第50話side勇者
カインが目を覚ますと、アニタの家にはダリルとロニーもいた。パーティーの仲間三人が集まったというわけだ。アニタが二人を呼んだのだろう。心配して様子を見に来たのだと思うが、それが嬉しいかと言われると微妙なところだ。
寝顔を見られたのはどうでもいいとして、重傷を負ったところを見られるのは、恥ずかしいというか、情けないような気持ちがある。
ゆっくりと上体を起こす。
体には包帯がぐるぐる巻かれていて、ミイラみたいだった。口を――舌を指で触ってみる。治っている。会話に一切の支障はないだろう。続いて、股間部に手を触れる。よくわからないが、大体治っていると思う。完治は……まだしてないか……?
「危ないところでしたね」
アニタは言った。ベッドのそばに椅子を置いて、そこで本を読んでいた。もちろん、服はちゃんと着ている。
「わたくしのところに来るのがもう少し遅かったら、今ごろ死体になっていたかもしれません」
と、冗談めかして言った。
死体になった自分を想像して、カインはぞっとした。
「傷は……完治したのかな?」
「大体は治ってますが、何日かは安静にしておいたほうがいいかもしれませんね」
「よぉ、カイン。その傷、一体誰にやられたんだよ? 股間にも食らったんだろ? やっぱ、あれか? 女か? 女にやられたのか?」
にやにやして尋ねてくるダリルに、カインは多少不愉快になりながらも、「……まあね」と素直に頷いた。
「へえ、どの女だ?」
「シェリルだ」
「ああ……あの、綺麗な姉ちゃんか。――で、どうなったんだ?」
「そうだ。三人にはそのことを相談したいと思ってたんだよ」
「そのこと?」
ロニーが穏やかな顔を歪ませた。
「実は……シェリルを殺ってしまったんだ……」
「『やってしまった』って……まさか、殺してしまったんですかっ!?」
「……ああ」
そのときのことを思い出して、カインは苦々しい顔をする。心なしか、口の中に苦味を感じる。気のせいだ。思ったより、メンタルにきてるようだ。
「なんてことを……」
「そんな顔するなよ。君だって人を殺したことあるだろ?」
「人を殺したことが問題というわけではないのです。問題なのは、近しい人物を殺してしまった、ということです。もしも、シェリルさんを殺したのがカインだとバレてしまったら――」
ロニーはそこでため息をつくと、茶を一口飲んだ。
「――あなたは勇者から一転して、犯罪者ですよ」
「バレなきゃ、何の問題もない。そうだろ?」
「……ええ。まあ、そうですね」ロニーは頷いた。「シェリルさんの死体はどこに?」
「彼女の家だ」
「今すぐ向かいましょう」
カインはアニタの家に置いてあった、誰のものかわからない服を着た。普通に歩くことはできるが、まだ本調子ではないようだ。少々気だるさを感じる。
四人はシェリルの死体を処理するために、彼女の家へと向かった。
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