第51話side勇者
「すごいことになってますね……」
シェリル宅に入ると、ロニーは家の様子を確認しながら言った。
家の中はハリケーンが発生したかのように、ひどいことになっている。それだけではない。カインとシェリルの血が点在していて、空気に血の匂いが染み付いている。そして、シェリルの死体――。
「どうやって、あれを処理するべきだろう?」
カインは三人に意見を求めた。
「あー……死体を処理すんのめんどくせえし、強盗に襲われたことにしようぜ」
ダリルは腕を組んで言った。
「強盗か……」
強盗に襲われたことにするなら、それなりの偽装工作をしなければならない。金目の物を奪う。それから……。
(いや、でも……強盗の犯行だと、この惨状を説明できなくないか?)
シェリルが強盗に抵抗して、調度品を投げ飛ばしたりして破損させた。ちょっと無理がある。強盗が金目の物を探す過程で荒らした――というのもやはり無理がある。
「うーむ……」
「ネックなのはこの惨状ですね……」ロニーは言った。「死体を処理するだけじゃ終わらない。この家も綺麗に掃除しなければ……」
「火事はどうでしょうか?」
アニタは思いついた案を述べた。
「死体も家も全部燃やしてしまえばいいのではないでしょうか?」
「火事の原因は?」
カインは尋ねた。自然発火はさすがにない。
「放火魔の犯行か……」とロニー。「あるいは、料理の最中にミスをして火事になった――つまり事故、などはどうですかね?」
「いいね」
火事なら楽だし、すべてを燃やし尽くすことができる。たとえ、カインにとって不都合な何かがあったとしても、燃え尽きて灰になってしまえば、抹消したも同然。
「放火魔の犯行、ということにしようか」
◇
外に出る。
暗くて静かで人気がない。
もしも、火をつけるところを誰かに見られてしまったら、口封じをしなければならない。四人の犯行であると露呈すると、非常にまずいからだ。殺人だけではなく、プラスで放火の罪まで上乗せになるのだ。
辺りに誰もいないことを確認すると――。
「――〈着火:イグニッション〉」
カインは小声で魔法を発動させた。指先から小さな火が出る。それを家の外壁に当てる。家は木製なので、燃やすことができる。火の勢いを強めると、外壁がぼうぼうと燃え出した。
「よしっ」
「誰かに見つかる前に、さっさと撤退するとしましょう」
ロニーがカインの腕を引っ張る。
「ちゃんと燃え尽きるのを、この目で確かめておいたほうがいいんじゃねえのか?」
と、ダリルが言った。
「そんなのんびりしていて、近隣住民にでも見つかったら面倒なことになりますよ」
ロニーは誰かに放火を目撃されることを、異常に恐れている――いや、危険視している。それはカインも同じだ。早く立ち去ったほうがいい。火が広がって、近隣の注目を集める前に――。
「行こう」
放火魔もとい勇者パーティー四人は、シェリル宅から立ち去った。彼らは誰にも犯行を目撃されていないと思っていたが――
――それは大きな間違いだった。
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