自分たちは決して彼らのことを見張っていたわけではない、と。

 しかし、そんなことを言わなくても、憲兵たちは二人のことを特に怪しんではいなかった。怪しむ理由がないからだ。


「放火魔たち?」憲兵は言った。「犯人は複数なのか?」

「はい。四人でした」

「人相とか、わかるかい?」

「ええ。――というより、犯人がどこの誰かもわかってますっ」

「な、なんだってっ!?」


 憲兵のリアクションは見事なものだった。

 エルナは嬉しくなって、少し焦らすように言葉を溜めてから、ゆっくりと重大発表するかのように言った。


「放火魔の正体は……なんと、勇者パーティーだったのですっ!」

「なにぃ!? 本当かい、そいつは?」

「ええ。間違いないです」


 エルナは自信満々に頷いた。


「ううむ……。あの勇者たちが……」

「勇者と言えば、あいつらの悪い噂話をいくつか聞いたことがあるな」

「ああ、俺もあるな……でも噂だろ?」

「いやあ、でも、火のない所に煙は立たぬ、って言うしなあ」


 憲兵たちは小声で話し合っている。

 エルナの発言を信じる方向へと向かっているのは明らかだった。エルナとエルマは二人して、ひっそりとほくそ笑んだ。


「その……何か、証拠になるようなものはないか?」

「さすがに勇者たちを、何の証拠もなく罰することはできないからな……」


 証拠がなければ、どうとでも言い逃れることができてしまう。その辺の市民を捕まえるのとはわけが違う。相手はあの勇者パーティーなのだ。証拠がなければ、逆に憲兵たちが罰せられかねない。


「証拠なら……」


 と、エルマは録画結晶を取り出し、


「ありますっ」


 それをエルナが指差して強調させた。


「ん、それは……録画結晶?」

「はい、そうですね」

「まさか、それに放火する場面をおさめてあるのか?」

「はい、そうです」

「……ところで、どうしてそんな代物を君たちは持っているのかな?」


 もう一人の憲兵が尋ねた。

 ぎくっ、とエルナは汗を流す。


「ええっと、それはぁ……」


 エルナは助けを求めるように、頼れる(?)エルマを見た。

 ふむ、とエルマは冷静に頷くと、


「これは……たまたま持っていたのです。この録画結晶は主から預かったものなのですが、奴ら――勇者パーティーの看過できぬ犯罪を目の当たりにして、我々は義憤に駆られ、犯罪の証拠として録画した次第であります」


 明らかにエルマの口調はおかしかったが、幸い憲兵たちは不信感を抱いたりはしなかった。むしろ、若い二人の正義感に感動した様子だった。


「すばらしい。感動したぞ!」

「よしっ! ではさっそく、勇者パーティーを捕まえに行こうじゃないか!」


 ちょろいなあ、と二人は思った。

 エルマは憲兵に録画結晶を渡そうとして、


「あ……念のためにコピーをとっておいたほうがいいですね」

「むっ……? コピーするための録画結晶なんてあるのか?」

「ええ。我が主から預かったものがいくつかありまして……」


 エルマは録画のコピーをとると、録画結晶を一つ憲兵に渡した。

 二人の主がどのような人物なのか、憲兵たちは尋ねなかった。尋ねたところで、馬鹿正直に『魔王様です』などと言うつもりはなかったが。


「では、失礼します」


 エルナとエルマは軽く一礼すると、シェリル宅から素早く立ち去った。

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