第6話

「まず初めに、吾輩はお前とは違って、勇者に復讐をしたいというわけではない。だが、できれば奴を殺したい、殺せなくても勇者としての役目を果たせなくなるようにはしたい」

「勇者としての役目って――」


 勇者の役目。

 国を、世界を救う。

 つまり、それは――。


「――魔王を、倒す」

「その通り」シャロンは頷いた。「で、どうして吾輩が勇者を殺したいか、なんとなく予想はつくか?」


 謎の美女シャロン。

 綺麗すぎて人間味を感じないというか、人間ではない存在のような――そんなふうに、先ほど感じた。

 それは、間違いではないのでは?

 異常なまでに艶やかな金髪、雪のように白い肌、完璧に限りなく近い造形――彼女が人間、亜人じゃないとすればそれは――。


「もしかして、あんた……魔族か?」

「正解」


 余裕の笑みを浮かべるシャロン。


「魔族だから、その天敵である勇者を――魔王を殺さんとする勇者を殺したがっている」

「うん、存外馬鹿ではないようだな」


 褒められたのだろうか?

 褒めたにしても、ずいぶん上から目線だなあ、と思った。シャロンはただの一般的な魔族じゃなくて、俗な言い方をすると『偉い人』なのかもしれない。


「ここまで聞いてどうだ?」シャロンは言った。「吾輩が魔族だと知って、それでも吾輩の奴隷――じゃなくて協力者となって、勇者に復讐を遂げたいか?」

「ああ」俺は頷いた。「あんたが魔族だろうと一向に構わない。俺は別に魔族を恨んじゃいないし、あんたからも今のところ酷い目にはあってないからな」

「よろしい」


 シャロンはにんまりと笑みを浮かべると、立ち上がって俺に握手を求めた。俺は無警戒に握手をした。幸い、何か魔法とか呪いをかけられたりすることはなかった。


「では改めて――」


 ぎゅっと力強く俺の手を握って、シャロンは言った。


「吾輩は魔王シャロン」

「しがない冒険者のルークだ」

「これからよろしく」

「ああ。こちらこそ、よろしく…………ん?」

「どうかしたか?」


 あれ、なんか違和感が……。気のせいかな? いや、気のせいじゃない。

 えっと、今……この人は自分のことなんて言った?

 わがはいはまおうしゃろん。吾輩は魔王シャロン。魔王。魔王。魔王……?


「は? 魔王!?」

「ああ、そうだとも。それがどうかしたか?」

「いや、魔王ってことは、その……魔王国のトップってこと、か?」

「ああ、いかにも。吾輩こそが魔王国の長たる者――魔王である!」


 シャロンは大きく胸を張って、高らかに自慢げに言った。グラマラスなボディー。どう見ても女性にしか見えないが、『魔王』ということは男? いや、魔王というのは称号のようなもので、男女両方に用いられるのか?


「シャロンって女だよな? もしかして、実は男だったりしない?」


 そう尋ねた瞬間、鋭いビンタが俺の頬を打ち抜いた。

 あうっ!?


「魔王は、女にも用いられるのだ。吾輩は女である」

「ああ、そうかい……」


 おそらく真っ赤になっているであろう頬を撫でた。ひりひりとして痛い。動きが速すぎて何も見えなかった。


「さてと」


 と言って、シャロンはベッドに腰かけた。

 俺も同じようにベッドに腰かけたが、何も言われなかった。


「我が協力者ルークよ。それでは、我が計画の全容を話そうではないか」


 ふむふむ、と。

 俺は姿勢を正した。

 一言一句を聞き逃さないように、しっかりと聞こう。


「計画の名はずばり――『プロジェクトNTR』」


 俺は思わず吹き出しそうになったが、なんとかそれは堪えた。

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