第7話
「計画の名はずばり――『プロジェクトNTR』」
俺は思わず吹き出しそうになったが、なんとかそれは堪えた。
計画にわざわざ名前をつけているのかとか、とりあえず『プロジェクト』とかつけておけば、それっぽくなるだろ的な発想なのかとか、まあいろいろと気になる箇所はあるが、それはさておき――。
NTR?
何かの頭文字だろうか?
「NTRって何?」
「『NE・TO・RU』だ」
「はあ……ねとる――寝取る」
俺は恋人のシェリルを勇者カインに寝取られた。そのカインから寝取るって……一体誰を……?
「そう、寝取るのだ」
「誰を?」
「勇者の恋人を」
「誰が?」
「お前が、だ」
シャロンは俺を指差した――というか、指で突き刺してきた。
「女の吾輩が寝取るのは、いささか――というか、かなり難易度が高いだろ? だから、男なおかつ人間のお前だ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
急な展開に、脳の処理が追い付かない。
誰が? ――俺が。
何を? ――カインの恋人を。
どうする? ――寝取る。
なぜ? ――恋人を寝取られたから。その復讐、お返し。
「いろいろツッコミどころがあるんだが……」
「なんだ?」
シャロンは腕を組んだ。それだけで、魔王らしい尊厳がにじみ出る。
「えーっと……何から質問するか……」俺は考える。「あー、まず初めに、カインに特定の恋人っているのか?」
「いる」シャロンは断言した。「そこはちゃんと調査したからな。間違いない」
「それは、寝取られた俺の恋人――シェリルじゃなくて?」
「あんなの勇者にとってただの遊びだ」
……ただの遊び。
そんな軽い感覚で恋人を寝取られるとか、たまったもんじゃない。そして、そんなお遊びになびいたシェリルに対しても、複雑なもやもやとした感情。
シェリルは自分が遊び相手だと知っているのだろうか? それを承知で、それでも俺ではなくカインを選んだのか? あるいは、自分が勇者の正式な恋人になれると、そう信じているのだろうか?
どちらかはわからない。本人に聞いてみないとわからない。けれど、そんな機会は訪れないだろうし、訪れたとしてもあまり聞きたくはない。
「勇者カインはあのルックスに、『勇者』という圧倒的な付加価値もある。だから、モテまくっているし、遊びまくっている。来るもの拒まず、なおかつ、欲しいものはむりやりにでも奪い取る」
むりやりにでも奪い取る――俺のケースのように、寝取る以外にも、もっと非道で野蛮なことをしてるのか……?
だがな、とシャロンは続ける。
「それらはしょせん、遊びにすぎない。本命は別にいるのだ」
「その本命を、俺が寝取る……」
「そうだ。勇者に恋人を寝取られたんだから、代わりに勇者の恋人を寝取ってやればいい。それはいわば――等価交換というものだ」
ごくり、と俺は唾を飲み込んだ。
奴の恋人を俺が寝取ったら、奴は一体どんな顔をするだろう? 考えただけで、ゾクゾクとしてくる。
等価交換。そう、これは等価交換であり、正当な復讐だ。
クズとはいえ、勇者であるカインを俺が殺すのは、いささかやりすぎだと思うが、恋人を寝取るくらいだったら……自業自得、因果応報。
「どうだ? 乗り気になってきただろう?」
悪魔のようなささやきに、俺もまた悪魔のような笑みで頷いた。
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